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シーク・セルフ・オンライン  作者: 士月十旭
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いろいろやってみよう!

無事買取を済ませて、個室に引きこもることをシシィに伝え3階に上がる。


まだ調理設備とテーブルセットしかない殺風景な自分の城に戻った俺はまず手を洗って考える。

何から手をつけようか。


苦い回復アイテムも水と牛乳以外の飲み物もどうにかしたい。

飲み物の方は果物でジュースがつくれるけど、もっと手軽なもので何とかしたい。

薬草とポーションは完全に苦味が取れなくても気にならないように出来ればいいだけで。



記憶の中にあるほどよい苦味を持つ飲食物を探り、ひとつだけ可能性がありそうなモノを試してみる。


薬草をいくつか取り出し軽く水洗い。水気をしっかりと切り、熱したフライパンで焦げないように煎っていく。

水分が抜け乾燥した薬草を置いてある中で一番大きな皿全体に広げ、あら熱をとる。


熱が抜けるまでの間に冒険者の服(上)と裁縫道具セットを用意する。

服を分解して、小さめの四角を1枚切る。余りはバンダナ大で取れる分はサイズに合わせ切り、本当の切れ端も一応取っておく。

しまう時に見た切れ端のアイテム名は「ぼろ布」になっていた。

最初に切った布を3分の1をずらす形で袋状に縫い合わせ、余らせた部分でフタを出来るように端を縫っていく。

小さな袋が1つ出来る。


大丈夫だと思うけど、念のためにつくった袋を熱湯に潜らせ消毒する。

取り出した袋の熱を冷まし、同じように冷ましてた薬草を軽く手のひらで揉んで細かくする。

それを袋半分の量になるくらいに入れてこぼれないようにしっかりフタを被せる。


やかんがないから小さい片手鍋にお湯を沸かし直す。

どちらに入れるか迷い、今回はカップの中薬草入りの袋を入れる。そこへ跳ねさせないようゆっくりとお湯を注ぐ。

少し置いてほどよく色が出たら袋を取り出す。


カップの中には緑に色ついたお湯。

香りはいい。見本に近い。

問題は味で、火傷しないために十二分に息を吹きかけ冷ます。

大丈夫そうになったところで一口。


「飲める」


飲み物のかたちとしては合格でいいと思う。飲んでる最中も後味にも嫌な苦味はない。

あとは効果が活きてれば解決する。


もう一杯同じやり方で淹れ直す。

そしてすぐ鑑定してみる。


『薬草茶:薬草を茶葉にして淹れられた草茶。少し渋みが残る。

 効果:HP15%回復

 製作者:タタ』


煎ることで凝縮されるのか薬草そのままと初級ポーションよりも効果がある。

試しに冷めた後にも鑑定をし直したけど内容に変化はなかった。

このままでも十分だけど改良も出来そうだ。



それからいろいろ変えてみた。

薬草を煎る時間。使う薬草の量。注ぐお湯の温度。袋を取り出すまでの時間。各3パターンで組み合わせを変え、淹れては鑑定するをくり返す。

味も重要なので一口ずつは飲まなくちゃいけない。

休憩を挟みながらといっても全組み合わせ調べ終えるころにはお腹がタプタプになっていた。


お腹を犠牲にした分の収穫はあった。

薬草の量とお湯の温度は変えても大きな変化はない。

それより重要なのは共に時間が関係した残りの2つ。

まず煎る時間が、焦がさず葉の色が濃く深い緑になるまで。

茶葉を取り出すタイミングは色が出始めてから40秒くらい経ってから。

そうして淹れられた薬草茶はかなり凄かった。


『薬草茶(極):薬草を茶葉にして丁寧に淹れられた薬草茶。ほどよい苦味と微かな甘味があり後味がすっきりしている。

 効果:HP25%回復

 製作者:タタ』


手間がかかる分効果が凄い。

効果の件とは別に同じ茶葉で何杯まで淹れられるか調べた結果、普通の薬草茶では3杯まで。薬草茶(極)は1杯しか効果が付かなかった。

味も淹れるほど落ちていく。


次に回復するたびお腹をタプタプにしない対策で少し試してみる。



昨日のテストで使った材料の残りは少ないけど、使いたい分はある。

使うのはクッキーの材料。心配なのは牛乳。近い内に入手方法を聞いてみよう。


とりあえず実験で残った茶葉の半分を粉末状になるまでさらに細かくする。

粉末にした方は小麦粉を入れる時に一緒に入れて混ぜる。

残り半分はある程度生地ができた最後に混ぜ込む。

つくった生地が混ざらないように2種類の間に隙間を空けてオーブンで焼く。


焼き上がるまでの間、昨日見つけた4種の状態回復に効果があった草も煎ってみる。

まだお腹は飲める状態じゃないから今は煎るだけ。

4種類煎り終わるころにちょうどクッキーが焼き上がった。



出来たのは全体が淡い緑色のクッキーと不揃いの茶葉がアクセントになっているクッキー。


1枚ずつ試食する。

一色に染まった方はほろ苦いけど全体に馴染んでまろやかな味わい。もうひとつはアクセントの茶葉の苦味が逆に際立って人を選ぶ感じだ。


まだ万人受けしそうな前者の方だけ鑑定する。


『薬茶クッキー:薬草茶の茶葉を練り込んだクッキー。ほろ苦い味わい。

 効果:HP8%回復

 製作者:タタ』


やっぱり混ざりものが多くなると効果が落ちる。そう考えるとクッキーの効果は十分だと思う。


お腹も落ち着いたところで置いておいた4種類の煎った草でお茶を淹れてみたけど味が濃過ぎるというか、苦いし渋いしでとても飲めない。

煎る時間を短めにしてみると、今度は薄い。

茶葉を早めに取り出しても多少緩和されただけでやはり飲めない。

ならばと、浅く煎ったもので淹れる時間の方を長めにしてみる。


だいぶましになってもどこか喉に引っかかるものがある。

持ってる素材の中から使えそうなモノを探し、味を甘くまろやかにして喉によさげなハニービーの蜜玉をカップに1つ落とす。

蜜玉のサイズは角砂糖くらいだったから多過ぎることはないだろう。


蜜玉が溶けきるのを確認して一口。蜜玉は偉大だった。

凄く飲みやすい。

鑑定で観るとちゃんと効果があることが表示される。


出来上がったのは、解毒蜜カドミ茶、痺癒蜜ヒユミ茶、鎮混蜜チコミ茶、活醒蜜イサミ茶となっていた。

味は蜜玉の甘さでより緩和され飲んだ後口には甘味だけが残る。また、元々それぞれの味に違いがないのか差が感じられなかった。

わかりやすく違いが出たのは色。解毒蜜茶が青、痺癒蜜茶はだいだい、鎮混蜜茶が桃色で活醒蜜茶は黄色。

色つきだとしても薄くついた程度なので飲むのに抵抗はないと思う。


何か物足りなくて、状態回復茶それぞれに砂糖を加え煮詰めていく。

粘りけが出てきたら火を止め固まらないように手早く練る。次第に色に白みが増し変化が落ち着いたら棒状に伸ばし丸めてまだ軟らかい内に一口大に切り分ける。


確認するとこれも予想以上のモノになった。

しかし、異常状態の回復用にはならずその前段階での使用になる。

各飴を舐めている間はそれぞれの異常にかかりにくくなるらしい。ただし、かかってしまっては効果はないし複数同時に舐めることはできない。



いったん区切りにして、アランの都合がつけば見せようとして、少し気になることを確認してみる。


『タタ>今の段階での回復アイテムって何があるの?』


とりあえずアカツキに送る。返信は意外と速かった。


『アカツキ>何だ急に。今はHP回復のポーションが初級、ノーマル、上級で回復率が順に10%、20%、30%になる。ただ上級は出回ってる数が少ない上に高い。あとは毒、マヒ、混乱、魅了の状態回復ポーションだな。共通して言えるのはくそマズイ。いいの出来たら教えろよ。

P.S.ユヅがいじけてたぞ』


『タタ>出来たら。ユヅとは会ったから大丈夫』


アカツキの情報から薬草茶2種は各ポーションの隙間を埋める回復率のアイテムだとわかった。

味もまだ改良されたモノはないらしい。


とりあえずアランがいるか受付のシシィに聞いてみよう。

個室の鍵をきちんと閉めて1階に向かう




階段を下り受付に顔を覗かせに行くと、人はまばらで受付に並んでいる人はいなかった。

道を邪魔する人がいないのは無駄な労力を使わなくて済むから俺は楽でいいけど。


「シシィ、アランいる?」

「あらタタちゃん。残念だけど今昼食を食べに出てるの。もう少ししたら戻ってくると思うんだけど」


人が少ないのはお昼時だからみたいだ。

お腹が空かないから気づかなかった。原因は試飲のし過ぎだとは思う。


「兄さんを探してるってことはもう何か面白いモノが出来たのかしら」

「3つ、4つ?」

「まぁ、あっ!?」

「ならさっさと行くぞ。場所はチビ猫の個室でいいんだな」


シシィとの会話の途中で現れた乱入者が俺を小脇に抱えて目的地に向かって歩き出す。

引き離されてくシシィを見れば、笑顔で手を振っていた。




たった数分で戻された個室で、午前中の活動成果をアランに報告する。


「はぁー……、変わってるわお前。薬草を食おうとは思わないぞ普通。しかしポーション以外の回復アイテムがつくれるとはな。この『お茶』ってのは多少手間はかかるが確かに飲みやすい。クッキーは効果こそ低いが新人には十分だし美味い。それと、チビ猫が言うように水腹になるのを多少は防げる。飴も効果が微妙だが『付与』が使えない奴らには需要があるはずだ」


試食を終えてアランがつくったアイテムの長短を俺にもわかるように説明する。

黙って聞く俺に一拍おいてからより真剣な顔つきでアランが聞いてきた。


「それで、タタはこのアイテムたちをどうしたい。昨日のレシピ同様にギルドに売って公表するのか、お前が独占するかたちで独自のルートを持って商売するのか。自分で決めろ」


これは昨日の話の延長だ。昨日と違うのは今回のアイテムが、基になるものがあったとしても俺が頑張って見つけたレシピであること。店舗資金を貯めるために商売をしたいと俺が考え始めていること。そして、アランという相談相手がいること。


それでも決定打になるものがなくてアランに聞く。


「売れる?」

「間違いなく。全てが同じように需要を得て売れるとは言わないが、タタがつくったお茶シリーズに関しては俺が自信を持って言ってやる。このアイテムは売れる」


アランのお墨付きがもらえた。

アカツキのメールでも今ある回復アイテムの味が良くないと言ってたし、みんなどうせなら美味しい方がいいと思ってると思うから。


「今回のは自分で売りたい」

「わかった。なら次に決めるのは価格だな。一応確認するが、タタは市場に出てるポーションの値段は知ってるか?」

「知らない」

「だろうな。いいか、まずはHP回復用の初級が75G、ノーマルが150G、上級が300Gになる。次に状態回復の方は一律で100Gだ」


考え込む俺にアランが補足を入れる。


「価格は高過ぎても安過ぎてもダメだ。高ければ誰も買おうと思わないし、逆に安くなると市場を独占しかねない。そうなれば他の生産者たちの生計が成り立たなくなるからな」


薬草茶の効果はそれぞれ各段階のポーションの間になる。なら価格も同じように考えて、半端な端数は面倒だからなくす。

状態回復のお茶は効果はそのままで飲みやすく改良したモノだから少しだけ高くする。

クッキーと飴はまとめ売りで、でも効果は気休め程度だからお試し価格くらいでいくように。


アランに紙とペンを借りて計算式をいくつも立てる。

紙全体を黒く汚しなんとか希望価格が決まった。


「普通の薬草茶が100G、極の方が200G、状態回復のお茶は各120G。最後にクッキーと飴は4個入りで同額80G。ただし飴に限り組み合わせ自由……でどう?」


考えをアランに伝えた俺は体勢を崩しイスに深く沈む。

今後のモノづくりのためとはいえ、長く話すのはやっぱり疲れる。

モノづくりに関わること以外に対して省エネを推奨している俺を知る人が見ていたら、何であれリアクションを起こしていたことだろう。

それくらいめったに話さないから話した時の反動が大きい。


可不可の結果が決まったのか脱力状態の俺をアランが呼ぶ。


「薬草茶の極が少し安い気もするが妥当なとこだろう。その価格でいこう。それでいつからどうやって売る。委託か?露天か?それとも受注販売にするか?」


どうしよう。具体的に何も考えてない。

クッキーをつくるには牛乳を確保したいし、お茶だって何に入れたら。


話を進めるアランを止めて見つかった問題点について相談する。


「牛乳はシグの店で買える。ウチでも扱っているから心配するな。ただ入れ物ねぇ…『錬金術』でも取ってみるか?」


アランの提案に考える。

少し興味はあるけどモノづくりは目の前で少しずつ出来上がっていくのが楽しくもあるからな。

今あるスキルでつくれそうなモノは……!


「竹採れる場所ある?」

「竹? それなら一応素材だからって最近買取したやつがあったはずだ。自力で採るなら街を出て西に行けば竹林がある」

「1本いくら?」

「持て余してるやつだから好きに使え。1階の作業場の脇に置いてある」


昨日のテストで使った竹かごを思い出しひとつの可能性にいたった俺はアランからの許可に、即行動に移す。

竹を入手するために1階へ。



初めて入る1階の共同作業場。

1階は「鍛冶」、「木工」などの設備や素材の規模が大きめの生産者用。まだ行ったことがない2階は「裁縫」、「細工」などの作業スペースが台の上で納まる生産者用になっているそうだ。


辺りに響く金属を金鎚で打つ音や木をのみで削る音を聞きながら他の作業者の邪魔をしないよう脇に進み、放置されてる竹と合流する。

まとめられてる竹の中から手に馴染む太さのもの選んでいく。

選別した竹を共用として置かれたのこぎりで両端に節を残した状態の短い竹をいくつもつくる。途中何度か割れたり竹を転がしたりしながら。

使える状態の竹を一度しまい、また邪魔にならないよう気をつけて個室に引き返す。



個室に戻った俺は細工道具セットを取り出し、切り分けた竹にある節の片側だけに大きくなり過ぎないサイズの穴を開ける。

下で一緒に貰ってきた割れた竹をさらに割り、開けた穴に合わせて楔型に形を整える。

切り口を重点にヤスリをかけ、最後竹が爆ぜないように細心の注意を払い表面を炙る。


出来上がったのが竹を使った水筒。

中に水を入れての漏れの確認も終わり、本当の完成になる。

「細工」に竹細工が含まれててよかった。


アランに試作品の水筒を見せ俺の考えを説明する。


「ほぉう、これは使える。でもこの水筒だと中身が見えなくなるぞ」

「薬草茶はラインを入れて分ける。でも」


状態回復の方は出来れば色を活かしたいむねを伝える。


「ならガラスだな。……ガラスならあいつがいるか。よし、行くぞチビ猫。面白いやつに会わせてやる」


何度目かのアランに手を引かれ目的地も告げられぬまま個室を出た。

約束をしたユヅからの「戻ったメール」は届いてないからまだ大丈夫だろう。きっと。


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