表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

レポート



「ただいま…」


 玄関を入って靴を脱いでいると、ダダダダと階段を駆け下りてくる音がした。

 怪訝に思って顔を上げたとたん、目の前に顔があって陸は仰天した。


「わあっ。脅かすなよっ」


 姉の栞が、目を真っ赤にさせて立っていた。


「どうした…んだ?」


 ものすごく機嫌が悪そうだ。


「ちょっと来てっ」

「な、何だよっ」


 強引に腕を引かれて、階段を上がる。姉は蹴破るように部屋のドアを開けると、陸の背中を突き飛ばした。


「入ってっ」

「痛いなっ。優しくしろよ」


 体がだるいのに、とぶつくさい言いながらベッドに腰かける。すると、栞が陸の洋服を掴んで揺さぶった。


「ちょっと聞いてよ、ひどいんだから」

「な、なんだよ」

「隼人の事が好きっていう友達がいたから紹介したの。そしたら、夕べ二人でホテルに入っておきながら、隼人は何にもせずに飛び出していったっていうのよ」

「はあっ?」


 栞が言い放った言葉に気を失いそうになる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 気が動転してしまった。なのに、姉は待ってくれない。


「自分からホテルに誘っておきながら、いざとなったら急にそわそわしだして、ごめんって言うなり、友達を放ってホテルを飛び出して行ったのよ」


 嘘だろ…。誰か、嘘だと言ってくれ。


 呆然としている陸を無視して、姉はじっとりと睨んだ。


「陸、隼人とすっごく仲がいいよね」

「え…?」


 思わず、ドキッとする。


「隼人に聞いてくれない?」

「何を…」

「どうして、そんなひどいことをしたのか。何を考えているのか」

「い、いやだよ」


 陸は、慌てて首を横に振った。

 冗談じゃない、泣きたいのは俺の方なのに。

 栞には内緒にしているので、大きく言えないが。


「今すぐ、隼人に連絡をして」

「今? 無理だよ。レポートが終わってないんだ」

「終わったらすぐに行くって言って」

「何のために……」


 隼人の家から戻ったばかりなのに。しかも、そんな話を聞いた後で、会いたいとは思わない。


 嫌そうに顔を背けると、栞は携帯電話を目の前に差し出した。


「電話して」


 突きつけられて陸は仕方なく電話をかけた。

 いなければいいと願ったのに、隼人はすぐに電話に出た。夜、遊びに行くからと言うと、あ、ああと少し驚いた返事があった。


「これでいい?」


 うんざりして姉を見ると、栞は満足げに頷いた。


「よろしくね」


 はあ、と陸はため息をついた。

 栞は部屋を出て行き、まじめに机に座って参考文献をとりあえず開きながら、陸は何度もため息をついた。集中できない。けれど、レポートを終わらせないといけない。

 レポートを書き始めたが、頭の中は栞の言葉が張り付いて消えなかった。

 さっきのセリフが、リアルすぎて悲しくなってくる。

 思った以上に時間がかかって、レポートを終わらせると陸は立った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ