82 黄ばんだ布切れは大人気です!
白亜のオークション会場を出たところで、僕らは眉毛の繋がったビリートーマスさんとお別れする事になる。
「オークションの流れは、おおむねあんな感じで行われるだろう。今回のプレゼント引換券は競売に初出品のドロップアイテムだから、最低入札価格はタダ同然でスタートだ」
ただし「三つの欲しい物の中から、ひとつだけ叶えてくれるプレゼント交換券」は金貨何枚、何十枚になる可能性があるから期待していいだろうな。
ビリートーマスさんがはそんな風に意見を述べた。
まだ世の中に流通していないプレゼント交換券は、それだけで激レアの価値があるドロップアイテムだ。
これから先、この存在を聞きつけて中小の冒険者ギルドやフリーの冒険者たちがダルマの塔に集まってきて、プレゼント交換券が当たり前にドロップする様になれば市場価格は安定するだろう。けれど、
「それはずっと先の事だろうからな、最初にこれを手に入れたわたしたちが気にする必要もないというわけか」
「ノッポの姉ちゃんの言う通りだ。これもまた冒険者稼業の醍醐味って奴だな、おちんぎんを楽しみにしておくことだぜ?」
「「「やっぱり冒険者は最高だぜ!!!」」」
ありがとうございましたっ。
最後に僕らは直立不動になって、訓練学校の合言葉でお見送りだ。
片手をヒラヒラさせながら、ビリートーマスさんは「あばよ」と背中を向けたんだけれど。
「……ドイヒー気が付いているか」
「もちろんですわ。先ほどから、失礼にもじっとこちらを睨みつけている殿方がおりますわねえ」
「いや待て、そのうちふたりは女だぞ?」
「あら失礼あそばせ。おほほほほッ」
「だが今はそんな事など些末な問題だったな。どうやらわたしたちに用があるらしい」
振り返れば、厳しい顔をしたシャブリナさんが遠くを睨んでいた。
同時に、ドイヒーさんも黒くて大きくて禍々しい長い杖を抱きしめながら不敵な笑みを浮かべているじゃないか。
ふたりの視線を追いかけて僕とティクンちゃんがその先を見やれば、
「ヒッ、人相の悪い冒険者ですっ」
「あ、本当だ……」
確か、神おむつの競売に参加していた冒険者パーティーのひとたちだ!
いかにも不機嫌な顔をした五人の冒険者が、広場の木陰からこっちに視線を送っているんだ。
睨みつけているなんて生やさしいものじゃなくて、どこか殺意めいたものすらあるものだから、ティクンちゃんも激しく背筋をビクンビクンさせた。
「こ、こっちに歩いてきますッ」
「フン、向こうの用件は簡単に想像つくがな。どうせティクンの競り落とした神おむつを寄越せと言ってくるだけだ」
いっそう厳しい表情になったシャブリナさんが、一歩前に出た。
ベテラン冒険者なんだろうか、みんな充実した装備を身につけていた。
そのうちのひとりは鎧と盾の重装備をしていたから、シャブリナさんと同じパーティーのタンカー役に違いない。
黄ばんだ布切れみたいな神おむつは、あのひとが欲しかったんだろうか? なんて思ったけれど、よく考えれば過去四回とも全部この冒険者パーティーが落札しているんだったよね。
すると五人組のベテラン冒険者のみんなが、待ちかまえたシャブリナさんの前でピタリと足を止めた。
「質問がある。《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。名付けてアンリミテッド・神おむつ》を落札したのはお前たちだな」
「いかにもその通りだ。この《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。名付けてアンリミテッド・神おむつ》を落札したのは、そこのモジモジで間違いない」
「ならばその《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。名付けてアンリミテッド・神おむつ》をこちらに引き渡し願いたいッ」
タンカー冒険者のお兄さんとシャブリナさんが睨み合う。
油断なく半身に構えたシャブリナさんが、さり気なく左手を剣の柄に添えた。
ドイヒーさんも抱きしめていた杖を構え、ティクンちゃんはさり気なく僕の背後に庇う。
もしかして一触即発?!
そんな空気が一瞬にして広がった瞬間にシャブリナさんが口を開いたんだ。
「……ほう、貴様たちはこのわたしの格好を見てもそんな口を利くわけだな」
「お前さんはどこからどう見ても、さすらいの女剣士の様に見えるがね」
「にゃにゃ?! わたしはブンボン騎士団所属、騎士見習いのシャブリナだっ」
そうなんだ。
今のシャブリナさんの格好は普段着の格好をしている。
ブンボン騎士団の正装はダンジョンで駄目にしちゃったから、今の格好はどこからどう見ても私服姿だもんね……
「女騎士どのだったか……しかしそれはどうでもいいッ」
「しょしょうだ騎士見習いだ! それをどうでもいいだと?!」
「俺たちにはどうしても神おむつが必要なんだ、落札価格で譲ってもらえないならさらに上乗せしてもかまわないっ。何でもしますから神おむつを譲ってください、どうかこの通り!」
お前たちも土下座しないかッ。
叫んだタンカーお兄さんの声を聞いて、人相の悪いベテラン冒険者のみなさんが一斉に土下座をしたんだ。
「こ、これはいったいどういう事ですの?!」
「ひんっ、土下座されてもパンツは渡さないのですっ」
困惑する僕らの事なんかそっちのけで、広場の石畳に冒険者たちが頭をこすりつけるもんだから、周りの視線が痛いよっ。
あわてふためいたシャブリナさんが、両手を広げて不思議な踊りを始めた。
「やめろ頭を上げないか、貴様たちも見せ物ではないぞッ。ええい、これではわたしが悪者みたいに周りの人間に思われるではないか!!」
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