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シーク・セルフ・オンライン  作者: 士月十旭
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プロローグ

「夕太、一緒に《SSO》やろう」


頭上の少し上からかけられた声に、手元で開いていた本の特集ページから目線を上に移す。

その先にいたのはアキ、添川そえかわ暁央あきお。弟だった。


「《SSO》やろっ!」

「……ゲーム、苦手」


くり返しアキが誘う《SSO》こと《Seekシーク-Selfセルフ Onlineオンライン》は今世間で大注目されているVRMMOゲームで、少し前にアキがβテスターに当選して1ヶ月間夢中になっていたゲームでもある。


「自分でも気づかないまだ見ぬ自分自身を見つける」を謳い文句に、膨大なスキルの量を売りにしている。

スキルの種類もピンからキリまで様々で中には使い道がわからないスキルもあるとか。

それに加え五感も現実と同様に感じることができ、NPCがプレイヤーと区別がつかないくらいリアル。

話題には事欠かないゲームだ。

そんなゲーム相手でも俺の興味は別にあった。



昔から俺、添川そえかわ夕太ゆうたと弟のアキは一卵性の双子でありながらいろいろ真逆へ進んだ。


わかりやすいところでまず体格から。

背が高くバランスのとれたモデル体型で顔もイケメンなアキは、男女共に「かっこいい」と言わせる憧れの対象。

アキより身長が20cmも低い155cmで止まってしまった俺は、近所の大人たちから「ちいさい」とからかわれる存在だ。

共に父親似で顔のつくりは同じ筈なのに。


ファッションではこだわりを持ち買うブランドも決まっているアキと、家族が買ってきたものをそのまま着ている俺。


趣味も、ゲーマーでありながら体を動かすことも好きなアキはゲームでもアクションゲームをよく好んでしている。

対して運動が苦手ではないが省エネタイプの俺が好きなのはモノづくり。特に指先を駆使する細かい作業はやっていて飽きない。


それでも共通するとこがないわけじゃない。

味の好みや好きな音楽。ゲームはしないけどよく好きな漫画で盛り上がることもある。

あと、地味だけど猫舌とか。



会話が終了したと判断した俺は、ハワイアンキルトの特集ページに視線を戻す。夏休みを利用して大作をつくる予定で、図案を選んでいる最中だったから。

カメは入れたいなぁ。


「好きなモノが誰にも邪魔されずつくりたい放題」


小さく呟かれた内容にページを捲る手が止まる。


「《SSO》なら普段ならできないモノがつくれて1日の時間の流れが6倍速いからその分モノづくりも長く楽しめるぞ」


揺れる。

俺の心情を察してアキが追い打ちをかけてくる。


「頑張れば自分の店も持てる」

「……ホントに邪魔されない?」

「絶対に。とは言いきれないが、生産職になるだろう夕太に頼むとしたらアイテムや装備に関してがメインだな」

「ならいい。でも」


アキがぶら下げたエサに釣られてやる気を見せても肝心のVRギアも《SSO》もない。


VRギアは開発が進み小型化、量産が可能となり一般家庭でも手に入りやすくなった。しかし、まだ子どもの小遣いで買えるレベルではない。

《SSO》も予約殺到で下手したら何年も待たなくてはならないという噂だ。


やはり俺はゲームと縁がないらしい。

ちょっとだけやってみたかった。

アキもすぐやれないものに誘うとは意地が悪い。


やる気が出た分軽く落ち込む俺の前に、箱が1つ。


「何?」

「何って、VRギア。必要だろ」

「何で?」


目の前にあるのは封を切る前の新品。

毎月小遣いをほとんど残さないアキが買えるはずがない。入手経路がわからずじっと、アキを見る。

俺に見られたアキはあっさりと白状した。


「弓月のやつもβテスターだったらしくてな。それは抽選漏れした時用の保険で親父に強請ってた分」

「そう」


父さんはユヅに甘いから。

2つ下の妹、添川そえかわ弓月ゆづきもアキに負けず劣らずゲーマーである。好きなジャンルはシュミレーションRPGだった気がする。


強かな妹に呆れ、何かあると強請られる父に同情しつつVRギアは有り難く受け取る。


「あと、これがβテスターの特典のひとつの招待パスコード。裏に接続方法も書いてあるから」

「ん」

「開始当日は混むからキャラメイクだけでも先にしといた方がいいぞ」

「ん」

「じゃ、おやすみ」


部屋を出て行くアキのあいさつにも気づかないほど、早くも俺は接続方法を確認しながら《SSO》でのモノづくりに想いを馳せていた。




高校入って初めての夏休み1週間前の夜の出来事。


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