表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふじ分遣隊  作者: 高嶺の悪魔
第三話 THE Great War 〜それぞれの戦い〜
16/28

その2

 翌朝。ホテルで朝食を済ませ、早い時間にチェックアウトした一行がフィールドに到着したのは八時半を少し回った頃だった。

 関東最大級と謳われるだけあって、XXXスリーエクセレイの敷地は広大だ。里山を一つすっぽりと飲みこむフィールドだけでなく、駐車場もまた広い。白線の引かれたアスファルトが遠くまで続く光景は、東京では滅多にお目にかからない。彬は田舎にあった郊外型の大型複合施設を思い出して、なんとなく懐かしい気分になった。

 そんな広い駐車場も、開店前だというのに既に半分ほどが埋まっている。彬たちは店が開くのを待つ間、車内で着替えを済ませておくことにした。店の敷地は駐車場も含めて、中が見えないようにフェンスで囲まれているから、戦闘服姿で歩き回っても近隣住民に迷惑をかけるような心配はない。当日は更衣室が混雑するからと、店側も事前に着替えを済ませてくるようにホームページで推奨していた。

 着替えを済ませると、彬たちはは荷物を担いで、駐車場の奥にある店舗へだらだらと向かった。まだ早い時間だというのに、日は高い。空を見上げれば、突き抜けるような快晴。絶好のサバゲー日和だ。

 店舗へ向かう途中には、数軒の屋台が並んでいる区画があった。道行く誰もが大荷物を抱え、戦闘服に身を包んでいるという異様さにさえ目を瞑れば、ちょっとしたお祭り気分だ。といっても、どの店のまだ準備中のようだが、幾つかの屋台からは食欲をそそる匂いが漂ってくる。

「いつも思うが、ケバブ屋のあれは反則だよな」

 ケバブを売っているキッチンカーの前を通りかかった剛明が、回転式グリルで焼かれている肉の塊を指してそう言った。

「あんなもん見せられたら、食わないって選択肢ないだろ」

「確かに」

 鼻をくんくんとさせながら、彬も頷く。視覚に訴えてくる肉の塊と、鼻腔に突き刺さる香辛料の香りは否が応でも胃袋を刺激してくる。

「あ、でも。横で売ってるタコライスも美味しそうですよ」

「うっ、カレーもあるのか……迷うな」

「……君ら、もうお昼のこと考えてるの? さっき朝ごはん食べてきたばかりじゃないか」

 朝食に何を食べようかと盛り上がっている二人を、小食な亮真が信じられないという目で見ていた。


 開店とともに受付を済ませた彬たちは、今日の所属チームを示す青い腕章を受け取った。青い腕章は西軍チーム、相手チームは赤い腕章の東軍チームだと受付で簡単に説明を受ける。腕章は料金を支払った参加者だという証でもあり、これをつけていればシューティングレンジなどの設備は使い放題で、逆につけていないとフィールドへ出入りできない。なので、基本的には外さないようにとのことだった。

 また、腕章にはそれぞれ番号が振られていた。これはゲーム終了後、今日もっとも活躍したプレイヤー、つまりはMVPを決めるための投票で使うという。MVPはフィールドを回っているスタッフと参加者たちの投票で決まる。自分には投票できない。活躍している人を見かけたら腕章の番号を憶えておいてくださいと言われた。短い説明が終わると、次に待つ人のためさっさと受付を離れる。腕章は亮真が代表して受け取っていた。

 彬たちふじ分遣隊の腕章番号は43から47までの連番だった。

「良かったですね、隊長。45(フォーティファイブ)ですよ」

 店を出たところで、亮真がそういって45番の腕章を辰巳に渡す。45が何のことかといえば、彼の愛銃であるコルト・ガバメントの口径の大きさだ。

「別にそんなところに拘ってないよ、僕は」

 辰巳が苦笑しながらも受け取ると、次に亮真は43番の腕章を彬に配った。特に意味はなく、一番若いからというのが理由だった。別に数字に拘りがあるわけでもなく、MVPにも縁がないだろうと思っている彬は特に文句もなく、素直にそれを受け取って腕に巻いた。続けて充希が44、剛明が46、最後に亮真が47を腕に巻き付ける。


 受付を済ませた一行は、そのままセイフティへと向かった。

 XXXのセイフティは二つある。店舗のすぐ隣に一つと、店の正面にある朝礼台の置かれた広場を挟んだ向かい側に一つ。それぞれ五百人。最大で千人まで収容可能だと店のホームページには書かれていた。

 彬たち、青い腕章の西軍チームのセイフティは店の向かい側にあるほうだった。遊園地などでよく見かけるパラソルのついた丸いピクニックテーブルがずらりと並んでいるセイフティは駐車場に負けず劣らず広い。それでも、やはり半分近くのテーブルが埋まっていた。

 なるほど。これは今まで参加してきたどのゲームより大規模だ。

 空いているテーブルに荷物を下ろしたところで、周りを見回した彬は改めてそう思った。

 セイフティは既に百人以上のプレイヤーで賑わっている。そして、その数はどんどん増えていく。人数が増えるのに比例して、楽しみな気持ちと同じくらい緊張もしてきた。

 少し跳ね上がった心拍数を武者震いだと誤魔化して、彬は荷物を解いて装備を取り出す。

 といっても、夏休みにバイトした分の給料はまだ振り込まれていないため、装備は前回とほとんど変わっていない。マルチカムの迷彩服の上にチェストリグをつけて、服を買った際についてきたおまけの帽子を被り、田舎の父親から贈られたトレッキングシューズを履く。

 前回と少し違うのは、ライフルのマガジンポーチを追加したことだ。ベルトに取り付けるタイプのもので、M4系ライフルのマガジンが二本入る。彬はそれを腰の後ろに取り付けた。ポーチは垂直ではなく、少し斜めになっているのでその位置でもマガジンを取り出しやすい。その代わりに空いたチェストリグのポーチにハンドガン用のマガジンと財布や携帯などの貴重品を入れておく。

 メインアームは引き続き、辰巳たちから借りている電動のM4だ。それにサイドアームは購入したばかりの相棒であるM9。今日は絶好のガスガン日和だ。活躍してくれるだろう。そのためにしっかりと整備もしてきた。といっても、彬はそこまで詳しくないので整備といっても精々が説明書に書かれている手入れくらいしかできないのだが。

 とりあえずの準備が出来たところで、中央広場に集まるようスタッフのアナウンスが響いた。フィールドレギュレーションの説明や諸注意を行うとのことだった。


 たとえ装備が統一されていなくても、戦闘服に身を包んだ人々がずらりと居並ぶ様は壮観だ。そんな人々の前で、朝礼台に立った一人の男性が手にした拡声器を口に近づける。

「おはようございます! 本日は朝早くからお集まりいただき、本当にありがとうございます!」

 男性は深く一礼をしてから、粟斗あわとと名乗った。この店の店長だという。

「皆さんも待ちきれない様子なので、ご挨拶はこれくらいにして。まずは当フィールドについて簡単に説明させていただきます。当店には森林、市街、そして屋内と三つのフィールドがあります」

 そういって、粟斗は各フィールドの簡単な説明を始めた。

 森林フィールドは敷地内にある小さな里山の一つをそのまま活用したもので、三つあるフィールドの中で最も広い。木々や茂みといった自然の障害物の他にも、数多くのバリケードが設置されている他、フィールド中央には塹壕とヘスコ防壁に囲まれた前進基地を模した陣地があるという。フラッグ地点は全部で五か所。フィールドの東西にそれぞれ二つずつ等間隔で置かれているものと、中央の陣地に一つだ。

 次に市街フィールドは中央にバスの廃車が鎮座する通りを中心に、道の左右に一階建てや二階建ての建物が立ち並んでいる。建物による高低差はもちろん、プレイヤーの行動や戦闘経過によって屋外戦と屋内戦が次々に切り替わるテクニカルなフィールドだと紹介していた。

 最後の屋内フィールドは廃工場を模したという縦長の建物だ。

 内部は吹き抜けの二階構造になっていて、コンテナや廃機材などの障害物が複雑に入り組んだ、迷路のような造りになっているという。


「皆さんには本日、青い腕章の西軍と赤い腕章の東軍に別れ、この三つのフィールドで、それぞれ異なったルールで戦ってもらいます。まず、森林フィールドは陣地争奪戦です。五つあるフラッグ陣地を奪い合い、最後により多くの陣地を確保していた方が勝利となります」

 市街フィールドはカウント戦だ。とにかく、より多くのヒットを取り合うだけというシンプルなルールである。

「最後の屋内フィールドはちょっと難しいルールになります。物資争奪戦です」

 そう切り出した粟斗は、足元に置かれていたポリタンクを持ち上げた。

「工場内のランダムな場所にこうした水の……危険な化学物質の入ったポリタンクが七つ置かれています。これを奪い合い、自陣内へ運び込んでください。終了時により多くの危険な化学物質を、自陣に確保していたチームの勝利となります」

 また、終了時にポリタンクをチームの誰かが持っていたというだけではポイントにならず、自陣内に確保されている分だけがカウントされるという。

「もちろん、一度相手が確保したポリタンクを奪うのもオッケーです。ちなみにこのタンクは一つ、三十キロあります」

 何でもない風を装ってポリタンクの重さを明かした粟斗に、プレイヤーたちの一部から「三十キロ!?」「マジかよ!」「鬼か!」と、笑いと悲鳴混じりの声が上がった。みんな戦闘服に身を包んではいるが、別に普段から鍛えているというわけでもないのだ。そんなプレイヤーたちの反応に、粟斗は「マジです」と満足げな顔で答えていた。

「以上、三つのフィールドとそれぞれのルールは理解してもらえましたでしょうか。どのフィールドで戦うかは皆さんの自由です。もちろん、途中で別のフィールドへ移動するのもオッケーです」

 一つのフィールドで戦い続けるのも、戦況の悪くなったフィールドを点々と渡り歩く傭兵スタイルも、戦い方は参加者の自由というわけだ。

「さて。本日はこのあと、九時半からフィールド閉鎖の十八時半まで九時間ぶっ続けで戦ってもらうわけなんですが、もちろん復活は無制限です。ただし、ヒットされてから再出撃するためには一度、フィールドを出てもらい、この中央広場に置かれているカウンターをクリックしてもらいます」

 そういって、粟斗は朝礼台の左右に張られているタープテントを示した。それぞれに青と赤の旗がたなびいているそこで、事務机の前に並んだスタッフたちが参加者たちに手を振る。

「えー、以上がルール説明となります。要するに、ゲーム終了時の森林、屋内フィールドでの勝敗と、全体のヒット数を合わせて、今日一日の勝敗を決めるというわけですね。それでは最後に、糞面白くないだろう注意事項の説明に入らせていただきますが、大事なことなので耳かっぽじってよーく聞いてくださいねー。まず、ゲームに夢中になりすぎて水分補給を怠らないようにしてください。休憩もちゃんと取ってくださいね。今日も暑くなりますから、死にますよー」

 冗談のような口調で始まったのは、いつも通りの安全に関する諸注意だ。それに彬は緩んでいた気を引き締める。

 セイフティではエアガンからマガジンを抜く。フィールドでは決してゴーグルを外さない。他人を故意に傷つけるような危険なプレイはしない。何かトラブルがあれば、フィールドを回っているスタッフに相談する、等々。当たり前だが、決して疎かにしてはいけない大事なことだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ