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シーク・セルフ・オンライン  作者: 士月十旭
2/18

キャラメイク

夏休み初日の朝。

いつもより少し遅めの朝食を食べに部屋を出る。


キッチンに顔を出せば、俺以外の家族全員が揃っていた。といっても両親は昨日、俺たち兄弟の通知表を見た後すぐに避暑地へ旅立っている。

母さんが出発前に、俺たちに負けないくらい夏休みいっぱい楽しんでくると宣言していた。


「夕兄遅い! お腹すいたぁ」

「夕太、メシ」


朝のあいさつもなく朝食を要求してくる弟妹。しかも若干ご立腹らしい。

遅いと言われてもまだ8時を過ぎたくらいだ。


「簡単なのでいいから。早くしないと9時になっちゃう」


9時といえば《SSO》の開始時刻。

急かすだけで自分たちで用意する発想が2人にはないらしい。


「アキも一緒?」

「ああ。まかせる」


テーブルにへばりついているユヅと携帯をいじっているアキ。

実はまだ2人の顔を見ていなかったりする。

会話は相手の目を見てするものだとお兄ちゃんは思います。


ふむ。

簡単ですぐ食べれるもの。メニューは俺のおまかせと。



トンっ。


「っ! いただき」

「……これは」


皿を置かれた気配に勢いよく顔を上げる2人の前には、シリアルと牛乳がたっぷり入ったボウルとスプーンのセットが1つずつ。

いつもはカットフルーツも入れて栄養バランスや味について少し考えるけど、今日はプレーンのまま。


「時間なくなるよ?」


希望通りの簡単なものを用意したから食べな。と、促す俺に無言で食べ進めるアキ。何か言いたそうにしながらもユヅも完食した。

声が小さくなっても「いただきます」と「ごちそうさま」のあいさつを忘れない。基本的にはよい子のふたりです。



「向こうで待ってるから夕兄もはやく来てね」

「招待する側の俺だけは、初めからフレンド登録されてるからすぐメールしろよ」


9時に近づき競うように部屋へ戻るアキとユヅに手を振って応える。

口はフレンチトーストで塞がれてるから仕方なく。




      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


アキたちから遅くれること2時間。

俺はVRギアをはめ、ベッドに寝ころぶ。一応携帯のアラームを6時間後にセット。

VRギアには使用者の身体や脳へかかるの負担に対する安全対策として、身体に異常を来した場合、または連続プレイ時間が6時間を過ぎたときの強制ログアウト機能がある。

ペットボトルの水も普段モノづくりに使う作業台の上に用意して万全の態勢だ。


「起動」


小さく発した俺の言葉に反応してVRギアが立ち上がり目の前には「Hello!」の文字。

音声認識型起動システムは楽だけど突然切り替わる視覚情報についビクついてしまう。

はやく慣れてしまえばいいのだけれど。


《SSO》のサポートガイドに接続。アナウンスに従いアキから貰った招待パスコードを音声入力。

正面に浮かぶ砂時計の砂が落ちきった瞬間視界が一変。




広がるのは白い空間。それに身体の感覚がある。


「やあやあ、よく来たね。ここではキミが《SSO》の世界を楽しむためのキャラメイクとチュートリアルを進めてもらうことになっている。ボクはその案内役さ」


芝居かかった台詞とともに現れたのは、美人なお姉さんでもかわいい妖精でもなく妖しい道化師。

執事服を着崩した格好に右頬に涙のペイント。とてもピエロとは呼べない。せめてわかりやすい赤鼻にダボダボ服のピエロだったら和める要素もありそうなのに。

でも、これからお世話になるのは道化師なので差し出されたままの手を握る。


「よろしく」

「キミは面白そうな子だね」


俺との握手で繋がった手を見て愉快そうに、その中でどこか嬉しそうに道化師が眼を細める。


「こちらこそよろしく♪ ボクは名を持たないから好きに呼んで。さて、キミの名前は何かな?」


こちらが素だというように砕けた口調へ変わり、唐突に始まったキャラメイク。道化師の問いに次いで名前の入力画面が出てくる。

迷わず入力した名前は「タタ」。


「了解。次はタタの容姿を決めよう」


道化師がどこからか取り出した大きな姿見に見慣れた俺の姿が映る。


「《SSO》と現実とでの違いに比例して身体に及ぶ負荷と影響が大きくなるから気をつけて。といっても極端な変化はNGになるからできないけど。でも、髪型と各部位の色に関する変化は何でもアリだからいろいろ試してごらん」


説明を受けた直後でタイミングも微妙だが、姿見から道化師へ目線の向きを変え目を合わせる。


「質問」

「うんいいよ。何が聞きたい?」

「『ニィ』って呼んでいい?」


道化師が聞いたときの状態で固まっている。

ダメだったろうか。何でもいいって言ってたのに。それともやっぱりタイミングが悪かったとか。

YESでもNOでも返事がほしい。沈黙がつらい。


少しずつうつむき加減になる俺の頭上から息が漏れる音がすると、一気に道化師の笑い声が辺りに響いた。


「っはは…はぁ、うん。やっぱりタタは面白い子だ♪ 呼び名の許可を求められたのは初めて。もちろんOKだよ。ちなみに何で『ニィ』?」

「お兄ちゃんを持ってみたかった。から」


さんざん笑われたので羞恥心もなく、告げる先には笑顔がニコニコからニヤニヤに変わったニィがいた。

少しイラっとする。


改めて姿見へ向き直り、体格をいじる気はないからまずは色を変える。

黒髪をこげ茶に。瞳の色を黒から琥珀色に。これだけでも色に併せて少し印象が明るく変わる。

次に切るのが面倒で伸びた髪を、前は思いきって短く。後ろは首筋が見える長さに整える。

どうせなら普段絶対しない髪型で、アシメだっけ? 左サイドだけ少し長くして邪魔にならないように三つ編みにする。


「どう?」

「大丈夫。カワイくなったよ」


自分ではいまいちわからずニィに意見を求める。が、なぜか返事と一緒に笑顔で頭を撫でられた。

カワイイはいらないけど大丈夫ならよかった。


「次に決めるのは種族。各種族の特徴を簡単に紹介しよう。


人間族ヒューマンはバランス型。何にでも対応できる分方向性を間違うと器用貧乏になりやすい。見ために関しては省くよ。


獣人族ビーストはスピード型。獣のタイプにもよるけど、攻撃に決定打が持ちづらく手数勝負になる。身体的特徴は耳としっぽ。獣のタイプは種類が多くてランダムに決定。


森人族エルフは魔法特化型。知性が高く魔法に秀でてる代わりに物理攻撃には攻守ともに弱い。身体的特徴は尖った長い耳。あと美形補正もかかる。


小人族ドワーフは器用さが売り。職人が多い種族だね。スピードは遅いけど防御にも優れているから心配ない。身体的特徴は筋肉質で低い身長かな。


竜人族ドラゴニュートは攻撃特化型。物理、魔法ともに攻撃力が高いけど反動で隙もできやすい。身体的特徴はどこかに竜の特徴が出る。角や翼、鱗にしっぽに特殊なので瞳がある。持てる特徴と数はランダム。すべては運次第。


さて、今から選んでもらうけど、選んだ種族を一度キャンセルすると選べなくなるから選ぶときは慎重に」


ニィの言葉を頭の中で反芻しながら考える。といってもすでに二択の状態にはなってる。

最初に人間族と森人族が外れた。

なれない自分になってみたいし魔法に強い憧れがない。

次に小人族は悩んだがやめておく。筋肉はいらない。

残ったのが獣人族と竜人族。

だだ、どちらもランダムだからどっちを先に選ぼう。

竜人族は翼に惹かれただけだから……


「獣人族で」

「じゃあ、なってみよう! 姿見の前で目をつむって3秒数えたら新しい自分とご対面♪」


いち、に、さん。


カウントして目を開けた先の姿見に映るのは、三角の耳と長いしっぽを生やした俺。それらの色は髪と同じこげ茶じゃない。


「おめでとう! 三毛猫はレアだよ!!」


そう。正しくは白、黒、茶の三毛でこげ茶はなかった。

しかし、三毛猫がレア?


「猫なのに?」

「レアにもいろいろあってね。多くは各獣タイプの上位種だけど、条件によって下位でもレアになるケースがある。今回のタタがまさにそれ」

「条件?」

「三毛猫は男性限定のレア種になるんだよ。レア特典は強運。もとがランダムな獣人族なのに条件付けされているから、タタはツイてるね」


《SSO》でも三毛猫のオスは希少なのか。

種族選択後に毛色をいじることはできないらしいから、人工三毛猫はムリ。本当に運まかせ。


決定しないとステータスが見れないからどの程度の強運かわからない。けど、猫は嫌いじゃないしパッと見違和感もない。せっかくのレアだ。


「このままでいい」

「気に入ったならよかった。ステータスはぱぱっと決めてしまおう」


宙に俺のステータスが表示されると、ニィの解説が始まった。


「今から渡すBPボーナスポイントはLVが上がるごとに貰えて、自分のステータスへ振り分けることで自身を強化できる。似たものでSPスキルポイントがあって、これはスキルの熟練度に応じて貰える。上位スキルや新しくスキルを取りたいときに使うよ。

ではステータスの見方を今回も簡単に、


HPヒットポイントは体力。0になったら死んじゃうから気をつけて。


MPマジックポイントは魔力。魔法はもちろん、技を使うときも消費される。0になったら枯渇状態となって動けなくなる。


STRストレングスは筋力。物理攻撃力に影響して、装備品によっては必要になってくる。


VITバイタリティは耐久力。物理防御力と身体異常、毒や麻痺耐性にも影響する。


INTインテリジェンスは知力。魔法の攻撃力や扱えるようになる属性数に影響。


MNDマインドは精神力。魔法防御力、回復魔法力。あと、精神異常の混乱や魅了耐性にも影響する。


AGIアジリティは敏捷度。単純に素早さ、回避率に影響してくる。


DEXデクステリティは器用度。命中率、生産成功確率などに影響するから生産職は自然と高くなる。


LUKラックは幸運度。全てに影響。クリティカル、アイテムドロップに関しては影響が大きい。タタのレア特典がこれ。


なんとなくわかったかな」


小首を傾げるニィに小さく頷く。



ニィの解説を参考に貰ったBP10をステータスへ振り分けた結果、


HP:100→100    MP:100→100

STR:7→8     VIT:7→8

INT:7→7     MND:7→7

AGI:12→15     DEX:10→15

LUK:25→25


BP:10→0      SP:0→0


となった。

ちなみに人間族の初期値は、HPとMPは同じ100であとのステータスはオール10だそうだ。

三毛猫が強運すぎる。


「ずいぶん偏ったステータスになったね。問題ないならスキル選択に移るけど大丈夫?」

「問題ない」

「なら一覧の中から好きなものを5つ選んで」


俺の後ろからステータスを覗き込んで確認してくるニィに頷く。ちゃんと考えたからのステータス値だから大丈夫。


スキルだけは事前に《SSO》の公式サイトを何度も見直してるから悩むまでもなく決まっている。が、俺の持論が通用するかわからないから念のためニィにいくつか質問をする。


「ふんふん…………なるほど、可能性はあるね。ものにできるかはタタの行動によるかな。それにしても、タタは《SSO》でいろんなことをしでかしそうで今後が楽しみだよ♪」

「何もしない。モノづくりがしたいだけ」


俺がそっけなく返してもニヤニヤをやめないニィを放置してスキルを選ぶ。

選択されたスキルは、「速度上昇」「採取」「料理」「裁縫」「細工」の5つ。

戦闘スキルなしの生産型。戦闘に関して考えがないわけじゃない。

うまくいくかはニィに言われた通り俺の頑張り次第。


「ここまででキャラメイクは終わり。チュートリアルはなしにもできるけどタタはどうする?」

「やる」

「なら移動しよう」




行き先がわからないから仕方なくニィに手を引かれたまま、白い空間をあとにした。

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