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67 オークの部屋に女騎士見習いが攻め込んでくるなんて!

 ダルマの塔はとても不思議な場所だった。

 僕たちがこれまでに見てきたダンジョンはそれほど多いわけじゃないけれど、そのどれとも明確に違う雰囲気があった。


 まずひとつは、ダルマの塔の内部では明かりが常に灯されている事だろう。

 これから僕ら冒険者訓練生の担当する第十六から第二一階層にかけて、そこに向かう通路や部屋には必ず松明や燭台が存在したからだ。


「これは《黄昏の筋肉》のひとたちが設置したもの、というわけじゃないんですよね?」

「その様に聞いているな。何でもこのダルマの塔だけが特別で、ダンジョン踏破後にこの様な松明が出現したのだそうだぞ」


 揺れる松明に視線を向けながら、シャブリナさんが僕の質問に答えてくれた。

 つまりこれは何かしらの魔法のギミックによって発動している光源という事になるんだね。

 後方を歩いているドイヒーさんも、興味深げにあちこち見まわしては感心している。


「学校の授業じゃダンジョン最深部の核を破壊すれば活動は停止すると習いましたのに、けれどこのダルマの塔では攻略後完了後も魔力が施設内に供給され続けておりますのね……」

「コクコク。迷宮は生き物だって教わりましたけど、このダンジョンは不死身かもですっ」


 実際、ギルド《黄昏の筋肉》はダルマの塔を初踏破後もこのダンジョンの運営管理を委託されて、調査解明のために各部屋に冒険者たちを派遣し続けている。

 その辺りの理由について、シャブリナさんが背後を振り返って解説してくれる。


「研究者や一部の冒険者たちの噂話では、ダルマの塔は二重構造になっていて裏ダンジョンが存在しているって事らしいけれどな」

「この塔のさらに最新階層が存在しているって事か。それなら魔力の供給がダンジョン内で断たれていない理由は、わからなくもない気がするよ」

「モンスターが存在している限り、冒険者はこれを討伐駆除するために集まってくるだろう。その理由は裏ダンジョンに繋がるという、秘密の鍵を見つけてもらいたいためだという解釈が存在しているのだそうだ」


 もしその説が本当なら、その裏ダンジョンの攻略が完了するまでは、ダルマの塔の活動は続くというわけだね。


「恐らく《黄昏の筋肉》のギルマスは、その説を信じているからこそ、こうしてマンパワーを動員して今も定期駆除をわたくしたちに託しているのですわ」

「そのう、わたしたちが攻略担当する階層は中階層なんですよねっ。最深部の上層を《黄昏の筋肉》が担当しているの?」

「教官の説明ではそうなっておりましたわね。恐らく中低層の階層に罠は無いと考えているのですわ」


 不思議な事と言えば、低階層の通路は安全が確保されている。

 他のダンジョンじゃ何かの罠が仕掛けられていたり、天井からスライムが染み出してくる事もあるんだ。

 だから学内施設のモンスターパレスでも、それに馴れるために無害な養殖スライムが放たれている。


 けれど今のところ、通路に関してはモンスターの存在がまるでないんだ。

 部屋の中に入らなければモンスターたちは反応しようとしない。

 何だかダルマの塔はとても新設設計だね! などと思っていると……


「訓練生傾注!」


 前方で引率をしていたミノタウロス教官が、大声で後方の僕らの方まで聞こえる大声で叫んだ。


「この先にある次の階層に進むためには、この大部屋を突破する必要がある。大部屋の内部には大量のモンスターが湧き出すギミックが存在する。これを解除する方法は殲滅以外に存在しない!」


 どうやら上手い話しは存在していない様だね。

 目的地にたどり着くためにはやっぱりモンスターとの戦いは避けられないみたい。


「タンカー職は集合してモンスターのヘイトを集める様に! アタッカーは攻撃援護を担当、そのスキに支援職のメンバーは荷物を向こう側の通路に運び込め。回復職はそれぞれ割り当てられたタンカー職にヒールを実施するんだっ」

「「「わかりました教官どの!!」


 すぐにも全員で分担して持ち込んでいた野営道具や冒険者道具を一か所に集め始める。

 僕たち荷物持ち(ポーター)を含む支援職のみんなが、これを何往復かして運んでいる間に、他のメンバーで大部屋を掃討するわけだ。

 大部屋の中をチラリと覗き見してみると、無数の豚面をしたモンスターたちがいた。

 ここはオークの部屋だった。


「付与魔法をお願いできるか!」

「防御力付与とダメージカットに集中させろ。被害は最小限に押しとどめるんだ」


 この間、引率する教官たちは無言だ。

 訓練生の自主性に委ねるというか、僕らが間違った行動を取らない限りはこれも訓練の一環として見守っているんだ。


「アタッカーは火力を集中させて一方向から攻撃な。範囲魔法が使える者はいるか?!」

「このわたくし、アーナフランソワーズドイヒーさまにお任せくださいまし。おーっほっほっほ!」

「シャブリナをメインタンカーに据えるのはどうだ。その他のタンカーはヘイトの外れたものを引き受けるんだ」

「わたしは構わんぞ。最初はできるだけモンスターを一か所に集める様に誘導する。あぶれたものを他のタンカーで対処してくれ!」


 僕たち支援職は、まず運びにくい荷物を複数人で一気に移動させる事で打ち合わせをした。


「やばいものを後回しにすると、大部屋掃討に手間取った時に面倒になるから、先に運んじゃいましょう」

「無理に運ばずに大人数で一気に移動させるぞ!」

「背負子を運ぶ時は、補助にひとり後ろに付いてもらった方がいいかもしれないね。それから誰か護衛を付けてもらった方がいいんじゃないかな?」

「聞いたか、誰かタンカーかアタッカーで手の空いている人間をひとり付けてもらえるか?!」


 僕が思いついた事を口にすると、周りに集まった支援職の訓練生たちがそれに同意してくれた。

 すぐに僕の代わりに大声を張り上げて指示を飛ばしてくれたりする。

 何となく、僕ら訓練生で疑似的な冒険者ギルドを運用している様な不思議な気分になったのだ。

 

 緊張感の中にちょっとした満足感が広がった。

 けれどこれが正しい事なのかわからないから、ついつい教官たちの顔色を窺ってしまう。

 すると、


「……はははっ」


 満面の笑みを浮かべていたゴリラ教官が、僕の視線に気が付いて片目をつむって合図を送ってくれた。

 厳めしいゴリラ顔の教官だから、そのウィンクは背筋が寒くなる様な恐ろしいものだった。

 ま、間違った提案はしてないって事だよね?


「よし、わたしの合図で行動を開始するぞ。モンスターが集まったらドイヒーの範囲魔法だ。その魔法攻撃が完了後に全員突入してくれっ!」


 さすが僕らの班でパーティーリーダーをしているだけあって、シャブリナさんはテキパキと指示を飛ばしていた。

 大きくて禍々しくて黒くて長い杖を構えたドイヒーさんも、それを見て首肯しているのがわかった。

 心なしかドイヒーさんの背中にへばりついているムニムニも、ドイヒーさんの魔力に当てられていつもより多めに光っていないかな?


「いくぞ豚面どもめっ。わがおちんぎんソードの錆びにしてくれるわっ!」


 高らかに吠えたシャブリナさんが、剣と盾を構えながら大部屋の中に飛び出していった。

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