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72 よくある質問と回答です!

 隠し部屋の中央にいたのは、大きな岩の甲冑を着込んだ騎士の様なストーンゴーレムだった。

 その岩の甲冑がうごめく姿が、ドイヒーさんの撃ち込んだ鮮烈な魔法によって一瞬だけ浮かび上がる。

 胸部構造物に激しくぶち当たった瞬間に、けれどもその魔法は大きく弾かれて爆発四散した。


「まるで魔法攻撃が効いてない?!」

「臆する事はありませんわ。物理攻撃が効かない以上、どのみち大火力の魔法を当てるしかありませんもの!」


 弓職の青年が矢を番えながらそんな悲鳴めいたものをもらした。

 けれども覚悟の表情をしたドイヒーさんは、何事もなかった様に爆炎の中から姿を現したレイドボスのストーンゴーレムに向かって、新たな魔法攻撃の準備に入った。


「う、うおお。でかいのぉ……」


 嗚咽を漏らす様に回復職のおじいさんが感想を漏らした。

 確かにギリギリと軋む装甲の音を響かせながら前進してくるストーンゴーレムは、圧倒的な存在の様に感じる。

 

「胸部構造物はかなり硬い印象だから、優先的に防御力の低い場所を攻撃した方がいいと思う!」

「それなら脚を狙うのがいいですわ、機動力を奪う事を最優先に! 痺れ罠の護符と併用すれば、攻撃チャンスが増えるはずですもの!」

「言えてるね、あたいは火力こそあまりないけれど、命中判定だけはいつも成績が良かったんだっ」


 魔法使いジョブのみんなが柔軟に対策を口にしつつ、攻撃に移行した。


「筋肉は魔力を育てる。俺の魔法は硬くて太くてたくましい! 魔法の(かいな)となりて、裁きの鉄槌を下せ! フィジカル・マジカル・マッチョマン!」

「その微笑みは勝者の微笑み、勝つのはこのもちろんこのあたし! フィジカル・マジカル・スマイルキュート!」


 それぞれ不思議な呪文が飛び交いながら、強力な魔法攻撃が発射された。

 立て続けの爆発の中で、のそりと動き出したストーンゴーレムが一瞬だけ動きを止めた瞬間に、


「突入だ。援護の発光魔法を頼む! この野郎デカブツ、俺が相手だッ」

「わしも背後から杖で殴りつけてやるぞい。あんまり援護になりゃせんだろうが、せめてもの気休めだわい」


 素早く特殊な弓矢を放った弓職の青年は、叫びながら攻撃の途切れたタイミングを見計らって扉の内部に突入した。

 回復職のお爺さんもそれに続いて、途中から反対側にわかれて向かう。


「脚を攻撃すると、一時的に動きが止まる!」

「発光魔法、行きますわよ! うまく動き回らせると、痺れ罠の魔法陣のラインに引っかかるはずですわ」

「とにかく動かなくなったところを攻撃だな。俺の筋肉魔法で殴りつけてやるぜ!」

「毒攻撃というのはどうかな、あたしも毒魔法は使えるけれど?!」


 みんなが怒号を飛ばしながら、扉の向こう側に身を投じて行った。

 選抜パーティーのメンバーが全員向かったのを見届けると、ゴリラ教官がミノタウロス教官と互いにアイコンタクトを取った後に突入するんだ。

 やがて一定の時間が経過したところで、ゆっくりと重厚な響きを立てながら部屋の扉が閉じようとした。

 ギイイイイイィ。


 バタンと音がした瞬間。

 まるでその内部で激しい戦闘が起きているのが嘘の様に、通路の周辺は静寂によって支配された。


「さて、これで部屋にいるレイドボスを倒さない限り、通常この扉は開かなくなった」

「……ゴクリ、はいっ」

「それを強制的に開く方法は、セイジ訓練生が知恵を絞ってギミック解除する方法しかないのはわかるな?」

「で、できるだけ急いで調べます」


 大きく唾を飲み込みながら、僕は緊張を解きほぐそうと被りを振った。

 ドイヒーさんたちにもしもの事があった時は、僕の魔法文字を読める力が助けになるはず。


「焦る必要はない、ゆっくりと確実に調べながら、解除すればいい。ゴリも内部に同行したから、万が一問題があった場合は助けに入るだろう。まあこれも現場実習の一環だから、不測の事態に備えて開く手順を経験しておきなさい」

「わかりましたっ!」


 すぐにも部屋の側にある壁面に視線を向けた。

 石板に刻まれた魔法文字の内容は次の通りだった。


「ようこそストーンゴーレムの部屋へ! この部屋のボスはとても堅いです。その堅さを打ち砕く自信のある方はふるってご挑戦くださいませ。堅さはこのダンジョン随一を誇りますので、武器の予備は必要かも?」


 ダルマの塔では僕の数少ない迷宮暮らしの中でも、あまり見たことが無い構造の仕掛けが存在する。

 このプレートの警告表示もそのひとつだ。

 はじめの段階でこのプレートの警告表示はチェック済みだったからこそ、魔法使いを中心にした選抜パーティーでレイドボスのアタックが編成されたんだ。


 そしてこの扉が閉じられた瞬間に、もともと魔法文字の書かれていたプレートに、新たな文字が浮かび上がってくるのだ。


「こちらはマジカルサイネージによるご案内です。よくある質問と回答。あなたがお探しのQ&Aにお答えします。プレートに振れる事で、次の案内に進みます」


 短い文章がプレートに表示されているけれど、それ以外にはまだ文字は浮かび上がっていない。

 ミノ教官が石板を覗き込むために背中を折って顔を近づけた。

 何だかフンスという教官の荒い鼻息が、僕の髪の毛を撫でるのが微妙な気分だ……


「何と書かれているのだ」

「ええと、次の案内に進めて下さいと。マジカルサイネージって何ですか?」

「わからん。はじめて聞いたな……」

「マジカルだから、魔法で動く案内板という事だと思うんですけど」


 プレートの指示にあった通り僕がそれに触れると、表示が新しいものに変わった。

 今度は複数の文字列がズラっといくつも並んでいるじゃないか。


「サービス利用の流れ、内容確認、サービス内容の変更・キャンセル、システムエラー……」


 試しに「サービス利用の流れ」に触れてみると、また表示されていた文字がかわった。

 隠し部屋の扉が閉じられる直前に見た、レイドボスのストーンゴーレムかな?

 ディフォルメされた絵柄のそれが石板の半分に描かれていて、その反対に説明書きが書かれていた。


「隠し部屋の扉を開くと、自動的にストーンゴーレムが覚醒し戦いがはじまります。この戦いはストーンゴーレムのコアを破壊する事で終了し、アイテム報酬が手に入ります。ストーンゴーレムの装甲は極めて堅固なため、武器による攻撃を考慮する場合は、予備を用意しましょう」


 ストーンゴーレムにコアがあってそれが弱点になっているという事だろうか。

 コアの仕込まれた場所がどこにあるかまでは、読み返しても書かれていないんでミノ教官と顔を見合わせて次に進んだ。


「内容確認は、扉が開かれて一定時間が経過すると閉じられると書いてます」

「それは先ほど確認した通りだな」

「扉がふたたび開かれるためには、レイドボスのコアを破壊するかサービス内容の変更・キャンセルを実施するか、それともうひとつあるそうです……」

「何だ、何と書かれているんだ?」

「利用客が全員死亡した場合、ストーンゴーレムの駆動が停止し、ふたたび扉が開かれてご利用のお客さまにご退場いただきますと……」


 僕がおずおずとそう説明すると、ミノ教官が引きつった顔をした。

 そうはならないためにゴリラ教官も中に同行したんだし、僕たちがサポートする必要がある。


「そ、それでサービス内容の変更・キャンセルというのは?」

「どうやらこれがギミックの強制解除する方法みたいです。次に進んでみますねっ」


 そう言って石板に触れようと僕が手を伸ばした瞬間。

 突如として壁面に貼り付けられていた痺れ罠の魔法陣のいくつかが、バシバシっと激し音を立てて発動したみたいだった。


「?!」

「痺れ罠にレイドボスが引っかかったらしいな。残念ながら効力がそれほど長いものではないから、時間経過で解除されるはずだが」

「どれぐらい持つんですか?」

「ドイヒー訓練生たちが設置した数は十数枚ぐらいだ。高価なものだから《黄昏の筋肉》から支給された数もそれほど多くは無かった。一枚の効力が十数える程度だから、同時に発動したとしたら掛ける事の枚数だろうな」


 あまり長持ちはしないらしい。

 そして本格的に扉のギミック解除に進もうと石板に振れたところで、発動していた痺れ罠の魔法陣スクロールが壁から剥がれ落ちたんだ。


「かなり魔法耐性があるみたいだな。思ったよりも効果時間が短い」

「こ、これは僕たちも急いだ方がいいですね?!」

「魔法攻撃は案外不味いのかもしれん、急いで手すきの訓練生を集めて支援チームを編成する必要がある!」


 僕とミノタウロス教官は、鼓動の高鳴りを覚えながらお互いに頷き合った。

 無事で、無事でいてよドイヒーさん?!


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