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シーク・セルフ・オンライン  作者: 士月十旭
18/18

素材屋

「会員証?」

「そ、会員証。裏メニューを頼むのに必要なんだ。ホントは審査があるんだけどタタくんは特別になしでプレゼント♪」


裏メニュー?審査?

審査が必要な裏メニューなんていい印象がひとつも浮かばない。

いっそこの場でカードを割ってしまおうか。


「『店長のオススメ』を頼んで『裏メニュー』を希望する。その時に『会員証』を提示できるお客さんのみ『そざいや』の裏で営む『素材屋』のメニューリストを提供しているのさ。それがコレ」


俺の考えを察したわけじゃないだろうが、注文の流れを説明をし出したティックが最後に一冊のリングファイルを差し出してきた。

仕方なく受け取り表紙を捲るとホーンラビの毛皮の説明文と一枚当たりの金額が記されていた。

つまり、素材リスト。

でも裏でやる意図がわからない。

単に素材というだけならギルドや商店街でも買える。

わざわざ会員制にする理由が何かあるはず。


もう一度ホーンラビの毛皮のページに目を通す。

基本的には「鑑定」で視る内容と変わらなかった。毛皮の状態ですでに「VIT+1」の効果がついていたこと以外は。


「これ…」

「気づいたね。そう、ウチでは特殊な素材を扱っているんだ。自然なモノから手を加えたモノまで素材ならなんでも。中には扱いが難しいモノもあってね、だからこんな面倒いシステムでやってるわけさ」

「素材の入手情報を公にしたくない、自ら手がけた素材を下手なやつには扱われたくないというのがウチに素材を売りに来る連中の主な理由だ。逆に買いに来るヤツらの理由はひとつ。理想の素材を求めて最後に頼るのがウチだ」

「あと希望があれば仲介もやってる」


さらに詳しく聞けば、今回の俺のように会員じゃない客が「店長のオススメ」を頼んだ場合。ティックが瞬時に客に対して鑑定を行い第一次審査。

次に「裏メニュー」を合い言葉に偽のリストを提示する。

売りに来た客には低い買い取りリストを。

買いに来た客には高い素材リストを。

それを見た時の反応とどう対応するかが第二次審査。

両方をクリアできた者が晴れて会員になれるそうだ。


だからティックは俺の名前を知っていて当たり前。

しかし、人に対しても鑑定が有効だったとは。


「それにしても純粋に料理として『店長のオススメ』を注文された時は笑っちゃったよ。でもタタくんも悪いんだよ。そんなチグハグな装備をしてるからてっきりこだわりの素材を買いに来たんだと思うじゃん」

「チグハグ?」

「だってそうだろ。今着てる服の上下を比べただけでも…その差はつくった本人が一番わかってると思うけど?」

「なんで」

「ティックは鑑定だけは一流だからな」

「オレに視れないモノはないのさ☆」

「うぜぇ」


あっ。

調子に乗ってウインクまでしだすティックに本日何度目かのギーヴの容赦ない蹴りが決まって少しスッとした。


合い言葉の存在すら知らなかった俺が審査もなしで会員証をもらえたのは、ティックの気まぐれと現在装備中のカーゴパンツと魔法鞄“ラビ”を正当に評価した結果らしい。

ティックいわく何も知らなかったことがよかったのだと、この時だけはキレイな笑みで告げられた。


とりあえずギーヴも素材屋に携わっているならブラックではないとは思う。

考えを決めてしまえばやることも自ずと決まる。

まだ1ページしか見ていないリストを堪能させてもらおう。

きっとまだ出会ったことのない素材が沢山載っているはずだから。

中には自分好みの素材があるかもしれない。

密かにテンションが上がっているのを感じながらじっくりと、1ページずつ端から端まで目を通す。

ジャンルごとで順々に表記されている素材の名称部分に触れることでリストアップされていく便利機能付き。

機能を楽しみながら仕組みに疑問を持たずページを進めていく。


ページを捲る手が自然とゆっくりになるのは被服、食材関連のページ。

リメイク以外で布の素材を扱えてなかった俺の目に映る「シルク」や「リネン」の文字が輝いていた。

素材名に触れる指に躊躇いが出ないほど。


せめて初期装備をすべて外せるようになるまでは。とアクセサリーづくりには手を出さないでいる。

だから鉱物のページは流し読みでつくりたい衝動が起きないうちに終わらせた。


被服、鉱物と順に続いて次は食材のページ。

やはりモンスター肉と果実が多い。

その中で思わず手を止め凝視してしまったページの食材、「ハニーベアの蜜壷」。

希少性からもったいなくていまだ使えていないアイテム。

リストに記された金額が900G。

予想以上の価値を目の当たりにしてもうしばらくは使えそうにない。


最後のページには今までチェックした素材名が並んで表示されていた。

今回俺が気になって選択した素材。


『ワームシルク……320G

 ワームが吐き出した糸で織られた生地。

 肌触りがよく保温保湿性に優れている。


 スパイダーシルク……650G

 ビッグスパイダーの糸で織られた生地。

 肌触りがよく保温保湿、強靭さと伸縮性に優れている。


 ラミーリネン……480G

 ラミーの植物繊維で織られた生地。

 吸水速乾に優れ耐水属性の特性を持つ。


 アセララ……50G

 南部地方で採れる赤い木の実。

 ひと粒食べるとわずかに気力が回復する。


 を購入しますか?     はい/いいえ』


さてどうしよう。

すべて買える金額ではある。

ただ、この売り値に対しての内容量が明記されていないから判断に迷う。

素材は基本的に自分で採るものだったし、ギルドで売った時はシシィに任せっきりにしていたから素材に関する適正価格や売り値の基準がわからない。

でもアレは欲しい。


ピロ~ン♪


軽い音がしてアイテムストレージを確認する。

いろいろ考えた末の希望通りスパイダーシルクとアセララが2つずつ増え、所持金も1400G引かれていた。

いろんな生地を試したくはあるけどそれはまた次の機会に預ける。


「まいど。リストは回収させてもらうよ。売りたい素材があれば査定するし、リストにない素材で希望があれば入荷次第連絡するけど何かあるかい」


会計が終わってすぐの俺に、もう次の商談を取りつけるための誘い文句を口にするティックに感心する。

パッと思いつくほど素材を知らない俺は代わりにもうひとつ素材屋が扱っている件について頼むことにした。


「仲介。靴職人と鍛治師」

「何?依頼でもするの?」

「違う。意見聞きたい」

「タタがこれから生産しようとしているアイテムについて本職の意見を聞いて参考にしたい。ということか?今回だと靴でつくりたいモノがあるみたいだな」


おおっ!ギーヴさんすごい!

俺の言いたいことを理解し代弁してきれたギーヴに心の中で拍手を贈る。


「よくわかるね」

「別に。足りない部分を想像して繋がるよう補っただけだ」

「そお?まあ、それなら……シユウさん!ゼン爺!ちょっと来て」


ポン酢の試食会からポン酢の可能性について議論する場まで発展したテーブル席の客たちへ向けティックが名指しで声をかける。

呼ばれてカウンターまで移動してくる身長差が激しい凸凹なふたり。

凸が、猫背の状態でアランと同じくらいの背の高さを持つクセのある長い前髪で顔を半分隠した青年。

凹が、顔半分を髭が覆い力強く歩く姿勢は真っ直ぐなのにチカネよりも低い背をした老人。


「ぼくに用ですかぁ~」

「何じゃ急に呼びおって。またくだらんことを言い出すんじゃあるまいな」

「今回オレはふたりを紹介するだけ。ってなわけで背の高い方が靴職人のシユウさん。低い方が鍛治師のゼン爺ことヒゼンさん。んで、こっちがふたりに聞きたいことがあるっていう三毛猫のタタくん」

「タタです」


ティックに紹介され、慌てて椅子から降り頭を下げる。


「おぉあのウマいタレを分けてくれた坊主か。どれ、わしにわかることなら何でも答えてやるぞ言うてみぃ」

「ぼくもいいですよぉ~。あっ、ティックさんと同じなのがぼく的に微妙ですがぼくもタレは白い方が好みでしたぁ~」


ポン酢のおかげで好感触なふたりの言葉に甘える。

まずは考案中の安全靴についてを簡単な説明で聞いてもらう。

その上でシユウさんには靴のつくり方の師事を、ヒゼンさんには鉱物を使ってのカップ状に加工することが可能か、可能ならつくってもらえないかをお願いした。


「ぼくの方は問題ないですよぉ~。タタくん真面目でいい子みたいですしぃ~その安全靴?の完成品を見せてもらえるならぁ~」


二つ返事で了承してくれたシユウさんに対し、ヒゼンさんは目を閉じ眉を寄せ難色を見せる。

それでも安全靴に対して否定的な雰囲気はなく、ヒゼンさん個人の問題で踏み切れない感が伝わってくる。

やりたいのにやれない。みたいな。

手を借りようとする相手に無理を強いるわけにはいかない。

残念だけど諦めて他に芯になりそうな素材を探すか、ヒゼンさんには悪いけど別の鍛治師に当たる方が良さそうだ。


「すまんな。わしは手を貸してやれん」


先に断りを入れてきたヒゼンさんの残念そうな表情(かお)が本意でないことを語っている。


「だがな…」

「えー!?ゼン爺やりたそうだったじゃん。パパッとつくってやりなよ。じゃないとオレが安全靴視れないーつまんないー」

「ええいっ、話は最後まで聞かんか。わし()手を貸せん。が、代わりに一人腕のいい鍛治師を紹介する。冒険者ではあるが鍛治の腕はわしに次ぐほどじゃから安心せい」

「なぁんだ。ゼン爺がさっさと言わないから無駄に心配しちゃったじゃん」

「言おうとしたところをティック、お前さんが邪魔したんじゃろ」

「そうだっけ?」


横から茶々を入れるティックに負けずテンポよく会話を交わすヒゼンさん。

その様子を周囲は呆れながら受け入れている。

こんなやり取りがこの店では日常茶飯事なのだと容易に想像できた。


「はぁ……ともかく、細かいことは当人同士で話し合い詰めてもらわんとならん。そのためにもこのまま一緒にわしの工房まで来てもらいたいのだが構わんか。タタ」

「ん」


午後の予定はあってないようなものだった。

宿題を出したふたりには連絡がきたときにでも伝えればいい。

ヒゼンさんの申し出を断る理由がない俺は大きく頷いた。後で忘れ物を思い出し慌ててギーヴへ向き直る。


「何だ?」

「支払い」

「済ませてただろ。さっき」


素材屋の支払いだと思っているギーヴに首を振る。


「『店長のオススメ』代」


スズキンの塩釜分の支払いが済んでいないと訴える俺に、今度はギーヴが首を振った。


「いらん。どうしてもというならポン酢のレシピを代金代わりに貰おうか」

「何で」

「今の俺がそういう『気分』だからだ。ほら、俺の気が変わらないうちに払ってしまえ」


ギーヴに促されポン酢のレシピを渡す。

それだけでは釣り合う気がせず、俺がポン酢に合うと思う食材の簡単な説明書きを足して。


「確かに」

「また来る」

「ああ。また旨いもん用意しておいてやる」

「『そざいや』だけじゃなく『素材屋』も利用してよ。せっかく会員証あげたんだから」

「ん」


ギーヴに優しくティックからは乱暴に頭を撫でられる手から逃げるように店の出入り口で待つヒゼンさんの元へ向かった。

途中いくつもの声がかかる。

改めてポン酢の礼を言われたり客の方からも店に顔を出すよう誘われたり。耳に入るのは暖かく優しい声ばかりだった。


「じゃあ行くかの」

「ん」

「あっ、タタくぅ~ん!ぼくの店はナバクさんの鞄屋の隣だからぁ~。いつでも来ていいよぉ~」


ヒゼンさんに連れられ店を出る俺の背をシユウさんの間延びした声が追いかけてきた。

近いうちに必ず訪れることを約束して俺はゆっくり店と外との境界を越えた。


薄暗い場所から明るい日の下に出た俺は片手でひさしをつくり明るさに目が馴染むまで待つ。

真上の高さにあった日との距離が近くなっていることから店の中で経過した時間の長さが知れた。

居心地がよすぎる店も考えものだ。

気づいたら一日が終わるなんてことがあってもおかしくない。


「ほれ。日暮れ前には帰してやりたいからの。少し速度を速めて行くからはぐれんようついて来るんじゃぞ」


そう言って人のいないルートをうまく見つけ前を歩くヒゼンさんの後ろを駆け足で追った。

でないと簡単に見失う。

前を行くヒゼンさんは確かに歩いて見えるのになぜかその背に追いつくことが工房に着くまで叶わなかった。




この日を境に一部の職人たちの間でポン酢が流行り、後日それを聞きつけたアランが人伝に発端が俺にあると聞かされる。

その相手、ティックが原因で俺がアランに八つ当たりされることになるのはまた別の話。


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