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シーク・セルフ・オンライン  作者: 士月十旭
3/18

チュートリアル

ニィに連れられて着いた先は草原。


「ここでは簡単な戦闘と採取について学ぼう。まずは安全な採取からいこうか」


ニィの指示に従い草原に目を向ける。すると、全体へ散るように黄色いマーカーが草に近い空間に浮かんでいるのが見える。


「黄色いマーカーが出てるところが採取可能なポイントだよ。採ってみてごらん」


言われるがまま一番近くでマーカーが浮かぶ場所の草を引っこ抜く。

抜いた草を見ると小さく説明文が表示された。


『??草:強引に抜かれて少し傷ついている草。

  効果:??』


「?」

「タタが持っているスキル『採取』は採取可能なモノにマーカーが表示され、実際に採ることができる。でも、採ったモノを知るには各分野の知識、今だと『植物学』かすべてのモノの価値を視れる『鑑定』のスキルが必要なんだ」


どうやら「採取」は素材を採るためだけのスキルらしい。

素材は集められるけどこのままだと正しい用途がわからず思うように使えない。

スキルはすでに決めた後だから取れる枠もない。


「どうしよう」


モノづくりが楽しめないとうなだれる俺に、ニィがもう一度別の草を採るように勧める。ただし、今度は丁寧に。

やれることもないのでニィの言う通りに時間をかけて丁寧に採る。

表れた内容が少し変わった。


『??草:丁寧に採られ傷がないキレイな状態の草。

  効果:??』


「ちゃんと変化が出たみたいだね。見ての通り、採り方によって素材の評価が変わる。そのまま別の評価を持つ草をじっくり見比べ、観察してみて」


手にある2つの草を見て首を傾げる俺に気づいたニィが解説と、次の指示を送る。


じっくり見ても状態が違うだけの同じ草に見える。

それでも観察を続けていると、両方の表記に変化が出た。


『薬草:強引に抜かれて少し傷ついている薬草。

 効果:HPが??%回復する』


『薬草:丁寧に採られて傷がないキレイな状態の薬草。

 効果:HPが??%回復する』


少しだけ不明だった部分が判明したことに、より集中して観察し出した俺は自分の耳としっぽがピンッと立っていることも、その様を見てニィが生暖かい目を向けていたことにも気づいていなかった。

しばらくして、表記の内容が更新される。


『薬草(劣):強引に抜かれて少し傷ついている薬草。

 効果:HPが5%回復する』


『薬草:丁寧に採られて傷がないキレイな状態の薬草。

 効果:HPが10%回復する』


《新しくスキル「鑑定」を覚えました》


「!!?」


薬草の情報がすべて明らかになると同時に、頭の中にアナウンスが流れた。

思わず辺りをキョロキョロ見わたす俺の首がニィにやんわり止められる。


「落ち着こうタタ。今の様子だと『鑑定』でも覚えた?」

「…たぶん」

「わからないなら一度ステータスを見て確認したらいいよ。ステータスは、声に出す出さないは別にして『オープン』って唱えれば出るから」


開いたステータスのスキル欄の最後尾には、確かに「鑑定LV.1」が追加されていた。

こんなに簡単にスキルが増えていいのだろうか。

わからないから、ニィに目で訴える俺に察したニィがフォロー?をいれてきた。


「タタにしてもらった見比べと観察はモノの価値を視る『鑑定』に通じるもので、頑張った成果も出してる。1回目で取得できたのはタタが強運なのも関係してるのかも」

「そう」

「こんな感じにとる行動と成果によってスキルが増えることもあるから頑張って♪」


こと「も」ということは絶対ではないのか。まあ、それが普通だと思うから気にはしない。


「採った薬草はそのままあげる。次は戦闘についてだけど、タタには戦闘スキルがないから持てる武器が木の棒か落ちてる石。ギリギリ持てて採取用の小さなナイフがある。どれにする?」

「ナイフ」


思わぬところで戦闘スキルがない弊害が出た。

普通に考えたら当たりまえ。だからスキルを取るときにニィへ質問したのに。チュートリアルで引っかかるとは予想外。

3つの中では一番武器らしい採取用ナイフを選び、ニィから受け取ったものは小刀に近い小さなナイフだった。


「それじゃあ始めるよ。ここでは初心者向けフィールドに出現するのと同じモンスターと戦闘してもらう。弱いモンスターから徐々に強さ増していって全部で3回。負けたらその場で終わり。戦闘で獲得した経験値とアイテムはプレゼント♪ では、はりきっていってみよう!」


ニィが軽く指を鳴らして現れたのはニワトリ?

こちらを攻撃してくる気配はなく、トコトコ歩いている。


「モンスター?」

「もちろん。オシドリはノンアクティブになりやすいだけで立派なモンスターだよ。攻撃性も弱いから安心して倒せるはず」

「わかった」


振り返って対戦相手を指差しニィに確認する。間違いなくモンスターらしい。

どう見てもニワトリなのに。


とりあえずチュートリアルを終わらせるためにもナイフをしっかりと握り直し、オシドリの背後へ近づく。普段にない速さでの自分の走りに戸惑いながらも、急所っぽい首筋を一閃。

不意をつけたからか、三毛猫の強運ゆえか、クリティカルが出て戦闘が終了する。

オシドリが倒れた後少ししてから光る粒子になって消えた。


「ほら、倒せた。次からは違うから注意してね」


指を鳴らすのを合図に現れた次の相手は、ひたいに角を生やしたウサギ。ホーンラビ。

ホーンラビと目が合ったと思った瞬間には、俺に向かって角を突き出しこちらへ突っ込んで来ていた。慌てて避けて距離をとる。

見ていると、ホーンラビの攻撃は勢い任せで単調。俺にかわされては角が地面に突き刺さり、必死に角を抜いては俺に突っ込んで来るのくり返し。

それならばと、角を抜いている間の隙を利用する。


避ける。刺さった。斬りつける。


くり返すこと4回目でホーンラビも粒子になって消える。


「おめでとう。最後の相手は……タタにはちょっと厳しいかも」


灰色に少し緑味を混じらせた毛色の狼ウィードウルフ。

うん。これムリかもしれない。なんかグルグル言ってるし。


ウィードウルフ主導で戦闘が始まり、目を外さないでいるものの防戦一方の展開。まだなんとかギリギリでウィードウルフの攻撃をかわせてはいるけど、何回か避けきれず攻撃を受けてしまい俺のHPは半分近く減っていた。対してウィードウルフのHPはきっと3分の1も減らせていないと思う。

下手に動くよりはと、相手の攻撃モーションに合わせナイフを横向きに構える。動かないよう両手で固定して避ける動きは最小限に。真横を走り抜けるスピードを利用することにした俺は、吹き飛ばされないよう下半身に体重を乗せ全力で踏ん張りウィードウルフの肩からしっぽにかけてナイフを振り抜いた。


ウィードウルフが振り返り再び攻撃態勢をとる。同じく俺も構え直し、待ちの姿勢をとる。が、予想以上にダメージを与えることができたたみたいで、動き出したウィードウルフの足下がふらつきスピードが遅い。

それでも正面からの攻撃は防がれるはず。ならばと、待ちの姿勢を止め、俺は体勢をできるだけ低く保ちウィードウルフに詰め寄る。

俺に襲いかかろうと上体が起きた瞬間ウィードウルフの懐に入り胸元へナイフを突き立てる。負けじとウィードウルフもその状態から無理やり首を動かし俺の肩に噛みつく。

どちらが先に倒れるかの持久戦が始まった。



どのくらい経ったのか、もしかしたら秒単位だったかもしれない。


俺のHPがなくなるタッチの差で先にウィードウルフが力尽きた。

勝てたのは突っ込む直前に食べていた薬草のおかげ。苦味を耐えた分報われた。


「……勝て、た?」

「頑張ったねぇ。もしタタが戦闘スキルを取ってたらアーツ、技を覚えて戦闘ももっと楽になってたんだ。タタの場合、『短剣』か『投擲』くらいは取っておくのをオススメするよ。何はともあれこれで戦闘は終わり。一応次に生産のチュートリアルがあるんだけど、できそう?」

「やる」


戦闘を終えてその場にへたり込む俺と目線を合わすため、隣にしゃがみ込んだニィから今後の戦闘についてアドバイスを受ける。その流れで俺にとってのメインが危うくなくなりかけるのを喰い気味に止める。


「じゃあもう一度移動するよ」


ニィに促されて立ち上がり、草原に来た時と同じように手を繋いで次の空間へ移動する。




着いた先は工房内の作業部屋。

生産ごとに作業場が分かれていても、各生産に必要な道具がすべてひとつの空間に揃っている。


まさに夢の空間!

ここにずっといちゃダメですか?


駆け出したいのを我慢する代わりにそれぞれの道具や設備を目に焼き付けるため、始終辺りをキョロキョロ見渡す俺の目が塞がれる。

俺にとってささやかな願いを妨害する邪魔なニィの手をぺちぺち叩いても外れない。


「邪魔」

「うん。タタの生産に対する想いはスッゴい伝わったからちょっと落ち着こう。このままだと中止しちゃうよ?」


「中止」の言葉に、俺の動きが止まる。

中止になるくらいなら、今は我慢します。


「では改めて、ここで生産のチュートリアルをしてもらう。ただしできるのは1種類だけ。タタは生産スキルを3つ持っているけど、何を教えようか」


静かになった俺の様子に大丈夫だと判断したニィが塞いでいた手を外し流れを戻す。


できるのは1つだけ。現実と同じように作業ができるなら問題ない。その確認をふまえてのチュートリアルだと思うから、どうしよう。


悩む俺に先ほどの戦闘で獲得したアイテムを見て決めよう。とのニィの提案にステータスを開いて持ち物を確認してみる。

現在の持ち物は、


オシドリの卵×1

オシドリの羽根×1

ホーンラビの肉×1

ウィードウルフの牙×1


らしい。

借りた採取用ナイフは返却されていた。


「裁縫」はムリ。なら、やることは決まった。


「『細工』やる」

「ならそのまま必要なアイテムを取り出そう。欲しいモノを指で選択するだけいいよ」


オシドリの羽根とウィードウルフの牙を選択。

白い羽根と牙が1つずつ手のひらの上に現れる。


「聞くまでもないと思うけど、念のために確認するよ。タタはスキルを利用して早く簡単に確実につくれるのと、自分の手で手間と時間がかかって失敗するかもしれないのとどっちがいい?」

「自分の手でやる」

「やっぱりね。ちなみにつくるモノは決めた?」

「ん」


今までにないやる気の表れで、手の中のアイテムに気をつけつつ握り拳をつくりニィに向かって力強く頷く。

そんな俺をニィは苦笑いで返し作業台に案内する。


「今回は台の上にあるモノを好きに使って。でもつくり直しはできないから、1つ1つの作業を丁寧に進めていくのが失敗しないコツだよ」


材料と道具を目の前に、まずはオシドリの羽根を手にする。

毛羽立った羽根先に丸みを持たせるために小刀を使って整える。

根元の余分な部分をハサミで切り落とす。

腐食加工は自動で処理済みになっているらしいので、いったんオシドリの羽根を台へ戻す。

次にウィードウルフの牙を動かないよう台の上にしっかりと固定しながら、彫刻刀で模様を刻んでいく。

当然、動物の牙なんて扱ったこともないからより慎重に少しずつ。

頭の中のイメージに可能な限り近づけて、刻んだ模様を遠目で確認する。

少しだけ修正を加え、紙ヤスリで牙全体の角を落とし、表面をなめらかに仕上げる。

最後に足りない金具パーツを台の上からもらい、それぞれをバランスのとれた位置に取り付けて完成。


「できた!」


無事失敗なく作品は出来上がった。

全体に風のイメージした模様を刻んだ牙と柔らかいイメージに仕上げた羽根のセットピアス。


「おぉ、キレイなピアスだね」

「ほんと?」

「ボクはそう思うよ。せっかくだから『鑑定』で視てみたら?」


言われたら俺も気になり鑑定する。


『爽風のピアス:風をイメージして丁寧に仕上げられたピアス。

 効果:AGI+1

 制作者:タタ』


名前と効果がついてた。

表示された内容をそのままニィに伝えると感心された。


「まさか効果までつくなんて。タタは凄いね」


ニィの話ではスキル操作なしで成功するだけでも十分凄いらしい。


「これでチュートリアルは終わり。いよいよ《SSO》の世界へ出発だ」

「終わり…」

「ここまで頑張ったタタへのご褒美ってわけじゃないけど、最後に冒険者の初期装備とは別に招待特典でされた側にもアイテムが1つ贈られるから楽しみにしててね」


終了と別れのあいさつを始めるニィ。

つくったピアスはまだしまわずに手の中にある。


「目の前の扉をくぐれば本当の始まりだ」


現れた扉に手をかけ開く。

まだ見えない先へ踏み出す前にニィへ一度振り返り、お世話になったお礼を込めてピアスを押しつける。


「あげる」

「へ!?」

「キレイって言ってたから、お礼」

「待ってタタ!」


引き留める手を振り切り扉をくぐる。

最後にもう一度だけ振り返りニィに向かって叫ぶ。


「またね! ニィ!!」






俺がくぐり抜け、消えた扉の方を見つめ残された道化師が呟く。


「お礼も『またね』も初めてもらったよ……どうしよ」


口では困ったと言いながらその実、声は弾み顔は弛んでいた。


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