76 宝箱の中身を確認します!
全力の魔法を使い切って精魂尽き果てたドイヒーさんの眼の前には、非常な現実が突き付けられてしまう。
しおしおに干からびてしまった使い魔てぃんくるぽんが、そこには残されていたんだ。
「てぃんくるぽん。嗚呼、わたくしの可哀想なてぃんくるぽん!」
黒ずんで生気の感じられない使い魔は、何だか卑猥な形に反り上がった様に固形物になっていた。
号泣するドイヒーさんには申し訳ないけれど、例えて言うならまるでナメクジの干物だ。
「そのう、塩をかければ復活するかもしれませんっ」
「酷い事を言わないでくださいましな! そんな事をしたら、てぃんくるぽんがミイラになってしまいますわ?!」
「貴様の使い魔は、やっぱりナメクジじゃないか?!」
「違いますわ。てぃんくるぽんは、スライムドラゴンですのよ!!!」
確かてぃんくるぽんは、スクロールくじのハズレを引いて手に入れた召喚契約の使い魔だ。
ハズレの使い魔なら、元の相場も安値のはずだから、もう一度魔法のナメクジを手に入れるのは難しくないよ。
そう思ってドイヒーさんに慰めの言葉をかけようとしたら、
「てぃんくるぽんは、永遠に不滅ですのっ!」
「どういう事?」
「使い魔は一度消滅してしまっても、また再召喚すれば、てぃんくるぽん2号として復活する事ができるのですわっ」
「そういう事は早くいってよね! 同情しちゃったじゃないかッ」
しおしおのナメクジを見て号泣するドイヒーさん。
けれど復活するのがわかっているなら、今は相手にしている場合じゃない。
ストーンゴーレム討伐の歓喜がひと段落すると、隠し部屋の調査をしなくちゃならないからね。
装備を失って全裸になったシャブリナさんに、ひとまず僕のポンチョを差し出したんだけれども。
長身のシャブリナさんがそれを着ると、裾丈が短すぎてお股の辺りをギリギリ隠せるか隠せないかの、きわどいものになってしまった。
何だか余計にエッチな姿になってしまった?!
「ご、ごめん。何だか余計な事をしてしまったみたいだよ……」
「いや構わんさ。貴様の気遣いはとてもわかるし、これしきの体を見られたところで喜ぶ人間はいないだろう。おや、セイジ。セイジの一部は喜んでいる様だが、興奮しているのか。ん?」
「…………」
ズイと身をかがめて僕の顔を覗き込んでくるイジワルなシャブリナさんに、あわてて視線を反らしてしまう。
冷静になれ僕、冷静になれ僕。
今は周りの視線もあるし、何より隠し部屋の調査をしなくちゃいけないじゃないかっ。
「おい、坊主。このヘンテコなモノが何かわかるか? お前さんは賢者なんだろ?」
「あっちょっと待ってください、まだ触らないで」
隠し部屋の隅で、しゃがみ込んだ訓練生のひとりが声を上げた。
するとそこには、かつてストーンゴーレムだったものの破片と残骸が散乱していた。
「たぶんこれはストーンゴーレムの討伐部位だね。マジカルサイネージの設定で、ボスが落とすドロップアイテムの設定はランダムに選択したから、たぶんそれだと思う」
「ふむ、貴様がベタベタ触っていた石板の事だな。つまりボスの討伐部位がランダムに残る設定をしたというわけか。どうやらこれは魔法駆動装置か何かの様だ」
「何か魔力的な反応が無いか、確認いたしますわ。みなさんお下がりくださいましな」
シャブリナさんが興味深げに覗き込んでいると、いつの間にか気付け薬で復活したドイヒーさんが近づいてくるじゃないか。
何だかまだヨレヨレの姿で、黒くて長くて禍々しい杖でようやく立っているという感じだ。
「いにしえの魔法使いは言いました。フィジカル・マジカル・デッドオおあアライブ?」
「…………」
「大丈夫の様ですわね」
反応が無い。すでに機能停止した安全な魔法駆動装置の様だ。
ドイヒーさんの言葉を待って手に取ってみた僕は、そこに何かの注意書きが書かれているのを発見した。
「何だ坊主、魔法文字が書かれているんじゃないか?」
「うん、注意書きだね。危険、発熱・発火・爆発・呪いの恐れがあるので、魔法回路の調子が悪い場合は専門家にご相談してください。だってさ……」
「……何か微妙に危険な討伐部位だな。とりあえず教官に預けて、専門の鑑定士に見てもらえばいいか。坊主にはこれがどれぐらいの価値があるものか、わかるか?」
いや、僕にはちょっとわからないな。
でもきっと、古代文明を築き上げたいにしえの魔法使いが残したものだ。
「あのう、きっと魔法研究の重要な発見になったり、貴重なもので間違いないと思いますッ」
「そうですわね。魔法修行の旅の途中聞いたんですけれども、迷宮から発見される魔法遺産は、高値で取引されているということですわ」
「ふむ。つまりこれは、予想外なボーナスおちんぎんになるという可能性があるのか。やったなセイジ、おちんぎんが膨らんだぞ!」
班のみんなが集まって来て、魔法駆動装置の品評会になった。
きっと貴重なものであるのは間違いないとみんなの意見が一致したところで、やって来たミノタウロス教官に預けておいた。
そうしてもうひとつ隠し部屋の奥に残されていたのが、宝箱だった。
マジカルサイネージの案内板では、確かアイテムボックスと呼ばれていたものだ。
何が出てくるかはわからない。
それをさっそく、ビッツくんが舌なめずりしながら宝箱の状態をチェックするんだけれども。
「変な仕掛けみたいなのは見当たらねえが、ここに何か書かれているぜ。注意書きかいセイジさん?」
「ええと、このボタンを押してくださいと書かれている」
「怪しい、絶対に何かおかしな仕掛けがあるかもしれねな。どうするセイジさん」
中身は固定化かランダム化を選択できる様になっていたけれども。
僕はランダム化する方を選んで決定したんだ。
念のために、いざという時に対応できる様にしておかなくちゃいけないや。
見守っていたゴリラ教官が頷いて見せるのを見て、僕は声を上げる。
「みんな、臨戦態勢を取って宝箱を開けるよ! もしも宝箱が罠でモンスターが飛び出して来たら、対処してください!」
「わかったぜ坊主、ノッポの姉ちゃんたちは下がっててくれ。いつもいいところを奪われたんじゃ、同期の立場がねえってもんだぜ」
「そうだな、レイドボスじゃなければ敵じゃねえ。俺たちに任せてくれ」
訓練生の仲間たちがそんな風に力強く返事してくれた。
シャブリナさんは名残惜しそうにしていたけれど、すでに防具を失っているので隠し部屋の外で待機だ。
支援職が下がり、アタッカー職のみなさんが宝箱を囲む様に集まったところで、ビッツくんがボタンを押した。
ポチっ。
ギイイぱこっ!
宝箱の中身が開いた。
宝箱の中には何かよくわからない巻物がひとつ入っている。
スクロールガチャの巻物ではないけれど、ランダムドロップで手に入れたものは巻物だった。
ハズレかな? ……と思いながら巻物を広げてみると大きな魔法陣がビッチリ書き込まれていて、
「三つの欲しい物の中から、ひとつだけ叶えてくれるプレゼント交換券」
そんな風に古代の魔法文字で書かれていたのである。
アタリだこれ!
おかげさまで『ダンジョンはいいぞ!』がTOブックスより、9月9日に発売されることが決まりました!
イラスト担当はWEB版・同人版に引き続き、もちうさ先生が引き受けて下さいました!
詳しい内容はまた改めて、活動報告にて随時お知らせできればと思います。
やっぱり冒険者は最高だぜ!