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88 外食です!

 放課後になって、僕はひとり一枚の麻紙と睨めっこしていた。

 進路調査票には第一から第三までの志望先の欄、そして最後に志望動機を書き込むコメント欄が用意されていた。

 志望先の欄には、自分が就職したいギルドを書き込む様になっている。


「志望先のギルドかぁ……」


 夕飯に出かけるまでの時間、僕らは寄宿舎の自室にいた。

 実習訓練のおちんぎんが一部支払われたので、今日は珍しくみんなそろって外食をする事になっていたんだ。

 おちんぎんは最高だな!


 ソファにポンと身を預けて進路調査票と就職案内の小冊子を睨めっこする。

 小冊子の冒頭ページには、ズラリと大手ギルドの名前が書かれていた。

 有名どころだと《さざめく雄鶏》にはじまり、《黄昏の筋肉》や《ビーストエンド》の名前もあった。


 インギンオブレイさんのところはダンジョン初踏破を達成したばかりで、お抱えの英雄パーティーがいるギルドだから人気急上昇中だ。

 採用予定の人員は、新卒冒険者であれば職種によらないと明言されている。

 訓練学校を卒業したら、インギンさんはビーストエンドに来なさいと声をかけてくれたけれど。


「――もしその言葉が本当なら、就職活動も楽チンでいいや」

「どうしたセイジ、ショタ顔に似合わない大人びた表情をして。進路志望で頭を悩ませていたのか。ん?」

「僕はこれでも大人だからねっ」

「そんな事はどうでもいい。貴様は何も心配する必要も、考える必要もないではないか。第一志望はわたしのところへ永久就職で決まりだッ」


 わけのわからない事を口走っているシャブリナなさんを胡乱な表情で見上げながら。

 僕は小冊子を持ち上げて説明を続ける。


「せっかくインギンさんがビーストエンドに誘ってくれたのだし、志望欄のどこかには書いておこうかなと思ったんだけど」

「ふむ。その事か」


 するとシャブリナさんは案外アッサリと引き下がる。

 そのままアゴに手を当て考え込むじゃないか。


「……あの調子だとインギンオブレイどのは、まあ本気だろうな」

「そうですわね、魔法文字を使える人材はどこのギルドも喉から手が出るほど欲しがるものですわ。実習訓練で参加したどのギルドでも、セイジさんがいるわたくしたちの班は、特別な任務を与えられたでしょう?」

「コクコク。セイジくんは優良物件なのっ」


 僕が座っているソファの周りに班のみんなが集まって来る。

 シャブリナさんの言葉を引き取る様にして、お貴族様みたいな服を着たドイヒーさんが説明をした。

 そうして肌着姿のティクンちゃんも同意するじゃないか。

 ティクンちゃんはお出かけするために、よそ行きのシスター服に着替える途中だったらしい。パンツはもう履き替えた後だ。


「だからセイジ、貴様はあまり就職先の事で悩む必要はないぞ。危険があればこのわたしが相棒として守ると騎士の誓いを立てたわけだしな」

「じゃあシャブリナさんは、僕と同じギルドに就職するつもりなの?」

「当然だ! わたしと貴様は相棒だからなっ」

「一緒におちんぎんを稼ごうって話したもんね。それじゃあ就職先を決める時は、一緒に相談してからにしないと」

「しょ、しょうだな! 貴様とわたしは一心同体だからな、貴様の行く道に必ずわたしがいるだろう。アッハッハッハ」


 急に顔を真っ赤にしながら、妙なテンションで大笑いするシャブリナさんだ。

 けれど咳払いをひとつした彼女が、


「……だが。強いて注意する事があるとすればだ、」

「あるとすれば?」

「自分が将来どの職業にジョブチェンジするのかを考えて、志望先を決めた方がいいかもしれないな」

「うん。なるほどそうだね」


 今の僕は荷物持ち(ポーター)という、後方支援職を担当する肉体労働系冒険者だ。

 僕が知っているだけでも荷物持ちからジョブチェンジできる職業には盗賊や公証人、賢者になる道がある。

 ビーストエンドのギルマス・インギンさんや支援チームのリーダー・パンチョさんも、そこからジョブチェンジしたひとたちだしね。

 そうしてビーストエンドを今を時めく有名ギルドまで急成長させたんだ。


「セイジさんは賢者の卵ですものね。面接を受けた際に将来、賢者としてジョブチェンジを許してくれるところを選ばれるのがいいと思いますわ」

「うむ、そうだな。アタッカー職中心で雇っている《黄昏の筋肉》とかだと、賢者よりも盗賊としてのスキルの方が求められる可能性もあるからな。貴様は見た目通りの軟弱ショタだから、《黄昏の筋肉》に就職するとしばらく苦労が絶えないかもしれないぞ」

「そっかあ、だったら《黄昏の筋肉》はちょっと考えて外した方がいいかも知れないな……」


 思案をしながらも、僕は就職案内の小冊子に進路調査票を挟み込む。

 続きは外食から帰ってお風呂に入ってからにしよう。

 僕は立ち上がると身支度を整えて、繁華街へと繰り出すためにみんなと部屋を出た。


 夕方を迎えた繁華街は相変わらずの賑わいで、仕事を終えた商人や職人のひとたちで一杯だ。

 そんな往来を歩いていると、僕の服の袖を握っていたティクンちゃんが口を開く。


「そのう。実は班のみんなだけで外食に出かけるのは、はじめてかもですっ」

「確かに言われてみればそうだ」

「しかしセイジは以前、悪ガキのビッツと抜け駆けおちんぎんデートに出かけた事があるが……」


 あれはシャブリナさんが騎士団の奉仕活動に行く事になって、参加できなかったからでしょ?!

 腕を僕の肩に回してきたシャブリナさんが、意地の悪い顔でたわわな胸を押し付けてくる。

 怒ってはいないけれど悔しい、そんな感じかな……?

 少しずつシャブリナさんが考えている事がわかる様になってきた。


「そのぶん今日はタップリとおちんぎんを使って楽しもうではないか。アッハッハ」

「外食と言えば、ビーストエンドがダンジョン初踏破の祝賀会に利用した酒場は、大変よろしゅうございましたわねえ。せっかくなので今日はあのお店に行ってみませんこと?」

「フンフン、あそこのポーションはとても美味しかったです。お漏らししなくなるポーションの水割りを呑むのっ」

「そんなものはない! いいだろう、では例の店に足を運んでみる事にするか」


 そんな会話をしながら見覚えのある大きな酒場へと到着する。

 今日は貸し切りというわけではないので、商人風のひとや職人風のひと、それに冒険者の姿もチラホラと見えて、千差万別の賑わいだった。


「四人だが、席は空いているか?」

「へいらっしゃい! おりこうさん錬金術師が席まで案内するのじゃ、四名さま入りますのじゃ~」


 あ、フリフリようじょのローリガンシャルロッテちゃんだ。

 この子、ここでまだアルバイトをしていたのかぁ。

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