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86 就職ガイダンスです!

 ダルマの塔での実習訓練を終えて久方ぶりに冒険者学校へ戻ってくる。

 僕らは何だか妙に懐かしい気分になった。

 変化があった事と言えば、寄宿舎の周りであわただしく一部の訓練生たちが出入りしている事だろうか。


「荷物を運び出している訓練生がいるけれど、あれは何をしているのかな?」

「あの方、確かわたくしたちの一期前に入校していた訓練生たちですわね。就職先が決まって引っ越しの準備をしているのですわきっと」

「へぇ就職。そっか、先輩たちはそろそろ訓練学校を卒業するんだね」


 寄宿舎前の広場でドイヒーさんとそんなやり取りをする。

 顔付が引き締まった様に見える先輩たちは、就職を控えて希望に満ちているんだろうか。

 武器やドサ袋、衣装の詰まった箱を荷台に載せ終えた先輩たちは、人力でそれらを移動させて僕らの前を通り過ぎていった。


「ずいぶんと大量の家財道具だね……」

「卒業前に大荷物だけ、転居先に運び込む予定に違いありませんわ」


 訓練学校の生活が長くなると、それだけ寄宿舎の部屋に運び込まれる家財道具は増えていく。

 僕の場合は身ひとつで訓練学校に入校したけれど、女性は衣装もたくさんあってそうはいかない。

 特にドイヒーさんとシャブリナさんは、いくつもの衣装ケースを室内に持ち込んでいた。


「就職先によっては下宿が用意されていると聞きますわ。自分でお家賃を払って長屋に住むよりも安上りなので、ああして訓練生の間に買い集めた家財道具を捨てずに済むわけですわね」

「確かに、下宿が就職先に用意されていたら、おちんぎんの無駄遣いをしなくても済むね」

「その代わり、フリーランスの道を選んだ方は、荷物は最低限にしておかなくてはいけませんものね。基本的に背負子に背負えるだけの身の回り品だけ」


 寝袋と毛布、それと野外での炊事道具や冒険者装備一式。

 予備の服装や下着も最低限で、それ以上のかさばる荷物は宿屋の荷物庫に預ける事になるんだろうか。


「おい貴様たち、何をボサっとしているんだ! もたもたしてると、午前中の授業がはじまってしまうじゃないかっ」

「コクコクっ」


 敷地の外に出ていく先輩と荷車の背中を追っていると。

 ふとしびれを切らしたシャブリナさんの叫び声が聞こえてきたんだ。

 

「さ、わたくしたちも早いところお洗濯に取りかかりませんと、お冠のシャブリナさんに手を焼きますわ」

「そうだね、急ごうか……」


 僕の顔を覗き込んで微笑を浮かべたドイヒーさんと、あわててシャブリナさんのところへ合流した。


 実習訓練で使い込んだ装備やドサ袋、それに寝袋を洗濯したりしてから、今日の授業だ。

 教室内に訓練生が勢ぞろいすると、いつもより不敵な笑みを浮かべたゴリラ教官が教壇の前にやって来て僕らを睥睨したんだ。


「……ほう。お前たちも実習訓練を経て、少しは冒険者らしい面構えになってきた様だな」

「「「はい、教官どの!」」」

「ふたつのダンジョン探索の経験は、お前たちに自信をもたらした。そうなれば、訓練学校でお前たちがやるべき事を残しているのは、就職活動だけという事になる。お前ら一人前の冒険者になりたいかっ?」

「「「もちろんであります、教官どの!!!」」」


 よおしいい返事だ。

 そんな言葉を漏らしながらゴリラ教官をニヤリとして、教壇から身を乗り出した。


「いいかお前たち、世の中には三種類の冒険者がいる。ひとつは冒険者ギルドに就職する冒険者、ふたつは、固定パーティーを組んで活動する冒険者、そして最後はフリーランスとして単独で冒険者稼業に従事する冒険者だ」


 冒険者ギルドに就職する場合は、ギルドからおちんぎんをもらいながら冒険者稼業をやる。

 有名な大手ギルドになればダンジョン攻略の占有権を購入して元請けになり、大人数を擁して迷宮にアタックをかける事になるわけだ。

 中小のギルドの場合は、大手の下請けでそうしたダンジョンに派遣されたりもする。


 一方の固定パーティーを組んで活動する冒険者は、ブンボン冒険者団体連盟にパーティー申請をして、踏破が完了した迷宮の定期巡回や、新たなダンジョン付近の調査を団体連盟から委託されて行ったりする。

 時にはダンジョン攻略の募集に応じて下請けとして参加したりする事もあるそうだ。

 大きな仕事を成し遂げた固定パーティーから、やがてギルドへと昇格するひとたちもいるんだとか。


 最後のフリーランスの場合は簡単だ。

 基本的には単独行動をしていて、あちこちのギルドへ応援として志願したり、難易度の高いボス攻略のために指名依頼を受けて参加する事もあるんだとか。

 ギルド間のしがらみが無いので自由度が高いけれど、かなりのベテランでなければ務まらないお仕事だ。


「それ以外にもブンボン冒険者団体連盟の職員や、冒険者学校の職員となる道も残されている。あるいは地方の村に赴任して、モンスターから村を保護する守衛官に赴任する場合もあるが、これらは少数派だろう」


 モンスター退治の専門家、守衛官というお仕事はフリーランス冒険者のひとつの到達点と説明された。

 たぶん訓練学校を卒業した新米冒険者がなれるお仕事じゃなさそうだね。


「それではこれから、採用予定のあるギルドをまとめた小冊子と、進路調査票を配る。進路調査票は明日の放課後までに提出してくれ」

「「「はい、教官どの!」」」

「お前たちの一期前に当たる先輩たちはもうすぐこの学校を卒業するが、そうなれば次はお前たちの番だからな。自分の将来の事だ。しっかりと考えて、質問やわからない事があれば職員室まで来る様に」

「「「わかりました教官どの!!!」」」


 満足気に大きくうなずいたゴリラ教官は、ギルドの就職案内をまとめた小冊子と進路調査票を僕らに配りはじめた。

 僕らもいよいよ、就職活動をする時期がやって来たんだ。

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