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92 ギルマスで勇者で支援もする、救難パーティーです!

「まったく! 教官たちはいったい何を考えてギルマス役をくじ引きなどで決めたのだっ」


 お昼休みの事だ。

 くじ引きがはじまるまでは「仲間を見捨てるなんてあり得ない」と言っていたシャブリナさんだけれど、食堂の給食口に並んでいる今のシャブリナさんは不満タラダラの有様だった。

 教官の説明では、訓練生の集団における協調性と判断力を試すのが卒業検定の目的だそうだけど、


「ギルマス役をランダムで選ぶ目的で、くじ引きにしたんだと僕は思うよ? 冒険者には協調性と柔軟な判断が必要だし、予想外の展開を期待してわざとそうしたんじゃないかな」

「コクコク、教官たちはいつもは意地悪さんなのっ」


 僕はティクンちゃんと顔を見合わせてそんな意見を口にしたけれども、


「ぬう。だとしても、だとしてもだ! よりにもよってギルマス役に選ばれたのは、協調性の欠片もないドイヒーなんだぞっ」

「酷い言われ様ですわね?! わたくしだって自分がギルマス役に選ばれるなんて思いもしませんでしたわ……」

「まったくだ。貴様の頭の中にはパンかおかしな呪文の事しかないだろうし、いざダンジョンに潜れば抜け駆けをして攻撃魔法をぶっ放すばかりだ」

「さ、さすがに今はパーティーにおける役割は理解しておりますわよ! いつまでも周りが見えていないわたくしではありませんのっ」

「パンの事はは譲らないわけだな?」

「それはわたくしのアイデンティティですのよ!」


 お互いに顔を突き合わせて睨み合うシャブリナさんとドイヒーさんだ。

 相変わらず軽口を叩き合うふたりだけれど、教官たちは迷宮内でそういう事をしないかも見ているのかも。


「けどさ、ギルマス役って具体的に何をやればいいのかわからないや」

「わたくしも身近なギルマスと言えばインギンさんしか存じ上げませんし、ちょっと漠然年かイメージが沸きませんわ……」


 メンバーをどういう風に割り振って、どのルートから順番にアタックを

かけていくのか。そういう事を判断して指示を出すのがギルマスの役目なんだろうけれど、


「その観点からすると、大火力魔法の使えるドイヒーを前線のパーティーメンバーに出せないというのは問題だぞ。ギルマスともなれば前線から一歩引いた場所から、全体を見渡せる立場でなければいかん」

「……せっかく、てぃんくるぽんを使い魔にした事で紅蓮魔法を連発しても魔力切れを起こさなくなったと思いましたのに」

「ボス攻略時のラストアタックならいざ知らず、常時前線で駆け回っているギルマスなど聞いたことがないぞ。諦めろ!」

「ぐぬぬ。歯痒い、歯痒いですわッ」


 ドイヒーさんがギルマス役としてベースキャンプに待機してしまった場合。

 強力な遠距離アタッカーがひとり前線に出られなくなってしまう。

 ただでさえ他の班より人数が少ない僕らのパーティーは、ドイヒーさんがいないと攻撃力が半減した事になってしまうしね。


「それにドイヒーさんに委ねられた、勇者役と支援チームのリーダー役をどうするかもあるよね。もう何か考えてる?」

「……いえ、まったく考えつきませんわ」


 途方に暮れたドイヒーさんは、給食口で支給されるパンを見てもスルーしていた。

 いつもなら「何ですのこのパンは?!」とプリプリ怒り出すところだけど、そんな余裕も無いらしい。


「どうするのだドイヒー。決定権を持っているのは貴様なのだぞドイヒー」

「気心の知れた班のみなさんにお願いするというのはどうですの? 勇者役はシャブリナさん、後方支援チームのリーダーはセイジさん。あなたたちという事で……いかがかしらティクンさん?」

「フルフル。そんな事になれば、班に残るのはわたしだけになってしまいますッ」


 同意を求められたティクンちゃんだけど、全力でそれを否定した。

 そんな事になったら僕らの班は定員割れどころか、ティクンちゃんひとり残るだけになるからね。 


「ただでさえ他の班より人数がひとり少ないうちは、ドイヒーさんが抜けても戦力半減だからなあ」

「うむ。遠距離火力が期待できないとなると、わたしたちは雑魚退治程度しか役に立たなくなる。セイジやモジモジはもとから戦力としては期待できないからな……」

「ごめん、シャブリナさん」

「そのう、ごめんなさいッ」

「き、貴様たちのぶんはこのわたしが頑張ればいいのだから気にするな。おお、今日はチーズたっぷりのトマトグラタンか、楽しみだなあ。アッハッハ!」


 謝罪を口にした僕とティクンちゃんに気を遣ってか、シャブリナさんが妙に明るい声で話題を逸らそうと必死になった。

 お昼ご飯はトマトとチーズのグラタンに、挽き肉のロールキャベツだ。 それに丸パンと蒸し野菜が添えられたトレーを持って空いているテーブルを探していると、不意に背後から声がかけられるじゃないか。


「セイジさんたちの会話、オレたちのところまで聞こえてたんだけどよ」

「厨二病のパン屋の娘をサポートするなら、三役はやっぱり気心知れた四班のみんなでやった方がいいと思うぜ、なあビッツ」

「そうだな。セイジさんがリーダーなら異議無しだぜ。お前らもそう思うだろ?!」


 口々にそう言ったのはビッツくんとデブリシャスさんだ。

 一期先輩たちが卒業して少しスペースに余裕のできた食堂で、大きな声で同意を求めるビッツくんに、口々に「賢者の卵が参謀役なら間違いない」とか聞こえてきて。

 さすがに僕は恥ずかしくなって、シャブリナさんに助けを求めた。


「セイジの命令なら、わたしは何だってやるぞ。さあ、わわわたしに養ってくれと命令をしゅるんだ!」

「シャブリナさん?!」


 結局、僕たちはクラスのみんなが集まっているテーブルのところで腰を落ち着けて、そのままご飯を食べながらの作戦会議になった。

 ドイヒーさんがギルマス役になったせいで僕らの班が戦力半減するのなら、


「そのまま四班をギルド三役にしちまった方が手っ取り早いしな」

「ノッポの姉ちゃんは近接戦闘のプロ、騎士見習いだもんな。いざという時の予備戦力だと思えば納得もできるぜ」

「救難捜索任務も俺たちだけでやるんだろ? だったらモジモジ嬢ちゃんも一緒にいた方がいいしな」


 こんな感じでギルマス役のドイヒーさんを中心に、勇者役はシャブリナさん、支援チームリーダーは何故か僕。そしてベースキャンプの救護係はティクンちゃんという事でみんなから賛成多数の意見が寄せられたんだ。


「み、みんな本当にそれでいいの?」

「わかってないな坊主は。お前さんじゃないと厨二病をこじらせた女魔法使いやノッポの姉ちゃんを制御は無理だ。俺たちにそれができると思うか?」

「えっと、うん。そうかも?」

「そうだろう。坊主が賢者の知恵で、ドイヒーとシャブリナを導いてやればいいんだ。それが仲間同士の連携ってもんだ」


 確かに同じ班の僕の意見なら、ドイヒーさんも耳を貸してくれる。

 シャブリナさんだって、僕の命令なら何でも聞くって言っていたしね。命令なんてしないけどさっ……


「で、ではお昼ご飯が終わりましたら、みなさんと話し合って三役の残りが決定した事を教官たちに伝えて参りますわっ」


 セイジさんシャブリナさん、それにティクンさん。付いてきてくださりますわねっ?

 そんな調子で咳払いしたギルマス役のドイヒーさんだ。立ち上がってクラスの仲間を見渡しながらそう口にすると、みんなからパチパチと拍手が発生した。


 こうして昼休みが終わる前に、教官たちの詰めている教務室に顔を出したところ。

 ちょうど昼食を口にしていたゴリラ教官が僕らを迎え入れてくれたんだ。


「おお、お前たちか。なに、もう三役の割り振りが決まったのか。案外早かったがちょうどよかった」

「「「?」」」


 ニッコリと笑って手招きする教官に、僕らは顔を見合わせた。

 言われるままに教官の仕事机の前までやってくると、何かの書類をヒョイと摘んだ教官が、僕らに向き直るのである。


「お前たち四班のメンバーは、揃って第一志望から第三志望まで同じギルドを書き込んでいるな。しかも第一志望はインギンオブレイ姐さんのところだ」

「「「はい、教官どの!!!」」」

「姐さんからお前たちを差し出せと脅迫されて困っていたところなんだ。実に助かった。卒業までの間に、適当に面接と体験就職を受けに行ってくれ。紹介状はまた後ほど用意する。さっそく内定の訓練生が出て俺も一安心だ……」


 ゴリラ教官は嬉しそうにそう言ったけれど、状況を掴めていないキョトンとした顔の僕らを不思議そうに見やってこんな質問を続けたんだ。


「で、誰が勇者役になったか聞かせて……って、お前たちどうした黙り込んで?」


 内定って、就職活動ってこんなに簡単でいいの?!

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