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シーク・セルフ・オンライン  作者: 士月十旭
13/18

スキルの大切さ

アカツキとユヅを部屋に招きとりあえずお茶を用意する。

その間家探しするほどもない部屋の中を興味深く見て回っていた二人も、お茶がはいるのに合わせて席につく。

誰も声も出さず一口お茶を啜り3人同時に息を吐いた。


「ところでタタ兄はいつ間に長時間ギルドの個室を借りれるほどのお金持ちになったの?」

「違う。クエスト」


先陣を切って話し出したのは兄弟妹(きょうだい)の中で一番好奇心が強いユヅだった。に対しての俺の答えに食いついたのがアカツキ。


「ギルドの一室が報酬のクエストってどんなだよ!?」

「小麦粉料理レシピ5種」

「えっ!?それって初期の段階から出回ったていう?おかげテスター時よりも早く食べ物が充実し出した、あの?」

「お前……今まで何やってたか詳しく話せ」


面倒くさい。

が、それで引いてくれる優しさを持った相手ではない。

しかし長々と話すのは俺が疲れるので、アカツキたちと別れてからの出来事を箇条書きのように順を追って口にした。


シグの店で小麦粉を見つけたことから始まって、アランたちとの出会い。初めてのクエスト。肉球印アイテムの開発と販売。エマさんからのリメイク依頼については倒れた部分を除いて。


「「……ありえない」」


つぶやいてすぐ、二人は俺のとった行動がクエストに至るまでの関連性とその結果を分析し議論しだした。

その真剣さにとても何が?と聞ける雰囲気ではない。


静かに待っているには時間が長くなりそうな白熱具合に、この時間を利用してコロナさんに頼まれた試食してしまおうとおやつを取り出す。

まずは食べやすいお手軽ロールケーキを一口。

塗られたジャムはほど良い甘さで味の方でも食べやすい。ただ、時間をおいたことでパンがパサついてしまっているのが残念だ。

パン自体を改良するか、ジャムを塗る前に一度シロップに浸すことでパンのしっとり感を持続できるか試してもいい。

コロナさんに伝えたいことをメモしていく。


次にいく前に食べきろうと口を開く。と同時に前からの悲鳴。

その声の大きさにたまらず耳を伏せる。


「…………ユヅ」

「ぅにゃ~~~っ、だってタタ兄だけズルいぃ~」


うるさい。という意を込めて名前を呼べば、三毛猫の俺よりも猫っぽい声で鳴いたユヅがテーブルにへばりついて恨めしい目を向けてくる。

傍観者に徹しているようでアカツキの眼も脇に置かれた残りの2つを狙っていた。

二人を諦めさせるなんて無駄になる労力を使いたくない俺は手早く残りを均等に切り分けて与える。

食べた感想をもらうことを条件として。



「このクリーム、軽くて甘過ぎないから甘いのが苦手なヤツでもイケそうだな。ただ……」

「表面の甘さを中のナッツが中和してくれて、ナッツもいろんな種類が入ってるから味も食感も飽きずにいくつでも食べられる!けど……」


シュークリーム擬きのパンを食べたアカツキとドーナツっぽいのを食べたユヅの口が止まる。

二人が次に言うだろう言葉が想像つくが、静かに待つ。


「「タタ(兄)、お茶っ!」」


やっぱり。

すでに用意しておいたお茶を空いた二人のカップへ注ぐ。

よほど口の中の水分をとられたのか、淹れた先から順に一気にお茶を飲みほしていた。


結果、どれも味は高評価でどれもパンのパサつきが気になった。

まだ蜜掛けでコーティングされてた分、ボール型の試作品は多少抑えられていたくらいだ。

コロナさんがパンであることにこだわりがなければそれぞれに合った生地も提案してみよう。



「終わった?」


おやつタイムに移行したことで中断された議論は答えが出せず、「タタ(兄)だから」に集約させて強制終了。補足するなら三毛猫のラッキーのおかげだろう。と。


納得するしないは別にして区切りがついたならそれでいい。

やっと俺の目的が果たせる。

新しく淹れたお茶で一息つく二人に肉球印の回復アイテムセットをキョウたちのことも考えて5人分ずつ渡す。ユヅのパーティーの人数は知らないけど平等に。


「おぉ!ありがとうタタ兄!」

「しかし『料理』で回復アイテムができるとはな。まず考えないから試そうとも思わないぞ」


驚きと感心と呆れ。複雑な感情の中言葉にするアカツキ。


お茶づくりを試したのはハーブティーにも通じる草茶の存在を知っていたから。

味のする飲み物確保が一番の目的で効果については消えても別口で考えるつもりだった。

食べ物から回復効果を得る考えはキャラメイクのスキル選択時に薬膳料理を思い出し、ニィへ「料理」スキルからの回復アイテムをつくれる可能性を確認した際に否定されなかったから。


それらを簡単に説明するとやはり「タタ(兄)だから」と言って笑われた。


未知の世界へ冒険を求めてRPG(ゲーム)寄りの考えをするアカツキたちとモノづくりを楽しむのが目的な現実(リアル)寄りの考えをした俺との違いの結果が肉球印の回復アイテム。

どちらがよくてどちらが悪いということはない。偏った考えがばかりにならないから今回のようなおもしろい発見がある。

これも立派な《SSO》をプレイする上での醍醐味のひとつだと。



「ところで何でタタ兄はまだ初期装備のままなの?さっきまで着てたコートとそのズボンは違うみたいだけど。回復アイテムの売り上げで買わないの?」


好奇心旺盛で興味の対象をころころ変えるユヅの次の対象は俺の装備についてらしい。


「つくるから」


タダだし。自分の好きな色やデザイン、機能性のものにできる。それに運がよければ特殊な効果がうまれる。

製作に関しては楽しみでこそあれ苦になることはありえない。

唯一、素材集めが面倒なだけ。

でも頑張った分出費が抑えられれば店舗資金の貯蓄へ多くを回せるし。俺にとっては特ばかりなのだ。


ひとつひとつ理由を伝える度にユヅが発する声で感心度合いを表す。


「じゃあ、そのズボンにも何か効果がある。とか?」

「『毎秒HPの5%回復』」

「「はぁ!?」」

「何だそれ……」

「ほぼ無敵だよタタ兄」

「?」


効果を聞いた後アカツキは額に手をやりうなだれ、隣でユヅは笑顔のものの口元は引きつり笑う声は乾いている。

効果の凄さがいまいちわからない俺の顔を見て温度差を感じとったユヅが珍しく説明を買って出た。


「タタ兄の今のLVは?」

「8」

「おぅっ、まだ一桁とは。でもタタ兄の行動からすると妥当?いや、でも……まぁ今は、LVが8なら少なくても毎秒『30』は回復するでしょ?」


はて?30?

すでに躓いてしまっている俺に気づかないユヅは説明を続ける。


「タタ兄がいる初心者エリアに出現するモンスターの中でどんなに強くても一撃に『30』を超えるダメージを与えてくるのはいないんだよ」


だからダメージを無効化するのと同じ。また、LVが上がればその分回復する値も増えるからよほどムチャな戦闘をしない限り無敵に等しい。


途中から熱が入って立ち上がり前のめりで語るユヅを押し返す。席に着き直ったのを見て疑問をぶつけた。


「『30』?『7』しか回復しない」

「は?何言って」

「待てユヅ。タタ、お前の今のステータス見せろ」


再び顔寄せて来かけたユヅを押し止めたアカツキの指示に、わからないまま従う。



タタ LV.8

HP:150       MP:120

STR:10       VIT:10

INT:10       MND:10

AGI:20        DEX:25

LUK:30


BP:0        SP:44



「えぇ!?」

「やっぱり」


俺のステータスを見たユヅの驚きをよそにアカツキひとりだけ確信を得たのか納得していた。


「タタ兄っ、何でこんなにHPとMPが少ないの!?」

「??」

「『体力増加』と『魔力増加』のスキルを取ってないからだろうな」

「ウソ…」


質問の意見がわからない俺の代わりに答えたアカツキにはため息を吐かれ、答えを聞いたユヅには信じられないものを見るような目をされ、俺は完全に取り残されてしまった。


「で、『体力増加』と『魔力増加』とは、スキルの中でもこの2つは特殊なスキルで取得すればLVが上がる毎に『体力増加』でHP、『魔力増加』でMPが大幅に増える。という説明をキャラメイクでされるからほぼ全員がその時に取る。そうでなくてもスキルが追加できる段階で優先して取るスキルなんだが」

「タタ兄は今まで存在も知らないみたいだったけど、説明受けたよね?」


アカツキの言葉を継いで問うユヅへの返答に困る。


説明、受けただろうか?

俺から一方的にニィへいくつか質問と確認をしただけだったような。正直説明を受けた記憶がない。


「とにかく、SPあるんだからこの2つは今すぐ取れよ。まだギリ、追いつけないまでもなんとかなるはずだから。ついでに俺のステータス見せるから参考に使え」


言いよどんでいる俺へ大切なのはこれからだとのアドバイスには素直に従い、せっかくなので言葉に甘えてステータスも見せてもらう。



アカツキ LV.15

HP:1370       MP:1220

STR:25       VIT:23

INT:15       MND:17

AGI:22        DEX:19

LUK:23


BP:0        SP:24



一目瞭然。

いくらLVが倍近く違うとしてもこの差はひどい。

これで俺のステータスを見た後の、俺に向けてとった二人の態度に納得がいった。

そしてスキルの重要性とついでに三毛猫の運の高さも改めて実感した。


この際徹底的にお節介することに決めたらしいアカツキとユヅが今度はスキルリストの表示を要求してきた。

二人の表情を見るに、俺に拒否権はない。



体力増加LV.1・速度上昇LV.5・短剣術LV.3

魔力増加LV.1・火魔法LV.1・水魔法LV.1・風魔法LV.1

鑑定LV.7・採取LV.6・解体LV.2

料理LV.5・裁縫LV.4・細工LV.3・食薬LV.3・リメイクLV.1



改めて見ると色々LVが上がっていた。

しかし、練習する機会をまだつくれてない魔法系スキルは変わらず低い。


「前も思ったが偏ってるな」

「うわっ、見事に生産系ばっかり。『解体』は持ってる人知ってるけど『食薬』に『リメイク』?は初めて見るよ」

「まず魔法を使うなら『魔力操作』が必須だ。SPに余裕があるなら防御系は取っといた方がいい」

「『気配察知』とか『遠見』も便利!おもしろいのだと種族に縛りがあるけど『獣化』ってゆーのもあるんだよ♪」

「あくまで参考な。たくさん持ち過ぎても育たないし、他のヤツの意見も聞いて見合ったモノを取ればいい」

「ん」


とりあえず今は「魔力操作」と「気配察知」だけ。

開いたリストも閉じる。



「話は戻るけど、毎秒回復なんて効果どうやってつけたの?」


装備の話からズボンについた効果の話へ。さらにそこからスキルの話へと長いこと脱線していた話をユヅが軌道修正をかけ再開させる。


「染めた。薬草で」

「それは、なんとも……ちなみに元の素材って何?」

「冒険者の服(下)とウィードウルフの毛皮。あとビッグスパイダーの糸」

「へっ?!冒険者の服って加工できるの?」

「ん。『リメイク』」

「ああ、そっか。そうゆースキルかぁ」


本当は「リメイク」があるなしに関係なく手は加えるだけなら可能だったりする。けど質問が増えて面倒そうだから「リメイク」の一言で納得させた。

それでも何か引っかかるのか一人で唸っては呟いて、呟いては唸ってをくり返しているユヅは何か言ってくるまでは放置。

変わってアカツキへ防具に向いてる素材についての情報を聞き出した。


いくつか教えてもらった中で気になったのがひとつ。

テッソというモンスターの毛皮。

普段のテッソの毛は柔らかいらしい。ただ、一度敵に攻撃されれば魔力を毛に通し、鉄の鎧のように全体を硬くさせる。

その特殊な性質は毛皮の状態になっても活きているという話だ。

生息地は森の奥の水辺付近。

まだ森の奥には行けてない。だから遭遇できずに情報も手元になかった。

とにかく明日からは森でテッソ探しをしよう。


情報のお礼にアランとお揃いのミサンガをアカツキにプレゼントする。

渡すときに「お揃い」を強調したらなんとも言えない顔をされた。でも、予想よりは崩れてなかったな。

「サンキュ」と言った声が固かったのは気のせいではないだろう。


アカツキの反応で少し遊んでいたら、ユヅが勢いよく立ち上がった。

その勢いのままテーブルを回り俺の横につく。と同時に両肩を掴まれ向かい合わされた。


「お願いがあります!」


意識して抑えるものの条件反射で少し眉が寄る。

ユヅの口調が、普段は聞くことのない丁寧な言葉づかいになったときは要注意だ。

経験上、ムチャぶりしかされたことがない。


「何?」


それでもましなときもあるので一応内容を聞いてから判断するのが常。今回も。


「服をね、背中が大きく開いたデザインにリメイク?してほしいなぁって……ダメ?」

「いくつ?」

「えっと…7、8?……たぶん10着くらい」


作業的にはたいしたものではなかった。なら問題視すべきは数だろうとあたりをつけて追及する。

聞かれたユヅは指折り数え、両手をパーからグーに変えてしまった。

申し訳ない気持ちはあるようで、告げる声は弱く眉も下がっている。


「何で?」


好みのデザインというには多い。別に理由(わけ)があるのだろう。


「翼の出し入れを自由にしたくてさ」


つばさ?……翼!?

そういえばユヅの種族を聞いてなかった。

翼を持つのは鳥系統の獣人族(ビースト)竜人族(ドラゴニュート)

どちらにしても確かに不便そうだ。ムリに翼を出せば後ろが裂けて犠牲になる服も少なくはないはず。


「わかった」


モノは大切にしなきゃ。


「ありがとうタタ兄!感謝だよ。代わりに何か手伝えることがあったら言って。頑張るから」


今度は俺の両手を掴み上下に大きく振って歓喜を表すユヅの力に負けて身体全体が大きく揺すられる。

ユヅの体格は大体ノイと一緒。俺より少~しだけ背が高い。だけなのに何でこんなにも力の差が。

LVの差?もしくは種族が、


「ストップだユヅ。ただでさえお前は力の強い竜人族なのに、さらにLVの差も反映されてタタが哀れなことになりかけてるぞ」

「ふぇ?ツキ兄?って、ごめんタタ兄、大丈夫!?」


答えはアカツキが教えてくれた。


ユヅ、こういうのとは別のちゃんとしたかたちで種族を教えてもらいたかった。

アカツキ、止めるならもっと早くにしてほしい。


酔う手前で解放された俺に応える気力はほぼゼロに近い。

服に関する細かい希望は明日聞くことにして今日はこれで解散となった。



まだ宿を決めてなかったユヅは一晩お泊まり。ちゃっかり俺が用意した食事を堪能し宿代も浮かせていた。


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