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68 阿鼻叫喚です!

いったん投降後、後半パートを加筆修正しました。

 大部屋を占拠していた豚面モンスターの数は全部で七体。

 対する僕ら訓練生は全員で二九人だから、数の上ではこちらが圧倒している事になる。

 ただし、僕みたいな支援職が九人で、今は荷物運びに専従していた。


「もらったあぁぁ!」


 シャブリナさんは大部屋に突入すると、その勢いのままに最初に眼についたオークを斬り伏せる。

 背中を向けて完全に油断していたオークの側面を走り抜けると、次の瞬間に腋の付け根あたりを斬り上げて鮮血がプシャァと飛び散るのが見えた。


 眼にも止まらぬ速さだった。

 そのままシャブリナさんの存在に気が付いたオークを引き付ける様に、彼女は大部屋の隅を背にして盾を構える。


「さあ来い豚面ども、武器なんて捨ててかかって来いっ!」


 シャブリナさんがそう叫んで挑発すると、豚面たちは狂った様に動物の骨や錆びた剣をを振り上げてそれを追いかける。

 大部屋の隅を背にしているのは、オークの攻撃を一方向に限定させるためだろうな。

 迫りくる豚面たちの攻撃を盾で受け流しながらシャブリナさんが反撃を試みていると、


「おーっほっほっほ! 真打登場っわたくしアーナフランソワーズドイヒーさまの出番ですわねっ」


 待ってましたとばかり部屋の中に踊り込んだドイヒーさんが、黒くて大きくて禍々しい長い杖を構えて見栄を切る。


「いいから早く攻撃してやれよ、あんたの班員が追い詰められているぞ!」

「し、集中しておりますので、少しお黙りなさいなっ。いにしえの魔法使いは言いました、ローストポークは冷めると硬いので嫌い。フィジカル・マジカル・ばっくにゅうぅぅぅぅ!」


 するとどうだろう。

 禍々しい長い杖の先端が発光したかと思うと、大きな紅蓮の塊が出現した。

 その紅蓮の塊が、黒くて大きくて禍々しい長い杖で指示した方角に飛んで行き、飛びきりの範囲魔法を炸裂させたんだ。


「やったか?!」

「手応えはありましたわ。みなさん突入の準備をっ」

「そのう、聖なる癒しの魔法を使いますっ。女神様の祝福をこの手にッ!」

「おい攻撃用意だ!」



 みるみる黒煙が大部屋の中を支配して、僕らの緊張が強まる。

 支援職のみんなはこの黒煙が晴れたタイミングを見計らって、一斉に荷物を運び出す予定だ。

 そしてアタッカーのみなさんも、シャブリナさんを除くタンカーたちと一緒に、大部屋の掃討任務を開始する事になる。


 そして煙がゆっくりと四散して行く中で浮かび上がったのは、大盾を構えて魔法攻撃を耐え忍んでいたシャブリナさんだった。


 黒焦げのオークが三体。

 たぶん爆心地の周辺にいたのが丸焼きになったんだと思う。

 それからまだ怪我をしても動いているのが三体。

 一匹は初撃でシャブリナさんが屠った計算だから、あっという間に半数以下までオークが激減した事になる!


「無事ですわね?!」

「少しは遠慮というものを知らないのか、ドイヒーは!!」

「おかげで敵の数も半減したではありませんのっ。感謝していただきたいぐらいですわよっ」

「まあこのぐらいの事は予想済みだ、ふんっ死ねっ!」


 売り言葉に買い言葉。


 いつもの罵り合いの様な事をシャブリナさんとドイヒーさんがやっている間に、僕たちは急いで背負子を背負って大部屋の向こう側まで移動開始だ。

 背後から背負子をビッツくんが支えてくれて、


「あのふたり、いつも戦闘中あんな感じなのかよセイジさんっ」

「そうだね。だいたいどっちが先に攻撃するかとか、そういう事で揉めてるよ」

「でも信頼関係があるから、あんな大爆発魔法を使えるんだぜっ」

「そうなのかな? そうなのかも」


 はじめてモンスターパレスに入ったあの時は、ドイヒーさんが考えなしに強力な魔法を使ったもんだから酷い事になった。

 けれど今回はシャブリナさんも自分の立ち位置を上手く考えて、ドイヒーさんが範囲魔法を使いやすい様に敵を誘導したと思う。


 ドイヒーさんもドイヒーさんで自慢の紅蓮魔法を調節、してないよね……

 それでも全力で範囲魔法を使って問題ないと彼女が判断したから、容赦無用の紅蓮の大爆発を使ったはずだ。


 これなら残りのオークも倒して、大部屋を制圧するのは時間の問題だね。

 そんな風に思いながら反対側の通路まで僕らが移動したんだけれど。

 振り返ると、大部屋の中心にあった大きな魔法陣みたいな書き込みが、ボンヤリ発光しているのが見えたんだ。


「?!」

「やばいぞ、無限湧きのオークが姿を現した!」


 誰かが叫んだちょうどその時。

 魔法陣のすぐ脇を荷物を持って移動していた太鼓腹のデブリシャスさんの姿が飛び込んでくる。

 教官たちは全てのオークを殲滅しない限り、この大部屋の敵は無限に湧き続けると説明していたはずだ。

 きっと最初の攻撃で包囲殲滅しないと、こんな感じで次々にオークが魔法陣から出現するんだ!


「うおお、何だ豚野郎あっちへ行け!」

「デブリシャスさん?! 僕の事はいいから、デブリシャスさんをっ」

「おっさんっ下がるんだ! 糞、セイジさんすまねぇ」


 ビッツくんは背負子から手を放すとナイフを引き抜いて駆け出した。

 彼女も支援職のグループで訓練を受けていたけど、スカウト職としてサブアタッカーの役割もこなせる。

 駆け出したビッツくんはそのまま加速しつつ、腰だめにナイフを構えておじさんに襲いかかろうとしていたオークの背中にぶつかった。


「喰らえお前ぇの相手はこっちだ!!」

「ウボァ! トンコツカエダマ、イカガデスカ?」

「ビッツ下がれ、そんな小さなモノでは致命傷は与えられないぞっ」

「死ね、死ねっ」


 怒号が入り乱れながら、阿鼻叫喚の様になった。

 全力移動中だった支援職の半分は引き返し、残りの半分は僕も手伝いながら反対側に必死で連れて行く。

 見ればタンカーの複数人が、盾を構えながら新たに出現した豚面に躍りかかる姿も見える。

 誰かが酷く攻撃を受けて、回復職の誰かが聖なる癒しの魔法を唱えるのもわかった。

 

「これだけ乱戦になっては、強力な範囲魔法が使えませんわねっ。いにしえの魔法使いは言いました、フィジカル・マジカル・あっはぁン!」

 

 敵味方入り乱れた状態だからドイヒーさんが使う魔法も、大きくて禍々しい長い杖の先端から発射されるビームに限られる。

 ビッツくんもオークの背中に取りついて何度かナイフを突き立てたけれど、力一杯振り払われてしまったらしい。

 

「いったん部屋の外に引き返せ。全員退避、退避!」

「下がれ、誰かおっさんとビッツを救援してやれ!!」


 あわてて僕は混戦の中を縫う様に走って、ビッツくんの腕を掴んだ。

 彼女は腰を抜かして地面にへたり込んでいたけれど、訓練生のお兄さんと一緒にそれを引っ張って大部屋の外まで連れ出す。


「怪我は無いか」

「だ、大丈夫だが、腰をしたたかに打ち付けてしまったぜ……」

「誰か回復魔法を使ってくれ。おいティクン!」

「ビクンっ。あっはい!」

「お漏らししている場合じゃないぞ、ビッツとデブリシャスの怪我を何とかしてやってくれ!」


 結局、僕ら訓練生だけによる最初の大部屋突入は大失敗に終わった。

 その間も教官たち戦いの有様を監視しているだけで、何も口をはさむことは無かったんだ。


 シャブリナさんやドイヒーさんも大部屋の外まで引き上げてくると、煤けた装備を手で拭ったり剣の具合を確かめたりしながら顔を付き合わせる。


「このまま普通に突入しても、豚面どもがあの魔法陣から湧き続ける限り同じ事の繰り返しになるぞ」

「けれど、一定数のオークしか湧き出てくる気配がありませんわ。最初に大部屋を目撃した時も七体、それから今改めて観察しても七体」

「つまりこの大部屋に湧き出るオークの上限は七体という事になるな……」


 忌々し気に大部屋の中へ視線を向ける訓練生のみんなは、何か対策は無いかと思案しながら大きなため息を溢すのだった。

 これまでのところ、背負子の荷物をひとつ反対側の通路まで運んだだけで終わってしまっている。

 僕も仲間の一員として何かアイデアを出さなくちゃっ。


「もしかして、最初に荷物を運ぶ事を考えるより、全員でモンスターを袋叩きにしてしまった方が効率がいいかも知れないんじゃないかな……」

「コクコク。わたしもそう思いますっ」


 ふと独り言を僕が呟くと。

 その側でデブリシャスさんのお腹に手当の癒しを送り出していたティクンちゃんも同意してくれた。


「ん、どうしたセイジ。何かアイデアがあるのか?」

「うん。最初にシャブリナさんがオークを集める作戦はいい感じだと思うんだけど、どうしてもドイヒーさんが紅蓮の魔法を使うと、部屋中が爆炎の煙に巻き込まれて対処が遅れてしまうと思うんだ」

「そうは申しますけれども。威力の高い魔法を使えば、それだけ爆炎も大きなものになってしまうのですわ……」


 だから誰かほかの魔法使いのひとと連携して、その爆炎の煙を吹き飛ばす事ができれば。

 例えば風の魔法を使ったりして、そうすれば視界がすぐに明瞭になるからアタッカーやタンカーのみんなで全力攻撃ができるはず。


「おい聞いたか? 風の魔法を得意にしているヤツはいないか」

「わたくしは光と闇の魔法だけでなくあらゆる魔法をを得意にしておりますが、立て続けに属性の違う強力な魔法をとなると、少し手間取ってしまいますのよ……」


 するとアタッカー職のみんなの中からひとり、またひとりと手を上げる訓練生があらわれる。


「風の魔法は使える。だがパン屋の娘ほど強力なのは無理だ」

「だったら複数人で使えば何とかなるんじゃないのかい? あたいも風の魔法は使える。大部屋の反対側に排煙を吹き飛ばせばいいんだね?」

「ふむ。これで何とかできるのではないか?」


 そんな風にシャブリナさんが腕組みしながら大きく頷いて見せた。

 すると甲冑ごと豊かなお胸が押し上げられる様になって、男性の訓練生たちの視線がそこに集中した。


「何だ。わたしひとりに任せず、貴様たちも攻撃に参加してくれるんだろうな?」

「も、もちろんだぜ。前からシャブリナと肩を並べてヤってみたいと思っていたんだ」

「俺も俺も、ノッポの女なんかに俺は負けない!」


 次々に戦士のみんなが声を上げるじゃないか。

 教官がそんな姿を見てニッコリと微笑しているのが視界の端に写り込んだ。

 間違ってないはず、これでいいはずっ。


「ぼ、僕も攻撃に参加を!」

「コクコク。お漏らししている場合じゃないのっ」


 ところが勢い勇んで僕とティクンちゃんも志願したものの、それはあっさりとシャブリナさんに否定されてしまう。


「貴様たちはそこで待機しているんだ」

「そうですわ。お二人はここで戦いが終わるまで待機していなさいな」

「何でさ?!」


 背の高いシャブリナさんが僕を見下ろして、諭す様な口調でこう続ける。


「わたしの役割はセイジの剣となり、セイジの盾となる事だ。貴様は安全無事な場所にいてこそ、わたしは気兼ねなく戦う事ができる」

「それじゃ僕は役立たずじゃないかっ。他のみんなで全力で叩き潰そうって作戦なのに」

「違うぞセイジ、貴様は賢者らしく、わたしたちの頭脳として知恵を絞る役割があるじゃないか。ティクンはお漏らしついでにヒールを遣えばそれでいい」


 そうかもしれないけど。

 せっかく鈍器だって買ったんだから攻撃参加したいじゃないかっ。

 ティクンちゃんはモジモジしながら俯いた。悔しくてお漏らししそうなのかも知れない。


「あなたたちふたりが攻撃に参加しなくとも、てぃんくるぽんがそのぶん活躍してくれますわよ。おーっほっほっほ……あいたっ」


 肩にしがみついているムニムニをひと撫でしたところで、ドイヒーさんは指をかまれたらしい。

 それにしてもてぃんくるぽん。

 今のところ戦闘で何の役にも立っていないと思うんだけれど……


 てぃんくるぽんよりは、僕は役に立つと思うよ?!


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