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78 宿場村に立ち寄ります!

投稿の際に不備があったため、原稿を差し替えました。

ご迷惑をおかけいたしました><

 僕らがダルマの塔で実習を行ったのは十日あまりだ。

 長い迷宮暮らしが続くと、やっぱり体が新鮮な空気を欲しがる様になるんだね。

 ダンジョンを出ると、班の仲間たちも思わず大きな伸びをした。


「うーん、空気がとっても美味しいですわ!」

「太陽がまぶしいですっ。思わず溶けてしまいそうになるのッ」

「長い様で短い実習訓練だったが、少なくとも臭い寝床と不味い携帯食料から解放される。寄宿舎に戻ればセイジにまた愛情タップリのおちんぎん料理を食べさせてやるからな。ん?」

「おちんぎんの支払いが楽しみだね。あのプレゼント交換券は幾らで落札されるかな……」



 戦利品の塩漬けオークの首はあっち、それから素材を詰めた袋はそっち。

 訓練学校へ戻る荷馬車に、区分けした荷物を載せる作業が終わればいざ退却だ。

 教官の号令がかかると二九人が乗り込んだ馬車列がゴトゴトと、街道を目指して移動しはじめた。

 元来た道をゆっくりと進むけれど、今回は道中で一泊をするらしい。

 どうしてそうなるかと言うと、


「そのう。出発の時は早朝一番でした。今日は正午に出発するので、途中の村で分宿するそうですっ」


 荷台の揺れに合わせてビクンと身震いするティクンちゃんが説明してくれた。

 手に持った麻紙の紙片は、出発前に教官が各班に配ったものだ。

 僕は普段使いの文字が読めないので助かるや。

 するとシャブリナさんが身を乗り出してそのメモ書きを確認する。


「長年にわたって難攻不落のダンジョン周辺には、いつの間にか宿場の村が自然発生すると聞いたことがある。さしずめ今回わたしたちが分宿するのは、そういった村のひとつなのだろう」

「ダルマの塔は《黄昏の筋肉》が倒破しても、なお謎の多い迷宮ですものね。きっとレアアイテムのドロップを狙って、中小のギルドやフリーランスの冒険者たちが集まっているのですわ」

「迷宮の門前には珍しいアイテムも集まるので、賑わっているだろうな。ほう、競売が行われるオークション会場が、これから立ち寄る村にあると書かれているぞ」


 どれどれ。

 僕が地図を広げると、シャブリナさんがメモ書きから視線を上げる。

 そうしてみんなが地図を覗き込んで確認すると、現在地の森を抜けて街道に合流する辺りに存在するらしい。

 ちょうどダルマの塔とブンボンの街との中間点に位置しているみたいだった。


「この距離ならば、陽が暮れるよりも前に到着するだろう。少しは宿場村の様子を見て回る余裕があるやも知れんな。オークション会場とやらに行ってみるか」

「競売の様子は僕も気になってたんだ。時間があれば行きたいなあ」

「へえ、《黄昏の筋肉》はこの村に拠点を置いているんですのね。おそらくダルマの塔の攻略後も管理を委託されているので、本部をこちらに移転させたに違いありませんわ」

「……わたし。魔法のおむつが競売にかけられてたら、迷わず買いますッ」


 多分出品されないと思うけどね……

 僕らは荷台の上で軽めの昼食を終えると、雑談をしながら街道を揺られ進んだ。

 そうして広大な森の入口に差しかかったあたりで背後を振り返ると。

 遠く実習訓練でお世話になった古代迷宮、ダルマの塔がそびえ立っている姿が見えた。


「また来る事があるかも知れないね」

「ああそうだな。まだまだ解明されていない謎と、おちんぎんの膨らむ夢がタップリ詰まったダンジョンだ。今度来るときには訓練学校を卒業後だな」

「その日まで、期待を胸に膨らませて冒険者として腕も磨いておかないとねっ」

「セイジは胸の膨らみに期待しているのか?」

「え……?」

「それなら貴様にひとつ、この豊かなわたしの胸を貸してやるとしよう。ハァハァ」

「何言ってるのシャブリナさん?」

「おちんぎん以外のところも膨らませていいぞ、ハスハス。さあ来いセイジ!」


 遠慮をする事はないじょ! 

 なんて、わけのわからない事を口走って身を寄せてくるシャブリナさんを無視して、


「ほ、ほら。街道の向こう側に防風林が見えてきたね、もうすぐ宿場村に到着するよ」


 森を抜けだせばブンボンの街へと続く往還が走っている。

 その道を挟んで向こう側には穀倉地帯と防風林が広がっていて、近くに人々の営みがある事を教えてくれた。

 シャブリナさんは相変わらずお馬鹿な事を口走っていたけれども、僕の言葉につられてドイヒーさんとティクンちゃんも視線を振り向けた。

 ダルマの塔に向かう途中は通り過ぎただけだったけれども、


「あれは冒険者ですわね、こうして見ると宿場村に立ち寄る方が結構おりますのねえ」

「本当だね。冒険者だけじゃなくて商人みたいなひとの往来もいるや」


 見れば、防風林の向こう側に見える家々の方向に吸い込まれていく旅人の姿がある。

 こうして馬車列が宿場村の広場らしき場所に到着すると、ゾロゾロと僕らは下車して教官の前に整列した。


「いいか。今夜はこのコムドムの村に班毎にわかれて部屋を取り、宿泊する事になる。明日朝に教会堂の鐘が鳴ればこの広場に再集合だ」

「久しぶりの外の空気に触れたからと言って、あまり羽目を外すなよ?」


 それまで自由時間とするが、間違っても村のみなさんと問題事を起こすんじゃないぞ!

 僕たち全員を睥睨したミノタウロス教官とゴリラ教官は、交互に大きな声でそうどやしつけた。

 三々五々解散となったところで、ふた班ごとにわかれて指定された宿屋に、僕らは荷物を運び込む事にしたのだけれども。


「塩漬けオークの首を宿屋に持ち込むわけにはいかないからな、先に倉庫へ預けてしまうか」

「コクコク」

「それがよろしいですわね。いくら冒険者の落とすお金で成り立っている村と言っても、さすがにマナーは守りませんと」

「フンフン」


 実習訓練に出発する際に渡された手引書にはこう書かれていた。

 大量のモンスター素材や装備、かさばる貴重品を持っている状態の時は、宿屋に併設されている保管庫や倉庫商人のところに荷物を預けるのがマナーなんだって。

 貴重品がある時は、街や村で羽を伸ばす前に倉庫商人のところに預ける事になるけれども。

 僕はホームレスの保護施設でお世話になっていた様な人間だから、高価なものは何も持っていない。


「この場合はわざわざ倉庫商人のところにいかなくても、宿屋さんの保管庫に預けておけば平気かな?」

「ですわねえ。荷物と言っても塩漬けの首の他は、かさばるものもテントや炊事用の野営道具ぐらいしかありませんもの」

「わたしにとって一番大切なものは貴様だからな。セイジを片時も手放すなんて、わたしには耐えられない」

「セイジくんはみんなで守らなくちゃいけないのっ」


 結局、塩漬けオークの首だけを保管庫に預ける事にして。

 それが終わってから宿屋のチェックインをする流れになったんだけれども。

 手荷物を割り当てられた部屋に放り込んで、外の広場に戻って来たところで僕らはばったり出くわした。

 ガッチリとした体形で眉毛の繋がっているひとだったから、一度見れば忘れない顔立ち。


「お、坊主は確か訓練学校に通っている賢者だったな?」

「眉毛の繋がっているおじさん、こんにちは!」

「ビリートータスだ。実習は無事に終わった様で何よりだ。そっちは坊主のパーティーメンバーか?」

「はいそうなんです。ちょうどこれから仲間と、競売が行われているオークション会場に向かうところだったんです」


 確かギルド《黄昏の筋肉》で鑑定士の仕事をしている賢者のおじさんだ。

 軽く班の仲間たちと自己紹介を済ませながら、僕たちの目的地を口にしたところ、


「ははぁそうか。坊主は例のプレゼント交換券がどいやって競売にかけられるのか、興味があるんだな? 出品されるのはまだ先の予定だが、俺が案内してやろう」


 眉毛の繋がっているビリートータスさんはニッコリと笑って見せて、僕らを案内してくれる事になった。

 けれどもこんな時さえブレないのが、シャブリナさんである。


「それは大変ありがたい! そのオークションというのは、例えば新婚夫婦が快適に暮らせるマイホームなども競売にかけられてるだろうか? 情報があればすぐにわたしのところか、ブンボン騎士団の詰所まで連絡してくれないかっ?!」

「いや、この村で競売にかけられるのは、ダンジョンのドロップアイテムぐらいのものだ……」


 身を乗り出して質問責めにするものだから、眉毛のビリートータスさんは当たり前の様に困惑していた。

 恥ずかしいからやめてよね!


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