その8
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「一人は灰色のパーカーに、オリーブドラブ色のカーゴパンツ。もう一人は白い半そでのTシャツにジーンズを穿いてた。二人とも典型的な金のない学生って感じの装備で、よくある安物のフルフェイスゴーグルに、電動のハンドガンを持ってる。UPSとグロックだったと思う。あっちに行った」
「分かった」
剛明が指さした方向へ顔を向けて、辰巳は頷いた。
伝えるべきことを言い終えた剛明はそれ以上何も言わず、大きな銃を担いでセイフティへと戻ってゆく。その背中に、亮真が声を掛けた。
「ベアー、そのオートマグ貸しなよ」
そう言って指さしたのは、剛明が腰に差している大口径のハンドガンだ。
一瞬、きょとんとした顔で亮真を見つめた剛明だったが、すぐにその意味するところを察したようだ。
「俺の仇、頼んだぜ、相棒」
言いながら、ガンベルトごと腰から外してハンドガンを亮真へ渡す。
「任せときなよ、、相棒」
答えて、亮真はハンドガンを受けとる代わりに自らのサブであるイングラムM11を剛明に手渡した。
33
「聞いてたかよ、さっきの奴。おい、ヒットだろうがぁって。バッカみてえ」
「聞いた、聞いた。二、三発喰らったからって何だってんだよな。それで顔面にぶち込まれてちくしょー、とか。間抜け過ぎんだろ」
そんなやり取りをしながら、若い二人組が林の中を歩いている。
周辺に人影はない。ゲームも終盤戦へ差し掛かり、フィールドに残っているプレイヤーも少なく、双方のフラッグ陣地で激戦が繰り広げらているらしくスタッフたちもそちらへ集まっているのだろう。
「それにしてもあっちぃな。こんな邪魔なもん着けてないとフィールドに入れないとか、甘っちょろすぎ。そもそも俺たちは撃ちあいに来てんだっつーの」
うんざりしたように言いながら、白いシャツを着た男がフルフェイスのゴーグルを顔から外した。それを団扇のように使って、汗の浮いた顔面を扇ぎ始める。それに、隣を歩く灰色のパーカーもゴーグルを外した。
「あ、視界が曇らないってマジ最高。つーかさ、これで戦わせろって感じだよな」
「いや、マジでそれな」
同意するように、白シャツが持っているハンドガンでパーカーを指さした時だった。
ぱちんっ。
「痛ってぇ……!!」
突然、後ろから太ももの裏を撃たれたパーカーが叫びながら飛び上がる。
「いきなりどうした?」
「撃たれた、後ろだ! ちっくしょう、痛えっ」
太ももをさすりながら、悪態を吐いて背後へ振り向くパーカー。だが、そこにあるのは緑の茂みだけだ。
「誰も居ねぇぞ?」
「あれ? おっかしいな。流れ弾か?」
「どっから飛んでくんだよ」
それぞれハンドガンを構えながら、きょろきょろと林の中を見回す二人。その背後から、再びBB弾が飛んできた。ぱちんと音をたてて、今度は白シャツの尻に当たる。
「あっ、つぅ~~……」
白シャツが痛みに呻きながら、尻に手をやった。彼の穿いているジーンズは足の形にぴったりとフィットするタイプのもので、BB弾に対する防護性などほとんどないのだろう。
かなり痛そうだ。
「くっそっ、何処だ!? 撃ち返してやる!」
尻をさすりながら、白シャツが苛ついた声を出す。そこへ。
「撃ち返してやる、じゃなくて。撃たれたらヒットコールをしてセイフティへ戻るんだよ。まさか、そんなルールも知らずに参加したのかい?」
やれやれといった調子の声が響き、彼らのすぐ近くある茂みから草のお化けならぬ、ギリースーツに身を包んだ亮真が現れた。
「それと、今すぐにフェイスゴーグルをつけるんだ」
驚いたように自分を見ている二人に、亮真は手振りを交えてそう注意した。空いている方の手には剛明から預かったオートマグが握られているが、構えてはいない。
辰巳には及ばないまでも、ハンドガン射撃の腕前はそこそこだと自負している亮真だが、ゴーグルも付けていない相手を正面から撃つような真似はできないからだった。
しかし、二人はそれを聞くと小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「なんだよ、撃つなら撃てよ、ほら。俺は気にしねえぜ?」
挑発するように言いながら、パーカーが両手を大きく広げる。
「君らが気にしなくてもさあ。君たちみたいな馬鹿に大怪我されるとこっちが迷惑なんだよ」
「怪我が怖くて戦争ゲームなんてできるかよ。大体さ、足撃たれただけだぜ? 実銃で撃たれたって死にゃしねえよ」
呆れたように答えた亮真へ、白シャツがせせら笑うように言った。
それを聞いた亮真は思わず失笑を零してしまった。
たまに。本当にごく稀に、だが。こういう勘違いをしている人はいる。急所に当たってないからとか、このくらいじゃ人は死なないとかいってヒットコールを拒否するのだ。
しかし。亮真が剛明から預かったオートマグの実銃は、通常よりも威力の高いマグナム弾を発射する大口径のハンドガンだ。足だろうと腕だろうと、まともに撃たれればただでは済まない。
そもそも。実銃で撃たれて大したことが無いわけがない。
「馬鹿というか、これはもう知識と想像力の欠如甚だしいね。君たち、出血死って言葉知ってるかい?」
「ごちゃごちゃうるせえな! そっちから来ないなら、こっちからいくぜ!」
思わず皮肉を零した亮真へ、白シャツがハンドガンを撃った。ハンドガンでありながらフルオート射撃のできる電動ガンだ。
「やれやれ、何をいっても無駄だこれは」
ぼやくように呟きながら、亮真は白シャツの射撃を木の幹に隠れて避ける。
「おい、挟み込むぞ! お前は右からだ!」
「オッケー」
白シャツが指示を出して、じりじりと亮真の隠れている木へと近づく二人。だが、そんな簡単に捕まるような亮真ではない。
二人が亮真の隠れている木の影に銃を向けた頃には、すでにそこから十メートルほど離れた茂みまで移動を終えていた。
「残念、こっちだよ」
呼びかけながら、亮真はこちらに背を向けている二人を素早く撃った。痛みと発砲音に、振り返った二人が一斉に引き金を引く。
「下手だねえ。どこ狙ってんのさ」
素早く次の茂みに移動しつつ、亮真は再び彼らに声を掛けた。
「馬鹿にしやがってあの野郎!」
「もうすぐゲーム終了だよな? 残ってる弾、全部アイツに撃ち込んでやろうぜ!」
狙い通り、挑発に乗ってくれた二人組は逆上したように四方八方へ滅茶苦茶に弾をばらまきながら、亮真を追いかける。
亮真はそれを巧みに交わしながら、二人を誘導していった。
ゲーム終了まで残り八分。
双方のチームが苛烈なフラッグ攻防を繰り広げる中、ふじ分遣隊の小さな戦いが静かに幕を開けた。
34
一方その頃。
セイフティへ戻った佐々木剛明の前には、一皿のカレーがあった。
ここはトップ・フォレストの店舗に併設されている食堂、山の家だ。
白い長テーブルとプラスチック製のガーデンチェアが並んでいるだけの殺風景な店内には、まだお昼時には早いため剛明以外に客の姿はない。
注文受付口に立っているおばちゃんと、奥のキッチンにいる調理担当のおばちゃんの他愛もない会話を聞きながら、剛明は皿から立ち昇る湯気を胸いっぱいに吸い込んだ。
分かり易いカレーの匂いに胃袋が刺激されて、口の中が唾液でいっぱいになった。
たまらず、一匙掬って口へ運ぶ。思った通りの味が剛明の口の中に広がった。
野菜の甘みだの、コクだのというややこしいことが一切ない。カレーと評する他にない味。
山の家カレーなどと謳っているが、なんのことはない。
ただの市販されているレトルトカレーである。欠片のような人参とジャガイモ、それにやらたとぱさぱさした肉が浮かんでいるだけのルーに、ライスと一つまみの福神漬けが添えられているだけだ。
そのくせ値段は一皿七百円と、お山の上価格である。
喫茶ふじであれば、同じくらいの値段で辰巳特製のビーフカレーにドリンク、ランチタイムならさらにミニサラダまでついてくる。
それもただのカレーと侮るなかれ。生粋の凝り性である辰巳がスパイスから調合したというルーには形を無くすまで煮込んだ野菜が溶け込み、芳醇な香りと野菜の甘みが凝縮された茶色い海の中には一口大のビーフがごろりと入っているのだ。
サラリーマンだけでなく、お子様からおじいちゃんおばあちゃんまで。老若男女問わないふじの人気メニューである。
それに比べてしまえば、確かにここのカレーは安っぽい。
だが、それでも。この一皿には七百円の価値がある。
剛明はカレーを食べる手を止めることなく、そう確信した。
やれ、原価が幾らだなんだと、そのような無粋なことを言い出す輩は大人しく家にでも籠って耳と目を閉じ、口を噤んで孤独に暮らせばよいのだ。
長年使いこんでいるのだろう、汚れやヒビの目立つ年季の入った長テーブル。クッション性など考慮もされていないプラスチックの椅子。びっしりと結露を纏った氷水のグラス。そこら中に鳴り響くセミの声。ゲームはよほど盛り上がっているのだろうか。開け放たれた出入り口からは時折、心地の良い風と共に歓声も吹き込んでくる。
そんな中でかきこむ、このカレー。
剛明が今ここで味わい、感じている全てにはきっと、七百円などでは到底得ることのできない価値があるに違いなかった。
35
亮真に誘われて、白シャツとパーカーの二人が辿り着いたのは林のほぼ中央。特にブッシュが多く茂っている場所だった。
そこに一つ生えている木の幹に背中を預けて、一人の男が待っていた。
「来たか」
スリングを着けたM4を肩から吊った彼は、右手の人差し指で被っているブーニーハットのつばを押し上げながらゆっくりと二人へ顔を上げた。
「なんだ、アンタ」
面食らったような声で白シャツが問いかけるが、辰巳は答えない。そこで彼のすぐ脇にある茂みが揺れて、亮真が姿を現した。
「ご命令通り連れてきたよ、隊長」
そう報告する亮真に慌てて銃を構える二人だが、それを黙って見ている辰巳のことが気になるのか。すぐには撃たなかった。
「仲間がいたのかよ」
辰巳と亮真を見比べながら、パーカーがやりにくそうな声を出した。
「ちょっと確かめたいことがあったんでな」
応じたのは辰巳だった。
「だが、その前に。まずはゴーグルをつけろ」
「んだよ、偉そうに……」
「着けるんだっ!!」
命令口調で言われたのが気に入らないのか。反論しようとした白シャツを、辰巳が鋭く一喝した。圧倒的な強制力のある声だった。本気で怒っている大人の怒鳴り声だ。
亮真からの注意は聞き流した二人だったが、有無を言わさぬその迫力に気圧されたのか。ぶつくさ言いながらもフェイスゴーグルを装着した。
「よし」
二人がちゃんとゴーグルを着けたことを確認した辰巳が小さく頷く。
「それでは」
ゆっくりと木の幹から背中を離した辰巳は、二人に向けて一歩踏み出しながら腰の右側に差してある愛銃を流れるような動作で抜いた。
彼の愛銃、コルト・ガバメントM1911A1ガスブローバックが火ならぬガスを噴き、撃ちだされたBB弾が二人を撃ち抜く。
「いってぇっ!」
「アンタもかよっ!!」
「お前らは撃たれた。ヒットコールをしろ」
悪態を吐く二人に、辰巳は銃口を突きつけたまま静かに言った。
だが、二人は応じず、代わりに手にしている銃を構えようとする。辰巳はすかさず発砲して、それぞれが銃を握っている手の甲を撃った。
グローブも付けていない二人は手を撃たれた痛みに悶絶して反撃ができなかった。
「もっと撃たれたいのか?」
銃を構えたまま、さらに辰巳が訊く。
「嫌なら、さっさとヒットコールをしろ」
「……ヒットコールって、あのひっとぉ~ってやつだろ?」
撃たれた手を庇うようにしながら、白シャツが少し涙ぐんだ目で辰巳を睨んだ。他のプレイヤーたちのヒットコールを真似たのだろうが、その口調にはあからさまに馬鹿にするような響きがある。
「あほらし。バッカじゃねぇの、みんな。恥ずかしくてやってらんねぇよ、あんなの」
「大体さ。みんな、撃ちあいがしたくて来てんだろう? だったらさ、安全とか怪我しないようにとか、細かいこと気にすんなよって思わねえ?」
白シャツの隣では、パーカーがいよいよ面倒そうな態度で地面を蹴っている。
「前に行ったとこでもそうだったけど。ルール、ルールうるせえんだよ。殺し合いにルールなんてねえだろ? ちょっと弾がかすったくれえで人が死ぬかっつーの」
どうやらこの二人。別の場所でも同様の反則行為をして追い出されたことがあるらしい。
そんな二人を見て、辰巳は深く息を吐いた。
「ね、隊長。無駄でしょ?」
やれやれといったように、亮真が肩を竦めながら囁く。
「みたいだな」
辰巳はそれに、諦めたように頷いた。
「ここなら結構ガチな人が集まってるって聞いたから来たのに、結局同じじゃねえか。男らしくねえんだよ、みんな。戦ってんだから怪我すんのなんて当たり前じゃん」
と、白シャツが付き合いきれないとばかりに吐き捨てた時だった。
「男らしい?」
どこからともなく響いたのは、女性の声だ。
「なるほどね。それがアンタたちの考える、男らしさなわけね。ルールも守れずにうだうだと駄々こねるのが」
驚いたように二人が顔を向けた先で、茂みからMP5を構えた充希が立ち上がった。
「そういうのは男らしいじゃなくて、ガキっぽいっていうのよ。知らなかった? アンタたちモテないでしょ? もしかして童貞?」
詰るその言葉は容赦がない。今の充希は装備を付けているから顔が見えないおかげで、二人はまだ救われているだろう。彼女が美人だと知っているふじ分遣隊のメンバーからしてみれば、もしも今の言葉が自分に向けられたものだったとしたら死にたくなっているところだった。
「ドロシー、まだ出てくるのが早い」
「すみません、隊長。でも、聞き捨てならなかったもので」
宥めるようにいった辰巳に、充希は二人組を睨みつけたまま謝った。
男と女について一種独特な美学を持っている彼女にとって、それほど許しがたい言動だったのだろう。
それにしても今のセリフは若い女性としてどうなのだろうと思いつつ、いや、自分も人のことは言えないかと反省した辰巳は、ブーニーハットを被りなおした。
「まあ、いい。どうしても認めないというのなら仕方がない。ジュニア、出てこい」
「はいっ」
返事とともに、彬も二人組の近くにある茂みから出てくる。
「なんだ、お前らっ!?」
いつの間にか取り囲まれていたことを知って、白シャツとパーカーが慌て出す。
そんな二人を睨みつけながら、辰巳はガバメントをホルスターに戻して、M4のチャージングハンドルを引く。
「紳士の時間は終わりだ。いくぞ、野郎ども。ただし、たとえ相手がゾンビだろうと俺たちは猿でも野蛮人でもない。顔は極力狙うな」
「了解!」
「はいはい」
「野郎じゃないのもいますけどね」
表情を引き締めた三人が、三者三様の返事を返す。そして。
「撃てっ!!」
辰巳の号令一下、四つの銃口から無数のBB弾がフルオートで撃ちだされる。
それはまっすぐ、取り囲まれている二人組を襲った。
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「いてえっ、いてぇって!」
「何すんだよ、てめえら!!」
「やめて欲しけりゃ、ヒットコールをするんだ。そしたらセイフティに帰してやる」
辰巳が辛抱強い声でそう促すが、二人は頑なにそれを受け入れない。
「ざけんな、クソ!!」
「これが実銃で、これだけ撃たまくったら、流石に死んでると思うけど?」
駄目押しのように亮真が口にするが、もはや意地になっているのだろう。二人はそれを無視して、痛みに呻き、悲鳴のような悪態を吐きながらも必死に撃ち返してくる。
だが、巧みに射撃位置をずらしながら発砲しているふじ分遣隊のメンバーには当たらない。やがて、反撃は諦めたのか。二人は近くにある木の影へ隠れようとし始めた。
だが、その程度のことは織り込み済みである。
辰巳たちはBB弾の嵐から逃れようとする二人の背後へと回り込むように移動して、決して逃がさない。
二人組を追い詰めながら、彬も容赦なくフルオートで撃ち続けた。
もちろん、最初に言われた通り顔は狙わないようにしているが、これだけの近距離で撃ち込まれれば相当痛いだろう。
だが、可哀そうだとは思わなかった。
自分でも珍しいと自覚しながら、彬は怒っていた。
剛明が撃たれたこともそうだが、何よりも二人が他のプレイヤーたちを馬鹿にしたことが許せない。
せっかくみんなが楽しんでいるところに入ってきたのは自分たちではないか。
そのくせ当たり前のルールすら守らず、何を偉そうに人を馬鹿にしているのだ。
「んだよっ、寄ってたかってよぉ!」
四人からの集中砲火に耐えきれなくなったのか。白シャツが激高したように喚いた。
「だったら、ヒットコールをしろ。そうすればすぐにやめてやる」
射撃しながら応じた辰巳の声は無機質で、少し沈んでいるように聞こえた。
当たり前だと彬も思った。
こんなこと、楽しくもなければ面白くもない。
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大口叩くだけのことはあるのか。二人は意外にしぶとかった。
彬たちが持っているBB弾も無限ではない。
最初に弾切れを起こしたのは辰巳だった。彼は個人的なこだわりからマガジンに装填する弾数をリアルカウントで縛っているからだ。
しかし、彼はオープンホールドしたM4から素早くハンドガンへと持ち替えて、何事もなかったかのように射撃を続行した。
その上、狙いが先ほどよりも正確だ。太ももの内側や二の腕、服の薄い場所など、当たると痛いところを的確に撃ち抜いていく。
そうこうしている内に、彬のM4もカラカラと空撃ちの音をたてはじめた。なので、辰巳の見様見真似でスリングを調整しながらM4の銃口を下げて、自分も拳銃を抜いた。
まさか、買ったばかりの愛銃を初めて使うのがこんな場面になろうとは。
そんな想いとともに安全装置を外してスライドを引き、弾丸を装填する。
残るはこれと、一緒に買った替えのマガジンだけ。亮真と充希も残弾は少ないだろう。
そう考えた彬は、白シャツを狙った。
彼の方がパーカーよりも薄手だ。集中的に狙われれば、忍耐力も尽きるだろうと思ったからだった。
ガスガンは電動ガンと比べて少し威力が高く、連射速度は電動と比べても遜色ない。
それに今日は真夏日。少々連発しても、ガスの気化不足による動作不良は起こりにくいだろう。
バスバスバスッと音を立てて、あっという間に彬が一つ目のマガジンを撃ち切った時だった。
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「くっそっ、分かったよ! 痛えな畜生! 撃つのやめろよ!」
遂に白シャツが降参するように両手を上げながら、オープンホールドしているM9を構えたままの彬にそう怒鳴った。その横で、パーカーも同じように両手を上げている。
「ヒットコールは?」
全員に射撃を止めるよう手で合図してから、辰巳は二人に尋ねた。
返答は舌打ちだった。
「降参だって言ってんだろ。それでいいじゃねえかよ」
何が何でもヒットコールはしたくないのだろう。パーカーがそう吐き捨てる。
そこへカシャン、という金属音が響いた。
彬が空になったマガジンを新しいものと入れ替えたため、ホールドオープンしていたM9のスライドが前進した音だった。
認めないなら、まだ撃つぞ。そんな彬の心の替えが聞こえたのか。
「ちっ……ヒット」
「ヒットっ」
不貞腐れながらではあるが、ようやく二人はヒットコールを口にした。
「ゲーム終了でーーす! 第二ゲームの結果は時間切れのため、双方引き分けとなりまーーす!」
同時に、ゲーム終了を知らせるアナウンスがフィールド中に響き渡った。
本作はフィクションです。
もし実際のゲームでゾンビ行為を発見しても、絶対に真似はしないでください。