73 選択を迫られます!
一刻一秒の時間が惜しいよ……
ミノタウロス教官が駆けだすのを見届けた僕は、魔法案内板に振れて次に「サービス内容の変更・キャンセル」に案内を進めた。
プレートがおぼろげに発光した後、文字が次々と変化して案内が発現する。
「ストーンゴーレム討伐戦に参加された以降でも、サービス内容の変更・キャンセルを行う事ができます。案内の最後にある『変更する』または『キャンセルする』をお選びください。ただし利用客が全滅した場合はその限りではありません。利用客全滅についての一切の苦情は受け付けておりませんので、あらかじめご了承ください」
見落としがない様にじっくりと視線を走らせながら、一語一句を確認する。
どういうわけかこの土地で慣れ親しんでいる文字はサッパリ読めないくせに、上位と下位で構成されている魔法文字は相変わらずネイティブに、しっくりと読み解いてしまえる。
まさかとは思うけど、僕は古代人の生き残りだったんだろうか……?
石板の案内を次へ進めると『変更する』と『キャンセルする』の二択が現れた。
僕は迷わず『変更する』と大きく書かれた文字に触れると、
「……レイドボス設定、オプション設定、セキュリティ設定。わからないから上からチェックして行こう!」
ギミック解除方法はたぶん、オプション設定かセキュリティ設定のどちらかだ。
けれど何かレイドボス設定にチェック項目があるかも知れない。
僕は取り急ぎ「レイドボス設定」の文字に触れると、次の案内が出るのを息を呑みながら待った。
そうして浮かび上がった文字に驚いてしまう。
「レイドボス・ストーンゴーレムの設定を変更できます。魔法耐性の設定、硬い・普通・柔らかい。駆動速度の固定化・ランダム化。攻撃力の固定化・ランダム化。こ、これは……?!」
現状ではストーンゴーレムの魔法耐性は設定上「硬い」が選択されていた。
急いで柔らかいに触れてみる。
何が変わったのかわからなかったけれど、たぶん石板の最後にある決定ボタンを押すと反映されるという事だろう。
じゃあ次は駆動速度の設定だ。
レイドボスの機動力は、事前の情報が無かった。現状ではランダム化が選択されている。
相手はゴーレムだから極端に速い動きをする事はないと聞いていたから、
「ランダム化より固定化の方がドイヒーさんたち選抜パーティーもやりやすいんじゃないかな……」
しばしの逡巡だ。
勝手にいじる事によって、隔離された隠し部屋の中のみんなが混乱する事が考えられる。
ボス部屋突入後、時間はどれぐらいたったかな。
首から下げていた砂時計をつまみあげてみると、ガラス容器の下側に落ちた砂はわずか。
四半刻に至るまで、たぶんまだタップリとあるはずだ。
「今頃、やっと戦い方に馴れてきたぐらいかな。ここで今いじったら混乱する可能性があるけど、長時間ボス戦を戦う事を考えれば、混乱するなら早い方がいいはず……」
迷った挙句、僕は決心して駆動速度の固定化を選んだ。
まだじっくりボス戦をする必要があるなら、早い段階で混乱回復した方がいいに違いない。
「攻撃力の固定化は、たぶん迷う事なく固定化の方が選抜パーティーも助かるはずだ。よしッ」
攻撃判定については固定化を迷わず選択して、最後に決定ボタンを触る。
これで魔法の案内板はキランと輝くと、ひとつ前の案内内容へと戻ったのだ。
急いで次のオプション設定を選択すると、ふたたびマジカルサイネージが設定欄を現出させた。
「オプション設定はどうなってるのかな……詳細の通知設定とドロップアイテムの設定、アイテムボックスの設定?」
詳細通知の設定というのはよくわからない。
改めて項目を細かに見ると利用者の発言記録、それから戦闘記録、ステータス数値記録というのがあった。
やっぱりよくわからないや……
現状では全てオフの状態になっているけれど、チェックを入れても問題がなさそうなので全てをチェックにしておく。
それからドロップアイテムとアイテムボックスの設定項目を見ると、これも固定化とランダム化というのがあった。
「ドロップアイテムというのは何だろう? たぶんアイテムボックスは宝箱の事だ。固定化とランダム化ができるんだね」
元々何が宝箱の中に入っているかを僕らは知らない。
だったら最初から宝箱の中身を期待して戦闘しているわけでもないので、ランダムの方がいいんじゃないかと思った。
そもそも隠し部屋内部で戦っている選抜パーティーのみんなは、何が出ても喜ぶに違いない。
「いや、待って。ランダム化にして罠か何かが出現したらどうしたらいいんだろう?! 僕ひとりでこれを決めるとか、ちょっと責任が重いんだけど……」
そう思って誰かに助けを求める様に視界をさ迷わせた時の事だった。
通路を駆けてくる複数の気配を感じて、僕は身構えた。
たぶん訓練生の仲間の誰かだとは思うけれど、ここは一応隠し部屋があったエリアのダンジョン内部だ。
そうしてガヤガヤとした足音が大きくなったと思うと、ミノタウロス教官に率いられた訓練生の仲間たちが姿を現したんだ。
「シャブリナさん、ティクンちゃん! それにビッツくん!」
「ギミック解除の進捗はどうなんだ、進んでいるか?!」
「それが、どっちに選択していいのかわからない項目が出現して、迷ってたんだ……」
救援待機のために集まってくれたのは、班の仲間であるシャブリナさんとティクンちゃんだけでなく、ビッツくんや回復職を指導する女性教官やアタッカーの訓練生たちだった。
「アイテムの設定か、ふむ」
「こういう場合はアイテムボックスがトラップ状になっている事も確かにあるが、ギミック解除後に全員でサポートできる事を考えれば、あまり心配する必要はないだろう」
アゴに手を当ててしばし考え込むシャブリナさん。
そうすると甲冑の上からでもわかるたわわに実る豊かなお胸がばるんと揺れた。
ミノタウロス教官は、ティクンちゃんや回復職の教官がいる事を前提に、自由にやれと言う感じで僕を見返してくる。
「ランダムにすればお宝が手に入る可能性があるんだろう? 山分けするにしても取り分は多い方がいいぜ、なあセイジさん!」
「コクコク。そのう、もしかしたら伝説のお宝とかが手に入るかもしれないのっ」
ティクンちゃんの口にした伝説のお宝というフレーズに、駆けつけたみんなもにわかに活気だつ。
みんなの意見はランダムで一攫千金を狙った方がいいというものだった。
「最後はセイジ訓練生が決断すればいい」
「ぼ、僕が決めてもいいんでしょうか」
「これはあくまで訓練学校での実習の一環だからな、訓練生の自主性に任せる事に意義があるんだ」
何だか責任重大な気分になりながらも、僕はドロップアイテムとアイテムボックスの選択を固定化からランダム化に変更する事にした。
決定ボタン!
「よく決断した! おちんぎんが大きくなれば、ドキドキするし幸せになれるじゃないか」
「お、おちんぎんに貴賤なし!」
おちんぎんを強調したシャブリナさんが、鼻息荒く僕の肩に腕を回しながらおっぱいを暴れさせた。
やばいよ、緊張感もどこへやら。
「貴様の体は正直だな。ハァハァ」
ビクンビクン。
僕のおちんぎん以外が大きくなって、ドキドキが一杯だよ!
おちんぎんに貴賤なしッ