朝
翌朝、目を覚ました時、隣を見たが、隼人はいなかった。
陸は起きると、目をこすりながらバスルームへ直行した。シャワーを浴びてさっぱりしてリビングに行くと、スーツに着替えた隼人が電話をしていた。つけっぱなしのテレビの音量は小さい。
画面ではニュースキャスターが事件の報道を伝えていた。そのそばで、隼人は真剣な面持ちで相づちを打っていた。
「はい。分かりました。それで担当はどなたが?」
すぐに仕事の話だと気付いた。
「そうですか。彼なら安心ですね。ええ、お任せします。はい、よろしくお願いいたします」
電話を切った隼人は安堵した顔をしている。そして、テレビの音量を上げた時、パッと画面が切り替わり、CMが流れ出した。偶然、姉の朝比奈栞が写った。
流れているCMは、「朝食にヨーグルトを取り入れよう」というコンセプトだ。しかし、最後まで見ずに隼人はチャンネルを変えた。
「おはよう」
「あっ、陸」
振り向いた隼人は、陸が背後にいた事に気付いて少し慌てた。
「どうかした?」
栞のコマーシャルは見飽きたのかな?
確かに姉はしょっちゅうテレビに出ている。
隼人は質問には答えずに、
「コーヒー淹れようか?」
と言った。
「うん」
「すぐ淹れる」
隼人は言うなり立ち上がった。
「さっきの電話、仕事の事だろ? 忙しいの?」
陸はソファに座りながら、キッチンに立つ隼人に尋ねた。彼は何となくぼんやりしている。
「え? ああ。まあな」
隼人は上の空で答えた。
疲れているのかもしれない。そう思った陸は、コーヒーを飲んだら家に帰るよ、と言った。
「もう、帰るのか? 少しくらいゆっくりしていけよ」
「あ、うん。大学のレポートがたまっているから、片付けないとまずいんだ」
本当だった。
オーディションと隼人の家の往復ばかりしていたので、学校の勉強が少しおろそかになっていた。
「そうなのか? だったら仕方がないな」
「うん」
隼人が淹れてくれたコーヒーをじっくり味わって、名残惜しいが玄関へ向かった。
「じゃあね」
本当はもっとそばにいたかったが、隼人も仕事が忙しいのだろう。強引には引き止めなかった。再びリビングから電話の音がした。
「気をつけて帰れよ」
隼人は片手を上げると部屋に消えた。
陸は外へ出て眩しい朝日に目を細めた。
「俺もがんばらなきゃ」
オーディションに受からない限り、隼人の誕生日プレゼントも買えない。歩いて駅に向かった。




