表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

配属




 志垣と別れて電車に乗り、最寄り駅で降りた陸は夜道を急いだ。

 きっと、隼人は心配しているに違いない。しかし、自分がオーディションを受けていることは秘密にしてあった。志垣に会った事はばれないようにしなくてはならない。



 隼人が暮らす高級マンションに着くと、マスターキーを取り出して中に入った。部屋の中は真っ暗で、まだ戻っていないようだった。


「何だ……」


 どっと力が抜ける。

 寝室に入り、もらった書類をカバンに突っ込む。中身は学校で見ようと思った。隼人にばれたら大変だ。

 もう終電はない時間だった。

 もう一度シャワーを浴びて、パジャマに着替えると寝室に行った。ふかふかのベッドに潜り込むとすぐに眠気に襲われた。本当は、隼人の顔を見るまで、眠りたくないと思っていた。

 今朝は、起きたらすでに会社に出かけた後だったし、忙しいことを理由に隼人とはすれ違いばかりだ。

 今夜はゆっくり二人きりで過ごしたい。そう思っているのに、陸は熟睡してしまっていた。



「陸。おい、起きろ」


 耳元で大好きな声が響いている。


「ん…」


 陸は眩しさに手の甲で目を隠した。


「まぶし……。隼人?」


 今、何時だろう。

 ぼんやりと隼人の顔を見た。


「……お帰り」

「よく寝ていたな」


 隼人はシャワーを浴びた後のようだった。ぎしっとベッドを軋ませてふとんに入るなり、陸の体を抱きしめた。


「遅かったね」

「まあな」


 密着した体が徐々に温まっていく。陸は顔を寄せた。キスをしてくれるのを待っていると、隼人が言った。


「お前と初めて会った日の事を覚えているか?」

「え?」


 いきなり何の話だろう。


 陸は体を離すと、うん、と頷いた。隼人は、懐かしむような顔をしていた。


「栞のCM撮りの日だろ? 隼人の会社がスポンサーだった」

「ああ。あの時のお前らはかわいかったな。何度もセリフの練習していた」

「あれは、台本が難しくて、さ」


 恥かしい。あの頃はまだまだ子どもで、やれと言われた事をやるしかなかった。


「何だよ、今さらそんな話してさ」


 照れくさくて顔を伏せる。


 隼人は大手アパレルメーカーの次男で大学生だった。少しずつ家の仕事を手伝っている時で、見学に来ていた。陸と栞は、当時、高校一年生で、スポンサーである隼人の会社のコマーシャルに出演した。

 初めて隼人を見た時、彼がコマーシャルに出ればいいと思ったくらい、かっこよくて凛として見えた。

隼人の方から声をかけてくれて、気がつくと一緒にいる時間が増えていた。


 その頃の陸は、女の子といるよりも、隼人といる方が楽しくてドキドキした。

 友達ならいつでも会えるかもしれないと思って、自分から積極的に近づいた。


 初めて会った日のことを思い出していると、隣で、隼人が体を動かして天井を仰いだ。


「宣伝部に配属になった。CMの新企画に参加する」

「え? 本当?」

「うん。来年の春に新卒向けに新しいスーツを売り出すんだ。今回は一般オーディションでタレントを起用する。オーディションにも立ち会うよ」

「すごいじゃないかっ」


 陸はうれしくて隼人に抱きついた。


「ああ。ありがとう」


 隼人は本当にうれしそうに言った。


「仕事、順調なんだね」

「ああ。営業も楽しかったけど、事業部に入って、作っていく事から始めるとやりがいを感じるな」

「がんばってね」

「ああ」


 隼人は頷くと陸を抱き寄せた。


「遅いけど、いい?」


 隼人が囁く。


「いいよ」


 陸は、当然と言うように頷いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ