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80 急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツです!

 渾身の声で叫びを上げたティクンちゃんの言葉はよく会場内に聞こえた。

 白亜のオークション会場は、場内に響き渡る様な工夫が凝らされているのかも知れない。


「「「?!」」」


 突然、何を言い出すかと僕ら班の仲間は驚いたけれど、このモジモジ少女の表情は本気だった。

 魔法のおむつがいつか欲しいと、常々言っていたけれども……

 ティクンちゃんは見学証を首から下げているただの観覧者だ。

 これではオークションに参加する事ができないのだけど。どうするの?!


「……嬢ちゃん、いきなり何を?!」 

「おい貴様、そんな事を言い出してどうするつもりだ」

「そうですわよっ。わたくしたちは見学者なのですから、購入する事は……」


 みんなが戸惑いながらもティクンちゃんの取った行動に反応する。

 当の本人も「あっ」という悲鳴を上げて驚いたりするんだ。

 そうして、衝動で動いてしまった彼女は僕に助けを求めてくる。

 ぼ、僕に何を期待しているの?!


「銀貨五枚と銅貨一枚! 銀貨五枚と銅貨一枚の声がかかりました。ええとそちらのお嬢さんは……?」


 即座にティクンちゃんの言葉に反応した司会のおじいさんだ。

 すぐにも僕らの方へ視線を向けながら、新たな競りの入札希望者が何者なのかを確認しようとしている。

 だから僕は眉毛の繋がったビリートーマスさんを見やって小声で投げかけた。


「おじさん、ティクンちゃんの代わりに入札に参加する事はできますか?」

「……可能だが、わかった。じゃあ俺が代理人という事でひとまずは乗り切るが。嬢ちゃん大丈夫か、金の方は?」

「コクコク。そのう、少しぐらいはありますっ」

「わかったぜ。こういう場合は入札手数料を頂く事になっているんだが、俺はもともと《黄昏の筋肉》の専属だからな、手数料はいらねぇ」

「ありがとうございますッ」

「その代わり入札競争に負けても恨まんでくれよ、まあやるだけはやってみる」


 そんな僕の咄嗟のお願いにも関わらず、ビリートーマスさんは繋がった眉毛を寄せながら即座に了承してくれた。

 司会のおじいさんの方に向き直ると、手を上げてアピールをする。


「俺の客人だ。入札代理人は俺がやる!」

「よろしいです。ではあちらのお嬢さんから、銀貨五枚と銅貨一枚が入りました。他におりませんかの?」


 ティクンちゃんは安堵の表情を浮かべて僕の服の袖をギュっと握った。

 よかった。急の事だけど、このまま飛び入りで競売に参加する事はできそうだね。


「まったく、眉毛のおじさんが了承して下さったからよかったものの、突然こういう事を言い出すのは感心いたしませんわっ」

「そのう、ごめんなさい……。おじさん、ありがとうございますッ」

「いいって事よ嬢ちゃん。それよりも、あんなゴミみたいなダンジョン産のアイテムに、結構な値段をつける人間がいるとは」

「ゴミではないです、女神様の祝福を受けたおむつですっ」


 呆れた顔のビリートーマスさんにティクンちゃんは喰ってかかるけれど、僕もアンリミテッド・神おむつ(ゴットパンツ)にそんな価値があるとは思えない。

 仲間たちもティクンちゃんそっちのけで、神おむつについてヒソヒソ話をしている。


「銀貨五枚と言えば、冒険者訓練生の実習訓練で稼げるおちんぎんより高いからな」

「モジャモジャさんもジョビジョバなさったのなら、パンツを交換すればよろしいじゃありませんの。それをわざわざ大枚はたいて布切れなんて購入するなんて」

「けど実際、モジモジでもあるまいし神おむつを欲しがる人間がいるというから驚きだ。アッハッハ」

「きっとお股の蛇口が壊れている、モジャモジャさんのお仲間に違いありませんわ。おーっほっほっほ!」


 駄目だ、最後にはふたりとも笑い出してしまった。

 そんな事をしていると、神おむつを欲しがっているらしい別の入札希望者が、値段を釣り上げたんだ。


「銀貨五枚と銅貨十枚!」

「おおっ、銀貨五枚と銅貨十枚の声が入りました。他に欲しい方はおりませんかの?」


 僕らは声のしたライバルの入札希望者を探して会場を見回した。

 ちょうど会場の反対側に、商人風の入札代理人とその入札を希望する依頼人たちの姿があった。

 依頼人のひとたちは冒険者風の格好をしていて、何やら代理人の商人と話し合いながら値段を釣り上げたらしいね。


「ぎ、銀貨五枚と銅貨十一枚、出すのッ」


 すると僕の背中に隠れて顔だけを出していたティクンちゃんが、ビクンビクンと背筋を震わせながら入札希望額を上げた。


「よしきた。こちらは銀貨五枚と銅貨十一枚だぜ!」

「銀貨五枚と銅貨二〇枚!」


 即座にそれに被せてくるライバルたちの声。

 ティクンちゃんとビリートーマスさんは短くアイコンタクトを取って受けて立つつもりらしい。


「銀貨五枚と銅貨二一枚でどうだ!」

「こちらは銀貨五枚と銅貨三〇枚だ!」

「銀貨五枚と銅貨三一枚だぜ!」

「ぐぬぬ、……銀貨五枚と銅貨四〇枚!」


 本来のオークションでもこんな風に激しく競り合うのかはわからない。

 けれども、ノリノリになって腕まくりした眉毛の繋がったビリートーマスさんと、相手の入札代理人との応酬はヒートアップして。

 会場に集まっている見学者のみなさんも、興味深そうにその様子を観察していた。


「銀貨六枚まで出すの。眉毛のおじさん、お願いしますッ」

「よっしゃわかった。おい、こっちは銀貨六枚出すぞ! モジモジ嬢ちゃんは銀貨六枚の値を付けたが、あんたんところの依頼人はナンボ出すんだ。ん?!」


 ビリートーマスさんは手すりから身を乗り出すとライバルの入札代理人を睨みつける様に大喝したんだ。

 返事がない。どうやら商人風の代理人と依頼者が話し合いをしているらしい。

 依頼人の冒険者たちは、しきりにこっちを睨み返しながら口論をしているのだけれど、仲間のひとりがそれを落ち着かせているみたいだ。

 あっ、冒険者のひとたちが会場から引き上げようとしている。


「おおっ、銀貨六枚の声が入りました!」

「…………」

「他に《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。名付けてアンリミテッド・神おむつ(ゴット・パンツ)》をお求めの方はおられませんかの? おられない様でしたら、」


 司会のおじいさんが会場をグルリと見回してトンカチを持ち上げた。

 反対の手に掲げられた商品、《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。名付けてアンリミテッド・神おむつ(ゴット・パンツ)》に、ティクンちゃんが恍惚とした表情を浮かべる。


「こちらの《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。名付けてアンリミテッド・神おむつ(ゴット・パンツ)》は、銀貨六枚で落札ですじゃ!」


 カンカンカン!

 銀貨六枚でその神おむつは、ティクンちゃんのものとなった。

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