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97 やさしいバジリスクの倒し方!

 受け取ったガイドブックや書類一式は大切に鞄に収める。

 そうして僕らは、逃げる様にブンボン冒険者団体連盟を後にした。

 新規ダンジョンの攻略申請の方法については丁寧に説明を受けたから、後はビッツクくんたち三班のみんなが持ち帰った情報と照らし合わせて書類の項目を埋めるだけだ。


「にしても、攻略受付係のヒョウ主任さんは強烈な印象のひとだったね……」

「そのう、わたし食べられてしまうかと思いましたっ」

「あのひとオネエみたいだったから、たぶんティクンちゃんは大丈夫だったと思うよ」

「……オネエって何ですか?」

「何でもないよ、世の中にはいろんなひとがいるって事さ」


 昼下がりの繁華街中心地は、たくさんのひとで賑わっている。

 団体連盟の本部施設の付近では冒険者のひとが圧倒的に多かったけど、少し歩けばその顔ぶれも変わって商人さんや職人さん風の格好をしたひとを見かけた。

 ふと通りの隅に視線を送れば、ティクンちゃんが着ている聖職者のローブみたいな格好の一団がゾロゾロと歩いている姿が見えた。


「ティクンちゃんと同じ服装をしているね。教会堂の関係者のひとたちかな?」

「そのう、少しご挨拶をしてきても、いいですか?」


 もちろん。行っておいでよと僕が口にすると、ティクンちゃんはペコリと頭を下げてモジモジしながら小走りに駆け出した。


 聖職者の集団は駆け寄ったティクンちゃんの姿を見て足を止めると、何事かお互いに顔を見合わせながら会話をしているみたいだ。

 ひとりが一団から進み出て、見知った顔らしいティクンちゃんと熱心に会話をはじめたのがここから観察できた。

 そうして振り返って僕を指さしたティクンちゃんにつられて、そのひとが僕を見るとゆっくりと頭を下げるのが分かった。


 キリっとした顔付の痩せた壮年男性だ。

 僕もあわてておじぎをしたところで、何言か会話をかわしたティクンちゃんがこっちへ戻って来る。


「あのう、お待たせいたしましたっ」

「うん気にしないで。ティクンちゃんのお師匠さまか何かかな?」

「叔父さんなの。そのう、わたしの家は貧乏だから、教会堂の関係者が多いんですっ」


 ティクンちゃんの家族は四人姉弟だったかで、あまり裕福な家系ではないらしい。

 それで手に職を持って生活が安定できる教会堂の聖職者というお仕事に就く家族が多いんだとか。

 だからティクンちゃんが教会堂へ修行に出たのも、冒険者の道に進むことにしたのも、


「叔父さんのアドバイスだったのっ。叔父さんも若い時は回復職として冒険者ギルドで活躍していたと聞きましたっ。わたしもいつか、叔父さんみたいになれればいいなあって……」

「そっかあ。じゃあ卒業検定にしっかりクリアして、就職先が決まりましたって報告できる様に頑張らないとね」

「はい、頑張るのッ!」


 改めてティクンちゃんと揃って頭をペコリと下げると、叔父さんは軽く手を上げてみせて聖職者の一団に戻っていく。


「何か熱心に叔父さんと話し込んでいたみたいだね」

「コクコク、セイジくんについてです。訓練学校の班が一緒だという事と、将来有望な賢者の卵で同じ冒険者ギルドに就職が内定していると報告しましたっ」

「そ、そうなんだ。叔父さんは僕を見て何と言っていたかな……?」


 引退した元冒険者のベテランから、一見して僕がどんな風に見えているか気になる。

 僕だって訓練学校で経験を積んでから、少しは冒険者らしくなってきたと思うんだよね。どうかな?


「そのう……です!」

「え?」

「魔法文字が使える賢者は貴重な職業だから結婚すれば将来生活に困らないそうですっ。今のうちにツバを付けて絶対に逃がさない様にと言われましたッ」


 ガクっ。

 語気を強めてティクンちゃんがそんな事を言うものだから、たまらずその場でズッコケそうになってしまった。

 威厳のある顔で僕を観察していると思ったら、年端も行かない女の子に何を吹き込んでるの?!


「ぼ、僕はほら。魔法文字が理解できると言っても、普段使いの読み書きがまだまだだから」

「フンフン」

「それに訓練生の身分だし、就職しておちんぎんをタップリ稼いでからじゃないと結婚は考えられないかな?」

「コクコク。セイジくんが結婚相手に困ったら、わたしがお嫁さんになってあげるのっ」

「あ、ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ……」


 仮にも僕は三十路のおじさんだから、ここで安易にイエスなんて言えないよ!

 思い切り調子を狂わされた僕らだけれど、ティクンちゃんは妙にニコニコしながら僕の隣に並んで歩く。

 そんな次第で人混みをかき分けながら、いそいそと訓練学校への帰路についたんだ。


 学校に戻ると、仮のギルド本部に見立てられている自習室に向かった。

 扉を開けてみれば、地図を広げて作業をしているクラスのみんなや、何かの書類に「きいいっ」と奇声を上げているドイヒーさんが見えた。

 そうして、すぐにもパアっと明るい表情をしたシャブリナさんの姿が飛び込んでくるじゃないか。


「セイジ、いいところに戻って来たな!」

「シャブリナさんただいま。こっちは新規ダンジョン攻略申請のガイドブックと、必要書類をもらってきたとこだよ」

「そうかわたしがいなくても貴様は何とかなったかな? こちらも文献の中から対バジリスク用の効果的な討伐方法というのを発見したところだっ。これでバジリスクなんぞにわたしは屈しない――」


 嬉しそうに僕に語り掛けてきたシャブリナさんだったけれど、ふと僕とティクンちゃんを見比べたシャブリナさんの表情が厳しい物になる。


「にゃにゃ、にゃんで貴様たちはわたしがいない間に、ちょっといい雰囲気になっているんだっ」

「ヒッ……シャブリナさん顔が怖いですぅ」

「そ、そんな事よりシャブリナさん、バジリスクの効果的な討伐方法が見つかったって凄いじゃねっ。さすが僕の相棒は頼りになるなぁ、それでどんな方法なの?」

「むむっ。それなのだが、案外簡単な方法で恐怖のどん底に陥れるという魔力を帯びた咆哮を防ぐ事ができるらしい。おいドイヒー、その文献を持ってこちらに来てくれないか!」


 付き合いがちょっとずつ長くなってきて、僕はだんだんシャブリナさんの扱い方を心得てきたと思う。

 何より僕が無条件に褒めたたえるとシャブリナさんは大喜びするからね。

 今は怒りの矛先を上手くかわしておいて、話を先に進めておこうと話題をふると。

 ウンウン言いながら書類に何かを書き込んでいたドイヒーさんが、首を持ち上げてこちらに振り返った。


「……あらセイジさん。お帰りになっていたんですのね?」

「例の『やさしいバジリスクの倒し方』という本を見せてやってくれ。モジモジがいないと、この作戦は成立しないからな!」


 ティクンちゃんがいないと成立しない作戦って、どういう事だろう。

 僕とティクンちゃんは顔を見さわせて首を傾げた。

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