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81 鉄壁のガードを手に入れましたっ!

「確かに、銀貨六枚をお受け取りいたしましたのう。これでこの《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。名付けてアンリミテッド・神おむつ(ゴッド・パンツ)》はお嬢さんのものになりましたのじゃ」


 控室での事だ。

 司会のおじいさん立ち合いの元、神おむつを出品した若い冒険者のひととティクンちゃんとの間で、落札品の受け渡しが行われた。

 どこからどう見ても黄ばんだ布切れを、大切そうにティクンちゃんが抱きしめて受け取る。


「それじゃあこれ、お納めしておきますね。いやあ俺もいい値段で売る事ができたから助かった。予想以上に根が吊り上がったからなあ」

「……そのう、ありがとうございましたッ」

「うんうん。こちらこそ」


 ペコリと大きくティクンちゃんが頭を下げると、冒険者さんもニコニコ顔をした。

 その冒険者は銀貨を受け取った後、手数料を支払う。

 競売の出品に際してオークション会場に代金を支払う仕組みになっているらしい。


 今おじいさんに手渡ししているのは銅貨十枚ぐらいみたいだけど、たぶんこれは落札料金によって支払額が変わる仕組み何だと思う。

 そんな事を考えていると、眉毛の繋がったビリートーマスさんが僕に解説してくれるのだ。


「さすが坊主は賢者の卵というだけあって詳しいな。事前に書物か何かで眼にしていたのか?」

「そういうわけではないんです、何故だか頭の中に知識であった気が……」

「ほう。若いうちから賢者の才能があるヤツは、頭の中でそういう仕組みが簡単に想像つくのかも知れねえな」


 本当にどうしてだろう。

 頭の片隅に、記憶を失ってホームレスおじさんになる前の知識が残っているのだろうか。


「それにしても、不思議な事もあるものですなあ。ダルマの塔で産出したアンリミテッド・神おむつの出品はこれで五度目なのですが、これまで毎回、同じ入札者が落札しておったのですじゃ」

「同じ入札者というと、あの商人風の代理人さんと冒険者さんの御一行ですの?」

「そうなのですじゃ。どうやらパーティーメンバーで神おむつを揃えようとしているんではなかろうかのう……」


 手数料を皮製の入金袋に収めた司会のおじいさんは、腕組みをしながらウンウンと首を捻っている。

 聞けばこの神おむつ、初回の出品時はタダ同然の値段で落札されたらしいのだけれど、回を重ねる毎にちょっとずつ値段が上がっていったらしい。

 それを聞いたドイヒーさんは、シャブリナさんとまたヒソヒソ話をはじめる。


「人間というものは、どんなゴミの様なアイテムでも誰かが欲しがると手に入れたくなるものですわ」

「ふむ。すると神の布切れ如きでも、なんだか価値がありそうなものに見えて、ついつい入札に参加してしまった者がいたのか」

「そうですわ。けれど布切れは、どこまでいっても黄ばんだ布切れですもの。そこまで大金を出して手に入れるのも馬鹿らしいと、途中で入札を諦めたんですわね」


 聞いていると酷い言われ様だった。

 実際オークションにはじめて出品されるアイテムは、値の付け様が無いからタダ同然の最低入札価格からスタートになるみたいだけれど、それが二度目ともなると落札価格のひとつ手前から入札が開始されるんだって。


「つまり、今回は最低入札価格が銀貨五枚にもなっていたんですか?」

「もう少し低くて、銀貨四枚と銅貨五六枚ですのう。そこまで価値が吊り上がってしまったというわけですな。何人かの冒険者は近頃興味を持ちはじめていたのは事実ですじゃ」

「それは今回のライバル入札希望者みたいに、冒険者パーティーのひとたちですか?」

「いや違いますの。あれは確か、フルプレートの甲冑を着込んだタンカー役の冒険者だったかの。たとえて言うなら、そちらの女騎士さんみたいなガチガチのムキムキにした様な格好の冒険者――」


 記憶をたどっていた司会のおじいさんは、ポンと手を叩いた後にシャブリナさんを見た。

 するとシャブリナさんは真っ赤な顔をしてこんな事を言う。


「わわっ、わたしはガチガチのムキムキではないじょ。ムチムチだ!」

「意味が分からないよ?!」

「何を言うかセイジっ。わたしはブンボン騎士団の所属であっても、鉄壁のガードと引き換えに女である事を捨てる様な、あのダサ格好悪いフルプレートメイルなど装備はしないと決めているのだ! 顔まで隠す全身甲冑を身に付けたら、ただの不審者にしか見えないではないか! 幼気な少年たちがビビってわたしに近づかない!!!」

「意味不明じゃありませんの、今でもシャブリナさんは十分に不審者ですわ!」


 普段のシャブリナさんはブンボン騎士団の騎士装束をしているけれど、全身甲冑ではない。

 盾と胸当てを中心に最低限の機動力を確保している様な格好だ。

 聞けば騎士団でフルプレートメイルを装着するのは戦争に出陣するときぐらいのものらしいね。

 鉄壁のガードがないと、強力な攻撃や魔法を防ぐのは難しいらしい。


「オシャレ装備を兼ねているものだが、この腰マントは防刃仕様に加工された使い勝手のいいものだからな。あんな全身甲冑を着込んでいたら、トイレに行くのも大変だ」

「そのう、じゃあ戦争の時はどうしているのですかッ?」

「きっ貴様と同じで、騎士もフルプレートの時はジョビジョバするしかないのだ。いちいち甲冑を付けはずしする余裕などないからなっ」


 モジモジ少女の興味津々な鋭い突っ込みに、シャブリナさんはとても嫌そうな顔をした。

 そんな理由で鉄壁のガードが得られるフルプレートメイルではなくて、騎士装束の正装で留めているらしいね。

 ティクンちゃんじゃないんだから、普通の女の子はやっぱりジョビジョバに抵抗があるもんだ。

 なるほどと納得をしていると、眉毛の繋がったビリートーマスさんもそれに説明を言い添えてくれる。


「それにあまり鉄壁のガードに偏り過ぎると機動力も損なわれちまうからな。ノッポの姉ちゃんがそう判断しているのは、オシャレ志向だけが理由じゃないってわけだ。相手によって装備選びをするのも一流の冒険者だぜ、時には重装備や軽装備が必要なボスモンスターもいるだろうからな」

「セイジ、貴様だってこのわたしが全身甲冑でコフーコフー言いながら、お股からジョビジョバしていたら伴侶(パートナー)として軽蔑するだろう?!」

「そ、そりゃ状況によるけど。どんな時でもシャブリナさんは相棒(パートナー)だから、安心してっ」

「最高か?! そんなセイジが大好きだ!」


 両の腕をシャブリナさんが伸ばすと僕は捕まって、暴れる胸の谷間にホールドされた。

 いつもと違って彼女は普段着だったから、お胸の感触がいつも以上に柔らかいっ。


 でもそこまで話を聞いたところで、僕は何となくわかった様な気がしたや。

 このティクンちゃんが手に入れたアンリミテッド・神おむつ。

 きっと重装備を身につける冒険者にとっては「急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題」な女神様の祝福を受けたパンツなのかも知れない。


「これで鉄壁のガードを手に入れましたっ。安心してダンジョンに入れるもんッ!」


 ティクンちゃんは嬉しそうに何度か背筋をビクンビクンした後、そんな事を口走った。

 モジモジ少女の場合は、絶対に普通のお漏らしガードだと思うけどね……

 これもまた、僕らの日常風景なのだ。



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