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99 全ての準備は揃いました!

 ブンボン領境のスジー村へ至るには、街道を逸れて一本道をひたすら終着点まで進む必要がある。

 これまで訓練学校のみんなで訓練学校に向かう時は、何でも教官たちがお膳立てをしてくれていたけれど、今回はそうはいかない。


「そこで街で領境まで向かう隊商に交渉をして、乗っけてもらったんだぜ!」


 自慢気にそんな話をするビッツくんだ。

 貧民街の育ちで、何でも無いものをどうにかして捻出する事に長けている彼女だけに、上手く交渉をして街道の外れまでは運んでもらったらしい。

 そこからは徒歩でスジーの村を目指して、どうにか一昼夜をかけて到着したそうだ。


「あの土地なら、肥えたエリマキトカゲがいたとしてもオレは驚かないね」

「山と森とシケた集落がある以外は、何もない場所だったからな。バジリスクとかいうのに限らず、あそこは時々モンスターが出没する事で有名な片田舎だった」


 口々にビッツくんやデブリシャスさんたちが苦労話をしてくれた。

 けれど肝心のバジリスクがねぐらにしていそうな、ダンジョンの在り処が問題だ。


「あなたの苦労自慢はどうでもいいですわ! まず先に、詳しい目撃情報とダンジョンの在り処について説明して下さらない?!」

「チッ。セイジさん、後で個人的に聞いておくれよ」

「わ、わかったよ……」


 苛立たしそうにしていたドイヒーさんの催促に、しょうがなくビッツくんが本題を切り出す。

 懐からスジーの村周辺の見取り図を広げると、さっそく指を差しながら説明開始だ。


「もともとスジーの村には、いくつかモンスターにまつわる伝承が残っているんだぜ。どれもいにしえの文明とかむかしの王国の話で、最近の事じゃない。それによれば、村から外れた先にある泉の側に、大きな洞窟が存在しているって事だった」


 スジー村から少し離れた場所にある泉のある洞窟。

 たぶん第三班のみんなが手書きしたものだろう見取り図を、クラスのみんなで注目した。

 両隣のシャブリナさんとドイヒーさんが同時に身を乗り出したもんだから、僕はふたりに挟まれて揉みくちゃにされる。

 暴力的なお胸や甘い吐息に悩まされていると。


「?!」

「フフン」

「その洞窟が怪しいというわけですね」


 さり気なくシャブリナさんが僕の腰に手を回してくるのがわかった。

 一方ドイヒーさんも僕の肩に手を置いて、話の続きを促す。

 シャブリナさんは明らかにわざとで、ドイヒーさんは何の気なしにだと思うけど……

 ビッツくんたちの話に集中しなきゃっ。


「目撃証言があった場所は、こことここと、ここ。こうして見ると、どこもこの泉の洞窟に近い場所だからな。オレとデブリシャスで実際に目撃された場所の近くを歩き回ったら、シカの死体やら骨やらが散乱しているのを見つけたぜ」

「集落からは離れていて牧草地がある様な場所なんだが、最近は肥えたエリマキトカゲ騒ぎがあって、あまり地元の人間も近づいていないらしい。それで俺たちが現場に行ってみたら、こんな感じの足跡が見つかった。こいつは目撃現場付近だけでなく、泉の洞窟に近づいていくにつれてたくさん見つかったわけだが」


 両手を使って大きな輪っかを作って見せるデブリシャスさんだ。

 大きさはそれこそデブリシャスさんの太鼓腹なみに大きい。

 そこから想像できる肥えたエリマキトカゲの全長は、やっぱり屋敷の様な大きさになるんじゃないかな……


「誰か聞く者を恐怖のどん底に陥れるバジリスクの咆哮を、耳にした人間はおりませんでしたの?」


 恐る恐るドイヒーさんが質問をした。すると、


「ああ、そいつも村には聞いた人間がいたと言っていたそうだな。夕方になると森の向こう側、ちょうど泉の洞窟がある付近で聞こえるそうだ」

「みんなおっかなビックリで、地鳴りみたいな遠吠えが聞こえたら家の戸締りをして震えていたそうだぜ。もうこれ、正真正銘の化け物だろう……」

「泉の洞窟側までは行ったが、さすがに中までは入ってないからな」

「さすがに自分たち五人だけで、洞窟の中まで下見をする勇気はなかったのよね。身の回りの冒険者装備ぐらいしかなかったし」

「第一、デブリシャスのお腹みたいに大きな足跡のモンスター相手に、わたしたちだけじゃ出くわしたら全滅よ、全滅!」


 三班のみんなが、何か想像しがたい恐ろしいものを思い浮かべながらドイヒーさんへ口々にそう言った。

 確かに百聞は一見に如かず、なんて言葉があるけれど、冒険者たちにとってはそうもいかない。

 何しろ事前の準備も無しにダンジョンに踏み入ればどうなるか、廃坑ダンジョンで探索中行方不明を経験している三班のみんなはよく理解しているんだ。


 以上が第三班からの現地レポートだった。

 お疲れのビッツくんたちが寄宿舎に引き上げていく背中を見送って、


「本当にわたくしたちだけで本当にバジリスクを倒せますの?!」

「なぁに、これはあくまで卒業検定の演習だから、教官が設定した状況に過ぎない。合格不可能な相手をわざわざ教官たちが用意するわけがないだろう。アッハッハ!」


 肩の上に乗せたてぃんくるぽんを撫でながら逡巡するドイヒーさん。

 対照的に楽観視しているシャブリナさんは笑って僕らを見回した。


「……確かにそうですけれども。ダンジョンだけでなく、お屋敷の様な巨大なモンスターを相手にするのは厄介ですわよ」

「フンフン」

「相手が巨体であれば、洞窟内なら必然的に行動も制限される。そこはモンスターとわたしたちの知恵比べだ。知恵比べならセイジという賢者の卵がいるからな。負ける事はないだろう。な?」

「そ、そうだね……」

「コクコク」


 確かに、広い場所にいる時に巨体のバジリスクと戦ったら、手を付けられないかも知れない。

 けど洞窟内ならバジリスクだって暴れらるのは無理だ。

 もしかすると、僕らがおっかなビックリ恐れている以上に、バジリスクは怖い相手じゃないのかも知れない?


「情報はすべて出そろったから、後は当たって砕けろだ。どのみち冒険者訓練学校を卒業すれば、こういう事も日常茶飯事なるからな!」

「わたくしたちも覚悟を決めるしかありませんのね。必要書類を準備して冒険者団体連盟に提出して、いざ演習に出発ですわっ」


 力強く宣言したシャブリナさんのはち切れんばかりのお胸が、僕の顔に当たって弾けた。

 ちょ、いきなり肩に腕を回すのをやめてっ。


 それにしても……

 普段ならモジモジしながらビクついているティクンちゃんだけれど、案外平気そうな顔をして僕らの会話を聞いていた。

 だからティクンちゃんも楽観しているのかと思えば、


「安心していいのセイジくん」

「?」

「いざとなれば脚が素早くなる補助魔法をかけてあげます」


 一緒に逃げましょうとそんな事を耳打ちしてくるのだ。

 それ、いざという時はみんなにも補助魔法をかけてあげようね?!

ダンジョンはいいぞ!発売日まで残すところあと1日になりました。

書籍版、WEB版ともども、これからもお付き合いくだされば幸甚です!

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