77 プレゼント交換券!
迷宮探索で得られた戦利品は、基本的にダンジョンの占有権を購入したギルドに帰属する。
ギルドはお宝やドロップアイテムを所属する鑑定士に調べてもらって、古物商に売却したりオークションにかけたりして、ギルド経営の軍資金にするらしいのだ。
「それら売却されたものが、通常は冒険者のおちんぎんとなって支払われるわけだな」
ストーンゴーレム討伐で手に入れたのは「三つの欲し物の中から、ひとつだけ叶えてくれるプレゼント交換券」だった。
この三つの欲しい物というのは、どうやら交換券にある下線にそれぞれ書き込めばいいらしい。
たぶんその中のひとつが交換券を発動させる事で、スクロール使用の代償で引換してもらえるというものだろう。
「詳しい事は《黄昏の筋肉》の鑑定士のひとに見てもらわないとわからないよね」
「うむ。しかしこういった場合はどうするのが最適解なのだろうな。今回のわたしたちは《黄昏の筋肉》の下請けとして、アルバイトをやっているわけだ。教官どのの話では、確か訓練生が発見したものは訓練生が優先権を持っているという話だったが……」
僕の隣でシゲシテと羊皮紙を観察していたシャブリナさんは、そう言って腕組みをした。
するとたわわに実ったお胸をポンチョごと抱き寄せる事になって、僕から借りているポンチョの裾がグッと引き上がる。
シャブリナさんの悩ましいお股が露になった!
「見ちゃいけない、見ちゃいけないっ」
「何を言っているのだセイジは? 悩ましいところだなこれは。わたしたちで高価なものをみっつ並べて、高価なものとプレゼント交換するという方法もあるが、そのまま売却するかオークションにかけた方がおちんぎんをタップリ手に入れる事ができるかもしれないのだからなッ!」
「……な、悩ましいよね。僕らはお宝についてはあまり詳しくないし、こういう事は専門家のひとに任せた方がタップリとおちんぎんが手に入るかも知れない」
「そうだぞセイジ。おちんぎんをタップリ、もう一度口にしてみてくれないか。ハアハア、ん?」
「お、おちんぎん、タップリ……って何を言わせるのシャブリナさん?!」
あわてて視線を反らしたにも関わらず、シャブリナさんは僕の反応を面白がって顔を覗き込んでくる。
「ひ、ひとまず隠し部屋の間取りチェックとか、調査をしてから考えようよ。僕たちが勝手に書き込んで決めていいものじゃないからさっ」
「うむ確かにそうだ。セイジのおちんぎんタップリは、ベースキャンプに戻ってから続きを聞く事にしよう」
「もう言わないよ!」
気が付けばティクンちゃんと、ようやく元気を取り戻したドイヒーさんが何事かブツブツと呟いているのが聞こえる。
「もしプレゼント交換券を使うなら、わたし、お漏らししても大丈夫なおパンツ交換券がいいと思いますっ」
「何を言っておりますの、あなたのお願いはおむつがあれば十分ではありませんか。おむつなんかベビー用品店に行けばいくらでも手に入りますのよ! それよりも、新しい使い魔を手に入れて……」
このふたりは「三つの欲し物の中から、ひとつだけ叶えてくれるプレゼント交換券」を使うなら何がいいかと夢を膨らませているみたいだね。
確かに「三つの欲し物の中から、ひとつだけ叶えてくれるプレゼント交換券」は、とても夢が膨らむドロップアイテムだったと思う。
普通にブンボンの街で生活していたんじゃ、絶対に知る事が無いいにしえの魔法使いが残した遺産だよ!
「そう考えると夢が膨らんでいいよね、シャブリナさん」
「まったくだセイジ。やっぱりおちんぎんの膨らむドリームは最高だな! 興奮するな! な?」
僕たちはどこかでそんな興奮を覚えながら、大切に巻物を仕舞い込んでゴリラ教官に託したんだ。
そうして散乱したストーンゴーレムの破片をみんなで手分けして撤去した後。
荷物持ちの僕は隠し部屋の構造をチェックしたりメモしたりする大切なお仕事がある。
実際に隠し部屋の入口にあったマジカルサイネージを操作したのは僕だしね。
色々と覚えているうちに、できるだけ詳細にメモを書き込んでおいて、ベースキャンプに戻ったら報告書を書ける様にしなくちゃいけない。
そんな事を思案しながら入口でボードに書き付けをしていると、
「しかしダルマの塔という場所も不思議なダンジョンだ」
「まったくだ。長年にわたってここは倒破される事が無かった難攻不落の迷宮のひとつだが、一度攻略されて後もまだまだ不思議な場所や仕掛けが残っているんだからな」
ふたりの教官たちがする雑談が聞こえてきた。
訓練生たちが全員外に出た隠し部屋に、ミノタウロス教官「調査済」の張り紙をペタペタ貼り付けてる。
そうして木片でバッテンの字で扉に封をしたところで、僕はミノタウロス教官に質問をする。
「教官どの、これは何をやっているのですか?」
「レイドボスの発生する隠し部屋は、一定の時間が経過するとまた再生する場合があるからな」
「という事は、またあのストーンゴーレムが発生するって事ですか?!」
「可能性としてはあるので、念のために注意書きと封印をしておくのだ」
間違って事情を知らないパーティーが、レイドボス戦の装備も整えずに入ってしまうと大変な事になる。
一応は教官たちがプレートに記されている警告を、普段使いの言葉に翻訳して注意書きしてくれているけれど、念には念をだね。
「そう言えばインギン姐さんは、この塔の最上層付近まで攻略を進めて、あと一歩のところでダンジョンの占有時間切れで撤退するハメになったんだったな」
「あの時はわざわざ学校まで使いが来て、ゴリや俺にも授業を休んで援軍を寄越せと言ってきたぐらいだからな」
「姐さんは相変わらず滅茶苦茶だ」
「滅茶苦茶なのは今にはじまった事じゃないだろう。パンチョさんも大変だろうぜ」
「姐さんもダルマの塔を初倒破する栄誉を手に入れていれば、今回みたいなレアドロップを独占できたんだがなあ」
ガッハッハ!
ゴリラ教官とミノタウロス教官はお互いに顔を合わせて大笑いをした。
そっかあ。
ストーンゴーレムが何度も復活するタイプのボスだった場合は、あの「三つの欲し物の中から、ひとつだけ叶えてくれるプレゼント交換券」はまた誰かが手に入れる可能性があるのかも知れない。
冒険者は一獲千金を夢見るものだというけれど、僕は改めてその意味を知ったような気分になった。
ところで隠し部屋に関する調査報告書を戦利品と一緒に《黄昏の筋肉》へ提出したところ。
今回手に入れたストーンゴーレムの魔法発動装置については、ギルドがいいお値段で買い取りをしてくれる事になったみたいだね。
それでもう一方の「三つの欲し物の中から、ひとつだけ叶えてくれるプレゼント交換券」についてだけれども……
「これは扱いに困る代物だな。……何しろプレゼント交換して欲しい物を記すためには、正確な上位古代文字と下位古代文字を書ける人間を用意する必要がある。その上、過去のダルマの塔で発生したレイドボスは、決まって時間経過すると復活する仕掛けになっているんだよ」
今は一点物のレアアイテムで大変高価なものだけれども。
将来的にはダルマの塔のあちこちで、これが発見された場合は需要と供給のバランスから値崩れする可能性があるというんだ。
「いや困った。ひとまず競売にかけて落札価格が出てから、このぶんの買取価格を冒険者訓練学校に支払うという事でよろしいか?」
教官と一緒に報告へついて行った僕とドイヒーさんは。
ギルド《黄昏の筋肉》に所属している眉毛の繋がった鑑定士おじさんが、困りきった顔でそう持ちかけてきたのを耳にしたんだ。
思った以上に高価な激レアのアイテムだったのかな?!




