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91 ギルマス役はくじ引きで決まります!

 装備点検が終わると、僕らは教官たちから練兵場の片隅に呼び集められた。

 いったい何がはじまるんだろうとみんなで顔を見合わせていると、ニヤリと白い歯を見せたゴリラ教官が僕らをみわたしてこんな事を言ったんだ。


「お前たちも面構えがようやく冒険者らしくなってきたな」

「「「はい、教官どの!」」」

「しかし本物の冒険者になるからには、卒業検定で行われる演習を合格しなければならない。演習はお前たち訓練生同士が、力と知恵を出し合って迷宮攻略に挑んでもらう事になる。当然、緊急事態が発生しない限り教官たちが介入する事はないし、一切の支援は得られないものと思え!」

「「「わかりました教官どの!!!」」」


 ぐるりと僕らを睥睨したゴリラ教官は、車座になった僕らの周りを歩みながら言葉を続ける。


「演習では、お前たち訓練生で仮想の冒険者ギルドに見立てた組織を作ってもらうが、これは以前に説明した通りだ。いいか、団体行動を欠いた冒険者が大怪我をしたり命を落とした例は数知れない。パーティー単位で行動する冒険者はチームワークが不可欠だ」

「「「……」」」

「そしてパーティーはギルドの指示に従って行動する。従って、卒業検定ではチームワークがしっかりと出来ているかどうかが採点基準となる。仲間同士が助け合い、訓練生のお前たちだけでダンジョンを攻略してみせるんだ。もちろん諸君らの中に仲間を見捨てる様な者がいないと、俺は確信している!」

「「「やっぱり冒険者は最高だぜ!」」」


 僕らは訓練生に許されたみっつの返事を駆使して、元気よくそう応えた。

 そうしてゴリラ教官が隣に立ったミノタウロス教官と打合せをはじめると、訓練生たちがヒソヒソ話をはじめる。

 僕らも班の仲間同士顔を見合わせたんだ。


「そのう。課業でも寄宿舎でもいつも班毎に集まって生活をしてきたのは、日頃からチームーワークを身に着ける訓練の一環だったんですねっ!」

「咄嗟にモンスターと遭遇したり罠を発見した時は、普段から仲間が何を考えているのかを知っているかどうかが一瞬の判断を助ける事もありますものねぇ」

「もちろんわたしは貴様が普段から何を考えているのかわかるぞ、ん?」

「む、胸を顔に押し付けてこようとしないでよっ」

「アッハッハ!」


 笑い事じゃないよ?!

 僕は鼻息荒く興奮してみせたシャブリナさんか逃れる様に体を反らした。

 すると今度はゴリラ教官に代わって、ミノタウロス教官が大きな声で説明をするじゃないか。


「それではこれよりお前たちの中からギルドマスター役を選出する! 演習ではギルマス役の判断と指示に従い、ギルマス役に指名された勇者役と後方支援チームの三役が中心になって攻略に挑む様にっ」


 教官からその言葉が飛び出すと、僕らはにわかに(ざわ)めき立った。

 いったい誰がギルマス役に選ばれるのかで、これまで教官たちがどう訓練生を評価していたのかがわかる。

 そんな風に思った僕ら訓練生は、密かに互いの顔を見合ってドキドキしたんだ。


「おい、誰が選ばれるんだ?」

「年功序列で言ったらデブリシャスで決まりだな。だがアイツには決断力もカリスマも無い」

「そもそも訓練生にカリスマとかあるのかよ」


 誰かがそんな言葉を漏らすと、口々にみんなが好き放題に言い出した。

 太鼓腹のデブリシャスさんは経験豊富な大人だけれど、みんなは頼りないと判断したみたいで酷い言われ様だ。


「カリスマで言ったらオレたちのヒーロー、セイジさんで決まりだろう。異議なし!」

「それじゃ軟弱のカリスマになっちまうだろ! 坊主はどちらかと言うと後方支援だろ」

「ふむ。ならばある程度経験と判断力があって戦闘でも活躍できなきゃな、ギルマスは務まらねぇ」

「だったらノッポの姉ちゃんになっちまうじゃないか。あいつは迷宮内では頼りになるが、普段はただの変態ショタコンだろ?」

「最近はセイジ専門だからなぁ。まあ元が騎士見習いだから団体行動のプロみたいなもんだ」


 僕の名前が出たところでたまらずズッコケそうになった。

 けれど、シャブリナさんが選ばれるなら、ギルマス役でも勇者役でもみんなもきっと納得だろう。

 普段は確かにショタコンの、エッチで残念な女の子だけれども、ダンジョン内で僕らの班を率いている時は間違いなく頼りになる存在だ。


 みんなの注目がそうやってシャブリナさんに集まり出す。

 すると困ったような顔をして彼女が周辺をキョロキョロ見回しだすじゃないか。


「……にゃ、にゃんだ貴様たち。わたしを持ち上げてもセイジはあげないじょ?!」

「セイジさんはそもそもあなたの所有物ではありませんわっ」

「コクコク、セイジくんはみんなの共有財産なのッ」


 どういう事なの?!

 僕の突っ込みが追い付かないと思っていたら、ミノタウロス教官がフンスと大きな咳払いをした。


「ああ。ちなみにギルマス役の選出は、公平を期すためにくじ引きで行うものとする!」


 白い歯を見せたミノタウロス教官がそう説明をすると、すかさずゴリラ教官が大きな壺を持ち上げた。

 中にはきっと当たりと外れの書き込まれた紙片が入っているんだろう。


「これからひとり一枚ずつくじを引いてもらう」

「いいか、仲間をサポートして盛り立てる事こそが冒険者に求められる重要な資質だ」

「誰がギルマス役になっても一致団結して盛り立てていくようにな?」


 意味深にそんな言葉を続けるゴリラ教官とミノタウロス教官は、ふたりとも意地の悪い顔をしてニコニコしていた。

 これじゃ誰がギルマス役になるかは完全にランダムだ。


「……あのう。もしわたしがギルマス役になったらどうしようっ」

「その時は教官が言っている様に、僕たちで精一杯サポートするから安心してよね」

「うむ。今さら班の仲間を見捨てる様な事はありえないからな、貴様が例えジョビジョバしながら逃げようとしても、首根っこを捕まえて指示を代弁してやろう」

「そうですわね。ここまで来て卒業できませんでしたでは、このアーナフランソワーズドイヒーさまの名が廃るというものですわっ。ねえ、てぃんくるぽん? あいたっ……」


 弱気になったティクンちゃんをみんなで励ましていると、少しずつくじ引き巡が消化されていく。

 誰がギルマス役に選ばれても、僕らは演習で攻略するダンジョンを踏破しない事には卒業検定を合格できないんだ。僕たちみんなで頑張るしかない!

 やがて僕らの班の順番がやって来ると、


「ホッ、わたしは違いましたッ」

「セイジ、貴様はどうだ?」

「僕も違ったけれど、シャブリナさんでも無かったんだね」

「あら、わたくしの番ですわね。それでは失礼して……」


 僕らの班の中で最後に残ったドイヒーさんが、壺の中に手を突っ込んでくじを探る。

 ゴソゴソとひとしきり壺の底を漁ったところで、ヒョイと紙片を摘み出したんだけれど……


「あらま、この紙には赤丸が記されておりますわ。教官どの、これはどういう意味ですの?」

「おめでとう、アーナフランソワーズドイヒー訓練生! きみは卒業検定の演習でギルマス役に選出されたっ」


 キョトンとした表情で紙片を開いたドイヒーさんが首を傾げると、壺を持ったゴリラ教官がニッコリと微笑を浮かべたんだ。


「えええっ、わたくしがギルマスですって?! あらやだどうしましょう……!!!」


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