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83 ジョビジョバの呪いが存在するなんて!

「俺たちは《最後の盾》という気の合う訓練学校の同期で結成した、フリーの冒険者パーティーだ」


 広場から筋一本入った安酒場に場所を移して、僕らは改めて人相の悪い冒険者一行から事情を聞く事になった。

 何しろコムドム村の中心地で土下座をされたので、いくらなんでも体面が悪かったからね。

 あれじゃ剣の柄に手をかけたシャブッリナさんが、謝罪を強要した結果に見えてしまったのだから。


「……さいごのたて?」


 安酒場の大テーブルをお互いのメンバーが向き合う様に着席している。

 僕がそんな言葉を漏らした間にも、若い女給さんが不味いビールを次々にテーブルへと運んでくれた。

 木のジョッキがひとしきりそれぞれの前に置かれるのを見守って後、タンカーのお兄さんが口を開いたんだ。


「ああ。そのパーティー名は、俺たちがダンジョンで受け持っている役割が由来なんだ」

「というと、どういう役割を担っているんですの?」

「基本的に俺たちは、ギルドよりも規模の小さいパーティー単位で仕事を請け負っているフリーランスのチームだ。普段はダンジョン攻略中の戦闘救難任務や、レイドボス戦失敗時の被害拡大を阻止する任務をやっている。文字通り最後の盾として名前を売っているんだが、」


 そんな《最後の盾》のみなさんが、ある時ダルマの塔で暴走するボスの阻止任務に出動したそうなんだ。


 ダルマの塔の管理を委託されている《黄昏の筋肉》は、メインパーティーのほとんどを上階層の調査に振り分けて、リソース不足に悩んでいる。

 だから下請けとして雇い入れられている中小ギルドやフリーランス、訓練学校の生徒である僕らも応援に参加していたんだよね。


「あれは三四階層の隠し部屋にいた、レイドボス討伐戦の時でした。その時たまたま調査に当たっていたのは、野良で集めたフリーランスのパーティーメンバーだったんです。みなさんひとりひとりは熟練の冒険者揃いだったのですが、残念ながらほとんど初対面で、上手く連携を取る事ができなかったんです……」

「それが原因で、発見された隠し部屋のレイドボスとの戦闘でかなりの被害を出したんだ。俺たちは隠し部屋発見の情報を聞きつけて、念のために三四階層まで移動中だった」

「だが、駆けつけたときにはパーティーの連携が崩れた後だったのです!」


 まるで(せき)を切った様にこれまで黙って下を向いていた《最後の盾》のみなさんが口を開く。

 はじめは弓職の女性、続いて槍職の男性。最後にタンカーのお兄さんが言葉を引き取ったんだ。


「最後の盾と名乗るからには、俺たちが出動するのは決まって激戦区だ。この時もモンスタートレインをしながら撤退中の野良パーティーを逃がして、俺たちはレイドボスを通路上で引き受けて最後の盾になった」


 激戦区に送り出される《最後の盾》のみなさんは、そのために冒険者装備の一式も鉄壁のガードが求められるのだと説明してくれた。

 通常はタンカー役の戦闘職のひとが重装備を固めてヘイトを引き受ける。回避系のタンカーなら軽装備になるんだろうけど、それはあまり主流じゃない。


「だから俺たちは魔法使いや弓職であっても、鉄壁のガードを実現できる全身防護が基本装備だ」

「つまり、貴様たちはフルプレートメイルを全員が身につけるために神おむつが必要だと言いたいわけか?」

「「「違うそうじゃない!」」」


 シャブリナさんが質問すると《最後の盾》メンバー全員が一斉に首を横に振った。

 そして最後まで話を聞けば、納得してくれるはずだと続きをまた説明するんだ。


「レイドボスを押しとどめて仲間のパーティーを逃がした俺たちは、結果的に単独で持久戦を戦った後に、辛くも勝利した」

「相手は魔法使いのゴーレムでした。物理攻撃に耐性があるだけでなく、毒やら魔法やらといやらしい攻撃をしつこくしてきたのです」

「しかも最後の最後、魔法使いのゴーレムが破壊される直前、そのボスはわたしたちにとんでもない呪いをかけたのです……」

「「「……」」」


 呪いという言葉が弓職の女冒険者さんから飛び出した時、その場の空気がしんと静まりかえった。


 仲間のみんなを見回すと。

 シャブリナさんは不味いビールを口に運んで、泡ヒゲを拭った後に天井を見上げた。

 ドイヒーさんは大きなため息をこぼし、カビたチーズを口に放り込んでまたため息を付いた。

 ティクンちゃんは他人事の様に壁のシミを数えるフリをしていた。


「何となく話が見えてきたぞ」

「……ですわね。想像するに、お気の毒さまとしか言えない呪いにかかってしまったとしか」

「確認するがそれはあれか、魔法使いのゴーレムが死に際の置き土産に、お股の蛇口が壊れてしまうジョビジョバの呪いをかけたんだな……?」


 シャブリナさんとドイヒーさんは僕と顔を見合わせながら哀れみの表情を浮かべた後、《最後の盾》のみなさんに視線を送る。

 ジョビジョバの呪いとか、そんな冗談みたいな呪いがあったなんて……


「ああその通りだ。あの呪いにかけられて以来、昼間は予告なくジョビジョバの津波に襲われ続け、夜は必ずトイレで用を足す夢を見て水たまりを作る」

「はい、今この瞬間もわたしはお股の蛇口が開放的になっています。もしも《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。アンリミテッド・神おむつ(ゴット・パンツ)》が無ければ、この床は洪水になっていたと思います……」


 弓職の女冒険者さんがしかめ顔を赤らめさせながらそう言った。

 するともうひとりの女性、たぶん盗賊っぽいジョブの女性が震える表情で慰めた。

 ももしかすると厳しい視線で人相が悪く見えるのは、ジョビジョバの呪いと心の中で戦っているから、なの?!


「あのう、仮に神おむつをみなさんが手に入れても、呪いを解く事にはならないですよねっ?」

「そちらのモジモジお嬢さんが言うとおり、あくまでも神おむつは対処療法にしかならない。ジョビジョバの呪いを解くためには、どうしても三四階層のレイドボス、魔法使いのゴーレムを倒すしか解決策がないのもわかっている」


 おずおずと質問したティクンちゃんに、タンカーのお兄さんが厳かにこう言った。

 そしてひと呼吸を置くとタンカーお兄さんが言葉を続けるのだ。


「俺を除き、パーティー四人分の神おむつはようやく揃った。最後の一枚があれば数が揃うことになる」

「あ、あなたは今、ジョビジョバ対策はどうされておりますの?」

「今は神ならぬ紙のおむつを装着している。頭のおかしいようじょがやっている露店でいつも購入しているが、おむつ代が馬鹿にならないので困っているんだ……」


 これ以上、紙おむつにお金を出し続けるのはばからしい。

 そうしてジョビジョバの呪いをかけてくる三四階層のレイドボスは危険と判断されたのか、


「……残念ながら《黄昏の筋肉》は魔法使いのゴーレムが発生する隠し部屋は立入禁止区域に設定されてしまった。だから俺たち《最後の盾》が単独で魔法使いのゴーレムと再戦しなくちゃいけない!」


 だからどうしても神おむつが必要なんだ! そんな風に《最後の盾》のみなさんが頭を下げる。


「神おむつさえ手に入れればレイドボス攻略中もジョビジョバを気にせず、おむつ交換をしなくても戦う事ができる様になる。黄ばんだ布切れは偉大な女神様の与えたもう聖遺物だ。俺に、俺たちに鉄壁のガードを譲ってください!!」


 するとティクンちゃんは困った様な顔をしてしばらく考え込んだ後、重たい口を開く。


「……そのう。わたしもお漏らしの事で悩んでいるから、どうしても女神様の祝福を受けた魔法のおむつが欲しいと思っています。でも、みなさんがお漏らしの呪いにかかって悩んでいるのも、わかりました。同じお漏らしフレンズだから、気持ちはよくわかります。けど、」


 ふたたび安酒場は静まりかえる。

 ティクンちゃんは絞り出す様に、小さな声で言い添えた。


「だから、ひと晩だけ考えさせてほしいの。明日出発する前に必ずお返事しますッ」

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