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87 求人票が張り出されました!

 お昼休みを迎えると、僕らは校舎の受付前に張り出されている掲示板に足を運んだ。

 教官が授業中に配った就職案内の小冊子には、採用予定のあるギルドの一覧がズラリと書かれている。


 けれど、掲示板に張り出されている求人票には、より詳しい内容が書かれているそうだ。

 それならものは試しにと、僕らはさっそく見学に行ったんだ。

 人気のギルドには求人が殺到するというからね。


「すごい数の求人票だ。これって、もしかして以前から貼りだされていたっけ?」


 改めて掲示板を見上げると、その数は何十枚にもなる。

 ともすれば僕らクラスの人数以上に求人票が張り出されているんじゃないだろうか。


「そうですわねねえ。確か入学願書を提出した時にも視界の端に写り込んでいた気がしますけれど。あまり気に留めた事がありませんでしたわ」

「当然だろう。これまではアルバイト探しの時か、支払手形を受け取る時ぐらいにしか校舎の受付まで来ることはなかったからな。だがこれからは、就職先が決まるまで受付と掲示板には頻繁に通う事になるだろう」

「フンフン、早く就職先が決まるといいですねっ」


 普段使いの読み書きが不自由な僕には、張り出されている求人票に何が書かれているのかわからない。

 それでも求人票と睨めっこをしていれば、いくつかは理解できる文字が書かれていた。

 暇な時間を見つけては単語の練習をしていたし、報告書を書く時はテンプレ化したチェックリストを見ていたから「冒険者」とか「荷物持ち(ポーター)」ぐらいの文字は読める。


 すると、よくよく求人票の麻紙を見ていて気が付いたことがあった。

 掲示板に重なり合ってところ狭しと貼られている求人票は、新しいものと古い物があった。


「真新しいものと古いものには、どういう違いがあるんだろう」

「どれ見せてみろ、変色した麻紙は、張り出されてずいぶん時間が経過している様だな。新しい方は最近張り出されたんだろう。名の知れた大手ギルドのものも多い様だが」

「条件を見れば理由がわかるかも知れませんわ」

「コクコク。……でも、わたしは背が低いから手が届かないのっ」


 興味を持ったティクンちゃんが手を伸ばすけれど、背伸びしても届かない。

 身長がさして変わらない僕でも届かないのを見たシャブリナさんが、ヒョイと古ぼけた麻紙を掲示板から引っぺがした。

 しばらく紙面を睨みつけていたシャブリナさんが、みるみる不機嫌そのものの表情になった。


「未経験者大募集! わたしたちは大手冒険者ギルドをサポートする関連業務を行っています。安全をモットーに安心して働ける職場環境が整っており、誰でも簡単にできるお仕事です。年棒制、金貨五枚から。危険手当及び賞与も完備。アットホームなギルドです! ご連絡は紹介状持参でギルド《ブラックキャットカンパニー》事務所まで……」


 求人票を読み上げたシャブリナさんは、フンと鼻を鳴らしてドイヒーさんに押し付けた。

 ドイヒーさんも内容を確認した後、露骨に嫌そうな顔を浮かべてからティクンちゃんにそれを回す。

 受け取ったティクンちゃんは、ボソリと募集職種のところを目敏く確認する。


「……近接アタッカー職と荷物持ちばかり募集されているの。これって消耗品扱いですっ」


 憤りの表情を見せたティクンちゃんは、その麻紙をクシャクシャすると鼻をかんだ。

 チーンっ!


「どこから突っ込みを入れていいのかわかりませんわっ。安心して働ける環境が整っているのに、危険手当が発行されるですって? それはつまり安心をまったく保証していないという事でしょうッ」

「大手冒険者ギルドの関連業務とあるから、これは下請ではなく孫請業務で間違いないな。それに年棒が金貨五枚とはいかにも安すぎる、ピン跳ねされまくっているな。薄給で有名なブンボン騎士団より酷いぞこれは……」

「そのう。ギルドの名前からブラック臭が漂っています。ずびびっ」


 そうだね。冒険者というのは専門職の集団なので、誰でもできる簡単なお仕事なんてのはおかしい。

 荷物持ちだって訓練を受けたり戦闘を経験したりして、覚える事がたくさんあるんだよっ?!


「まず《ブラックキャットカンパニー》聞いた事がないギルドだ」

「それなら、本当にブンボン冒険者団体連盟に加盟しているかどうかも怪しいよね」

「あら、あそこはギルドの加盟は任意だと授業で習ったではありませんか。きっとモグリのギルドに違いありませんわね。フフンっ」

「……そのう、ここにも同じギルドの求人票が張り出されているのっ」


 僕らが怪しいギルドの求人票についてアレコレと意見交換をしていると。

 ふと別の場所を見上げたティクンちゃんが、掲示板の真新しい麻紙を指さしてそんな事を言ったんだ。


「急募! 若くてやる気のある冒険者の方、新人も大歓迎!! わたしたちは最適なダンジョン攻略のソリューションを提供する、とてもやりがいのあるギルドです! だそうですわよ……」


 今度はドイヒーさんが読み上げた。

 ギルド紹介の内容は似たり寄ったりだ。漠然とした事ばかり書かれて具体的な内容がひとつも記されてない。


「どこかで聞いた事があるけれど、頻繁に求人をかけているところはブラックの可能性が高いんだって」

「ほう、どういう事だセイジ?」

「採用したはじから次々にひとが辞めるから、ここもきっと冒険者が日常的に不足しているんだよ……」

「さすが賢者の卵ですわね。言われてみればその通り。けれどそう考えると、いつまでたっても誰にも見向きもされなかった求人票に、文言を変えて新し求人票を張り出しているという事は……」

「コクコク、この《ブラックキャットカンパニー》というギルドは、きっとブラックだと思いますっ」


 こんなギルドに騙されるひとは訓練生にはいないと思うよ。僕らはそんな会話をしながら食堂に足を向けた。

 のだけれども、


「おいデブリシャス、年棒制で金貨五枚もらえるギルドがあるぜ!」

「マジかよこれで俺たちも極貧生活から脱出できるんじゃねえか、金貨なんて拝んだ事もねえぞ?!」


 騙されそうなひとたちがいた……

 後でビッツくんとデブリシャスさんには、僕からアドバイスをしておこう。


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