表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/123

93 わたくしのいう事を聞きなさい!

投稿時に不備がありましたので、取り急ぎ内容を差し替えました。

ご迷惑をおかけしてすいませんでしたorz

2017/9/1/0529

 広げられた大きな地図には、ブンボンの街とその周辺の村々が描き込まれている。

 そこには大きな森や川、草原に迷宮の在り処が示されていて、街道と間道がどの様にブンボンの街から伸びているのか手に取る様にわかった。


「教官からもたらされた状況によりますと、スジーの村という場所で畑を荒らしまわっていた悪戯者の正体は、どうやらモンスターだったそうですわね! 見た事も無い大きな肥えたエリマキトカゲの姿を、近くの森で見たと村の農夫が証言しておりますのっ」


 僕らのクラスが集まっているのは、大きなスペースのある訓練学校の自習室だ。

 床に広げられた地図を覗き込みながら、みんな真剣な表情でドイヒーさんの説明を聞く。


「現在のところ人的被害は出ていないとの事ですけれども、放置すれば当然これは大惨事になる可能性もありますわ。付近には古代文明の遺構や、自然洞窟の様なものも存在しているとの事。ただちに肥えたエリマキトカゲの正体を突き止め、付近にあると思われるダンジョンを突き留める必要がありますのよ!」


 いよいよ卒業検定の演習に向けて僕らは動きはじめた。

 今回の演習では、クラス担任の教官たちが協議して架空の「状況」が設定されている。

 過去の事例だと、攻略完了済みのダンジョンの場合は緊張感がないので、そこに教官たちがストーリーを付けている事もあるらしい。

 それが「状況」なんだけど、今回が事実に基づいているのかシナリオなのかは、まだわかんないや。


 ちなみに自習室の片隅でイスに座っているミノタウロス教官は、監督しているだけで一切口を挟まない。


「……おい、スジー村ってのはどこにあるんだ」

「村の位置は、地図で示すとこの場所ですわね。ブンボン領主さまが治める土地の境界線上にある、風光明媚で自然豊かな田舎村といったところですのよ。人口は三百人あまりの土地で、特産物は砂糖大根(テンサイ)とひよこ豆、その他にはトウモロコシなどを栽培しているとありますわ……」


 指揮棒で地図のとある一点を指し示しながら、ドイヒーさんが説明を続けていたところ。

 どこからか、野次を飛ばす声が聞こえる。


「そんな大根の情報はどうでもいいんだよドイヒー」

「もっと他にその、肥えたトカゲの情報はないのかよドイヒー」

「おだまりなさい!!」


 僕が麻紙にメモを取っていると、途端にプリプリ怒りだしたドイヒーさんが一喝の声を上げた。

 すると、野次を飛ばしていたひとたちは、あわてて明後日の方向に顔を反らす。

 ドイヒーさんを宥めてみんなを取り成す様に、僕は口を挟む事にした。


「一応これも教官から与えられた演習の状況内容に含まれているからねっ。もしかすると、肥えたエリマキトカゲの主食が砂糖大根なのかも知れないしね!」

「坊主が言うんだったら、そうかもしれねえ」

「そりゃお前ら、セイジさんが言うんだから間違いってもんだぜ。だよな?!」


 僕の言葉に上手く合いの手を入れてくれたのは三班のみんなだった。

 廃坑ダンジョンで探索中行方不明になった彼らは、僕らの班に感謝の気持ちがあるのか協力的だ。

 ビッツくんは何でもかんでも、どういうわけか無条件に僕を持ち上げてくれるけれども。


「何ですのセイジさんとわたくしの、この扱いの差は?!」

「これが貴様とセイジの人徳の差というわけだドイヒー。思い知ったかパン好きの厨二病ドイヒー。アッハッハ」

「きいいっ悔しい!」

「いいから早く説明を続けろドイヒー」


 茶化しながらも先を促したシャブリナさんを睨みつけつつ気を取り直して。

 ドイヒーさんはコホンと咳ばらいをしながら言葉を続けたんだ。


「と、とにかくですわ。現在わかっているのはこのモンスターがスジー村の付近に出没している事、それからそのモンスターが住処にしているダンジョンが、恐らく村の近くに存在しているという事実ですの」

「「「了解だぜドイヒー!」」

「みなさん協力してスジー村について詳細の書かれている資料を集めるとともに、モンスター図鑑に当たってくださいましな!」

「「「やっぱりドイヒーは最高だな!!」」」


 みんなから自然と発生したそんな掛け声に、ドイヒーさんがたまらずズッコケそうになった。


 そして僕らは自習室にある書架を調べはじめた。

 スジー村付近のより詳しい地図を探したり、モンスターにまつわる過去の伝承が書かれている資料を求めたり。

 とは言っても、


「そのう。何から手を付けたらいいのかわからないです……」

「そりゃそうだね。もし付近に踏破済みのダンジョンが存在している場合、過去の探索記録の中に迷宮についての調査報告が書かれているかも知れないよ」

「でしたら、片っ端から探索記録を調べるのがよろしいですわね」

「ふむ。わたしは読み書きができるから、そっちを当たる事にしよう。セイジは魔法文字が使われている古い文献を頼む」


 ミノタウロス教官が無言で見守っている中、僕らはみんなで手分けして役割分担を決めた。

 読み書きができないひとたちは調べものをする事は出来ないので、確認を済ませた書物を運んだり。

 魔法文字を読めるのは僕だけなので、必然的に古い文献は次々と僕のところに集まって来る。

 すると、両手一杯に書物をかかえたビッツくんがやって来て僕に耳打ちをするんだ。


「ところでセイジさんは、進路調査票にどこのギルドを書いたんだ?」

「僕の班はみんなで一緒にビーストエンドを第一志望にしたよ」

「じ、実はオレ様もビーストエンドが第一志望なんだ、奇遇だよなオイっ」

「そうなんだ?」

「何しろ今を時めく英雄パーティーのギルドだからな。オレ様もいつかセイジさんと一緒に、貧民街の英雄になるのが夢だぜ」


 テーブルに書物をドサっと置いたビッツくんが、白い歯を見せてそんな事を言った。

 そこは夢を大きくもとうよ。貧民街の英雄より、一緒に英雄パーティーになるぐらいじゃないとね。

 なんて返事をするよりも早く。


「ああでも今度、推薦状を書いてもらって面接を受けに行くんだよな。面接の時、オレ緊張しないかな? セイジさんも一緒に頑張ろうなっ」

「う、うんそうだね……」

 

 まさかこのタイミングで事実上の内定をもらってるってちょっと切り出せないや。

 僕は曖昧な返事をしながらビッツくんから眼を反らし、上位古代文字と下位古代文字で書かれた分厚い書物を広げた。

 膨大な量の資料をひっくり返して、メモを取ったり内容をお互いに確認したり。

 そんな事をしているうちに、ティクンちゃんが僕らに声をかけただ。


「あのう、肥えたエリマキトカゲについて書かれている文献を見つけましたッ」

「僕じゃ書いてある内容が確認できないや」

「でかしたぞモジモジ! どれどれ、何て書かれているんだ?」

「わたくしに貸してご覧なさい。見た目は大きな肥えたエリマキトカゲ。肉食傾向の強い雑食性で、山野の洞窟や古代遺跡などを巣穴に使う事が知られている。時には人里近くに縄張りを構え、家畜を襲ったり畑を荒らしたりする事がある……」


 ドイヒーさんがみんなを代表してモンスター図鑑を読み上げる。

 すぐにもガヤガヤしていた自習室が静かになって、みんなもその声に注目した。

 見た目は肥えたエリマキトカゲ。

 洞窟や遺跡を巣穴に使う。

 時には人里近くに縄張りを構え、家畜や畑を狙う。


「ふむ。肥えたエリマキトカゲの正体はこれで間違いなさそうだな……」

「他にも、咆哮には耳にした者を恐怖のどん底へと突き落とす魔力を帯びている、と書いてありましたっ」

「そんな怖いモンスターなんだね。それで、その名前は何て言うの?」


 シャブリナさんとティクンちゃんの言葉を受け取って、文字の読めない僕がそんな質問をすると。

 ゴクリとつばを飲み込んだドイヒーさんが、戦々恐々とした表情でクラスメイトを見渡しながらこう言ったんだ。


「ば、バジリスク。古い言葉の意味によると、トカゲの王様とありますわよ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ