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79 オークション会場を見学です!

 案内役を買って出てくれたビリートーマスさんと一緒に、僕らはコムドムの村を闊歩した。

 村の人口はどのぐらいだろうか、広場に面した場所にはいくつもの木造や石造の建物が並んでいる。

 色んな格好をしたひとたちが、それらの建物へひっきりなしに出入りしているのだ。

 ダンジョン攻略とともに発展したこの村は、それなりの人口規模まで発展しているのかも知れない。

 そのうちのひとつが、《黄昏の筋肉》のギルド事務所なんだそうだね。


「あれがウチのギルド事務所が置かれている建屋だ。元々ウチの本部はブンボンの街に置かれていたんだが、ダルマの塔の攻略が思いのほか長引いちまってな」


 それで前進拠点として使われていた施設が、ギルド事務所に昇格したらしい。

 今では《黄昏の筋肉》の主要幹部がこのコムドム村に勢ぞろいしていて、むかしからギルドと取引のあった武器や防具などの物流商人たちも、一部がこの村まで進出したんだとか。


「すると、しばらくは《黄昏の筋肉》はコムドムに本部を置き続ける感じなんですか?」

「まあそういう事になるかな。お前さんたちもダルマの塔に、裏ダンジョンが存在しているという噂は知っているだろう。あれを攻略するまではウチのギルマスも引き下がるつもりがないみたいだぜ」


 ふとした僕のその質問に、先頭を歩いていたビリートーマスさんが振り返った。

 自慢の繋がった眉毛をひと撫でしながら、彼はニヤリとしつつそう教えてくれたんだけれども。


 教官たちの話や、シャブリナさんドイヒーさんの会話でもダルマの塔に存在するという噂の裏ダンジョンについては言及されていたよね。

 まさかそれがこのタイミングで《黄昏の筋肉》のギルド員の口からきかされたのには驚きだった。

 それはシャブリナさんやドイヒーさんも同様だったらしく、


「ふむ、噂は本当だったという事か。してみると《黄昏の筋肉》のギルマスは、ダルマの塔にかなりの投資をしたと見えるな」

「その分を取り返すまでは、引くに引けないというわけですわね……」


 お互いに顔を見合わせたシャブリナさんとドイヒーさん。

 どうやら眉毛の繋がったビリートーマスさんの反応を見ている限り、ふたりの反応が正しいことを証明しているみたいだ。


ギルマス(おやじ)は本気だぜ。ダルマの塔に隠された秘密とお宝を、全て解明して手に入れるまでは、私財をぜんぶブチ込んででもやり遂げると言っていたからな」

「すごい気迫ですのね」

「そりゃお前さん、考えてもみろよ。世間さまに《黄昏の筋肉》がダルマの塔を攻略できたのは、インギンオブレイ率いる《ビーストエンド》が、ボスまであと一歩というところまでアタックルートを解明したからなんて言われてみろ、」


 ギルドの面目というものが丸潰れだからな。

 そんな風に白い歯を見せる眉毛おじさんに、僕とティクンちゃんはヒソヒソ話をしつつ納得した。


「あのう、そう言えばインギンさんも《黄昏の筋肉》をライバル視する様な発言をしていましたっ」

「インギンさんと《黄昏の筋肉》のギルマスはよっぽど仲が悪いんだろうね」


 なんて会話をしている内に、競売の行われるオークション会場に到着だ。

 建物はまだ最近完成したばかりといった感じに、どこからともなく塗料の匂いが漂ってきて鼻を刺激する。

 真新しい白亜の石組みでできた玄関口には、武装した冒険者さんや上等なおべべをきた商人さんたちがたむろしていて、何か話し込んでいる姿が散見できるんだ。


「こっちだ坊主たち。まずオークション会場に入る前に受付で許可証をもらわなくちゃならん」


 眉毛の繋がったビリートーマスさんは受付に話しかけると、いくつかの木札を受け取った。


「まずこっちが競売に参加する事ができる許可証で、そっちがオークションを見学できる入場用の許可証だ。お前さんたちは入場用のを首からかけて、見える様にしてくれ。オークションが行われていないときは出入り自由だが、今は競売中だからこれが必要だ」

「へえ、実際のオークション風景もちゃんと見学できるんですね。ちょっとラッキーな気分だ」


 木札のひとつを受け取った僕は、首からそれをかけながらそう口にした。

 すると訳知り顔のドイヒーさんが、みんなをグルリと見回した後に補足説明をしてくれる。


「基本的に誰でも競売には参加できるものなんですのよ。けれど、それを専門に行っている商人がおりますので、普通はその者を代理人(バイヤー)に立ててオークションに出品したり競りを行ってもらったりするんですの。けれども依頼人も競売の風景を見る事ができる様に、見学用の入場許可証が発行されているのですわ」

「……やけに詳しいな、と思ったが。貴様のその杖はダンジョン産の競売品だったか」

「そうですのよ。あの時は優秀な代理人に、お金はいくらかかっても構わないからと、強気で攻めの競りをさせたんですのよ。おーっほっほっほ!」


 ダンジョン産の逸品だけはあって落札価格はすごい大金になったそうだけれど、無事にこの黒くて大きくて禍々しい長い杖を手に入れて、ドイヒーさんはその時幸せ気分だったそうだ。

 何だか、激レア使い魔スクロールくじの時といい、ドイヒーさんはこういうのに滅法弱い気がするね。

 ギャンブル要素があると、熱くなるタイプだね。


「セイジはギャンブルなんかに手を出したら駄目だぞ。どうしても金が必要な時は必ずわたしに相談する事だ、ひと晩その体の自由をわたしに与えてくれれば、金を工面してやらんでもない。ん?」

「わ、わたしもセイジくんに貢ぐのっ」


 おかしなことを口走るシャブリナさんとティクンちゃんに呆れた顔を向けながら。

 僕らはオークション会場の内部まで足を進めたんだ。


 そこはまるで訓練学校の教室を二倍に広げた様なスペースだった、

 大きく中央に迫り出した檀上には、司会の痩せたおじいさんがいて、何かの商品を会場全体に見える様に持ち上げていた。


「銀貨五枚! こちらの商品、他にお声かけはございませんか?」


 会場の見学席までやって来たところで、ビリートーマスさんがヒソヒソ声で「あれもダンジョン産のアイテムだ」と教えてくれる。


「それでは《急にトイレが我慢できなくなっても、そのまま垂らし放題のパンツ。名付けてアンリミテッド・神おむつ(ゴット・パンツ)》、他にお声かけがない様なので、なければ銀貨五枚で落札とさせていただき――」


 おじいさんは商品をかかげた右手と反対方向の手で、小さな木のトンカチを持ち上げた。

 いましもカンカンと落札を知らせるトンカチを鳴らそうとしたその瞬間。

 僕の横にたティクンちゃんが、何かをボソボソ言っている。


「……すの」

「?」

「銀貨五枚と銅貨一枚を出すのッ!」


 突然信じられない様な大きな声で、ティクンちゃんが叫びながら手を上げたんだ。

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