69 リベンジします! ※
自慢の長剣の具合を改めながら、シャブリナさんが全員を睥睨する。
改めてオークが無限湧きする大部屋に突入する事になったので、僕らは最終確認をしたんだ。
「ドイヒー。貴様は最大火力で紅蓮の範囲魔法を使った場合、最大何体のオークを巻き込む事ができるんだ?」
「高い威力の紅蓮魔法には二種類がございますわ」
「ほう?」
「威力を犠牲にして、広範囲に巻き込み攻撃をする事ができるもの。それから凝縮した威力で、爆心地とその周辺で圧倒的な破壊をもたらすもの」
大部屋の中で何を考えているのかよくわからない豚面たちを、黒くて大きくて禍々しい長い杖で指し示しながら、ドイヒーさんが魔法の威力について説明する。
「巻き込み型の紅蓮魔法ならば、まんべんなく部屋の全体に散っている豚面さんたちをローストポークにする事ができますわ。ただし即死級の威力はありませんの。先ほどは後者の魔法を使ったので、何体かは即死させたものの、残りは皮膚を炙った程度の被害しかなかったはず……」
なるほど、広範囲に紅蓮魔法を使えば威力は押さえ気味になるのか。
その代わりに魔力を圧縮して使った大威力魔法なら、爆心地を中心に離れる従って威力が弱まっていく。
僕は頭を整理してシャブリナさんに向き直る。
「シャブリナさん、囮役として最初に大部屋に突入して、オーク七体を一カ所に集めるのはやっぱり難しい?」
「だいたいこの場所にというのは、先ほどと同じやり方をすれば可能だ。しかし綺麗に豚面どもを整列させるのは難しい。こればかりは突入してみないとわからんので、運の要素もあるなアッハッハ……すまんセイジ」
「いいよ。だったら、タンカーとアタッカーが全員で攻撃に参加するのだから、後者の高意力魔法よりは前者の巻き込み攻撃の方がいいんじゃないかな?」
「承知しましたわ。では次はわたくしが先制攻撃をしかけて、攻撃職のみなさんがそれに続いて突入するという事でよろしいんですのね?」
攻撃職のみんながドイヒーさんの言葉に頷いた。
その前に風魔法を使って、通路の反対側に向かい黒煙を排出する事も忘れない。
「すぐにも敵がこちらに気が付いてドイヒーに攻撃してくるだろうから、そこは責任をもってタンカー職が受け止める。その際は攻撃職全員が突入体制を取るまでは倒そうとはせず、受け流す。これでいいな?」
チラリと教官たちに視線を送りながらシャブリナさんが全員と確認をしあう。
これにもみんなが頷きあって、武器の具合を確かめていた。
「よし。回復職のみんなは怪我をした訓練生を見つけ次第、癒しの魔法を適時使用してくれよ。俺たちは全力で攻撃に参加するからよ」
「もちろんだぜ、先着巡で癒してやる」
「抽選漏れがあるのかよ?!」
「漏れるのはティクンだけにして欲しいものだなっ」
「「「あっはっは!」」」
みんながやる気を取り出して、馬鹿みたいに大声で笑い合っている。
ネタにされたモジモジ少女は顔を真っ赤にして俯いていたけれど、僕の服の袖ををギュっと握りながら決意の表情をチラリと見せた。
「わ、笑いたいひとは、笑わせておけばいいよ」
「聖なる癒しのついでに、お漏らしをする呪いもかけてあげるのッ」
「それは大変なことになるからやめようね?」
いよいよ大部屋掃討の再開だ。
意識を集中させて部屋の全体に範囲魔法を行き渡らせるべく、ドイヒーさんが眼をつむって瞑想を開始した。
どことなしか、いつもよりキリっとした状態で眼を見開いた彼女は、仕上げにムニムニをひと撫でしてから杖を構える。
「いにしえの魔法使いは言いました、パンが無いならパンを作ればいいじゃない。フィジカル・マジカル・おいしくコンガリ焼けました〜♪」
するとどうだろう。
大気中の魔力がドイヒーさんに吸い寄せられる様に、周囲にそよ風が吹いた気がした。
次の瞬間にはボフリと紅蓮の大火球が出現して、大部屋の魔法陣が刻まれている直上に飛んで行った。
紅蓮の大火球はその場で爆裂四散して、猛烈に広範囲を焼き尽くそうとメラメラ燃えさかるじゃないか。
「今だ! 俺は風の精霊が大好きだ、きみとならいつまでも抱きしめていたい。そうしたいっ」
「あたいの風は恐怖を運ぶ風、何もかもを吹き飛ばす巨人の息吹!」
不思議な呪文を口々に紡ぎ出すのは、魔法使いのアタッカーたちだ。
すかさず大部屋を支配した燃えさかる炎と黒煙を吹き飛ばすべく、力一杯に風の魔法を射出した。
「お前ぇら、突入の準備はいいか?!」
「応、俺はいつだっていけるぜ」
「よし眼にものみせてやるぜ、豚面どもめッ」
黒煙がみるみる吹き飛ばされて大部屋の状態が把握できる様になると、突入するみんなが一気呵成に雄叫びをあげた。
開けた視界の中から、ぬうっと姿を現すのは手傷を負ったオークたちの集団だ。
「ゴチュウモンヲ、クリカエシ、マス!!」
「トンコツダイ、メンバリカタ! セアブラ、マシマシデスネ?!」
意味不明な叫びをあげながら、ドイヒーさんを狙って大きな動物の骨を降り振りかぶる豚面。
もちろんその先陣を切って飛び出していったのはシャブリナさんだ。
「させるか!」
ガキン!
盾を使って攻撃をいなした彼女は、そのままクルリと体を入れ替えながら奥にと進む。
攻撃を外された哀れな豚面モンスターは、後に続いた仲間たちが受け持って袋叩きにした。
「突入、突入、突入!」
「奥へ行け、人数で圧倒するんだ!」
「奴らは傷ついている。繰り返す、奴らは傷ついている!」
次々と大部屋に流れ込むみんなを見守っていると、威風堂々と敵を浅く斬り撫でながらシャブリナさんが大喝した。
「被害が少ないヤツは、優先してわたしが倒すぞ。任せろッ」
そう大喝しながら抵抗するオークに切りかかっていくシャブリナさんは、とても格好よかった。
きっと叫び声には、モンスターたちのヘイトを集める魔力がこもっているんだろう。
「そうだ、わたしはここだぞ! 当てて見せろっ!」
彼女の言葉に反応したオークたちは、見事に僕から見ても隙だらけに感じる大降りの攻撃をして、そして豚面はほぼ同時に殲滅されたんだ。
中央にある大きな魔法陣はしばらくぼんやりと輝いていたけれど、それも次第に薄れていって消える。
「……制圧完了だ! 誰か怪我人はいないか?!」
「畜生め、腕をやられたがかすり傷程度だっ」
「あたいは眼に埃が入ったよ、誰かイケメンを呼んで癒しておくれ」
あちこちから、喜びと悲鳴がない交ぜになった声が聞こえてくる。
怪我をしたと訴えているひとも、どうやらたいした事はないらしく、無事にオーク無限湧きの大部屋は掃討されたんだ。
「おちんぎんソードによって、悪は滅びた。アッハッハ」
そんな高笑いをしたシャブリナさんは、大きく剣を血振りしながらゆっくりと鞘にそれを納める。
何だかとてもその姿が格好良くて、まだ見習いだけどまるで本物の女騎士を見た様な気がした。
そうしてニッコリ笑った彼女は、
「セイジ、わたしにご褒美のおちんぎんをくれ! おちんぎん以外の似た何かでも大歓迎だ! そうだ宿屋に行こうっ」
いきなり何言い出すのシャブリナさん?!
台無しだよっ!




