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66 ダルマの塔です!

 眼が覚めると、何だか上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。

 いつも班の中で一番に起床するのはシャブリナさんだけれど、聞こえたのは別のもの。


「フィジカル・マジカル・すくすく大きくな~あれ!」


 もそもそと毛布をめくって体を起こすと、部屋の窓辺で頬杖をついたドイヒーさんの姿が見えた。

 朝陽に照らされたナメクジが、きらきらと七色に輝いている様に見える。


「おはようドイヒーさん。今日は早起きだね?」

「うふふ。てぃんくるぽんに朝ごはんを食べさせなくてはなりませんものね。今しがたビッツさんの横流し品を与えていたところですわ」


 どうやらドイヒーさんは早起きをして、てぃんくるぽんに餌付けをしていたとこだった様だ。

 使い魔は人間の食べるものなら何でも口にするそうだけれど、それ以外にもポーションやモンスターを食べるそうだね。


 モンスターを餌にすると早く成長するみたいだ。

 けれど、さすがに訓練学校には教材のスライムぐらいしかいない。

 仕方が無いので、ビッツくんが横流しで荒稼ぎをしている不味い携帯食料を与える事にしたらしいんだけど……


「あいたっ。……んもう、てぃんくるぽんは恥ずかしがり屋さんですのね。オホホ」


 相変わらず使い魔ナメクジは、ドイヒーさんに懐いた様子が無い……。


 その日、僕らはダルマの塔と呼ばれる巨大なダンジョンにやって来た。

 三種類あると言われるダンジョンの中でも、もっとも攻略が難しいと考えられている増殖型の迷宮だ。

 このダルマの塔はイギルド《黄昏の筋肉》が初踏破した事で有名になった場所らしいね。


 確かインギンオブレイさんが以前このダルマの塔のお話をしていた事があったと思う。

 今はダンジョンの核を破壊されて成長する事はなくなってしまったけれど、現在もボスとモンスターが湧き続けていて、その全ての部屋が解明されたわけじゃないんだとか。


「見上げるような巨大な塔が、森の中に忽然(こつぜん)と存在しているとはな。忘れられた迷宮とはよく言ったものだ」


 ゴトゴトと荷馬車に揺られながらダルマの塔を観察していたシャブリナさんだ。

 ずいぶんと遠くからでも見つける事ができたので、訓練生たちは口々に言葉を発しながら驚いていた。

 ところが、どれだけ荷馬車を走らせても一向に近づいた感覚が無いんだ。


「ゴクリ……すごく大きいぞセイジ、とても立派だ」

「本当ですわ。こんなに大きいなんて、大丈夫か心配になりますわねっ」

「だいぶ馬車が走ったと思うけど、まだ近くまで到着しないんだね」

「そのう、最初はキツいかもしれないけれど、入ってしまえば何とかなるのっ」


 すでに踏破されたダンジョンだからね、中に入れば何とかなるのかも知れないけれど。それにしても……


「まさに古代文明の遺産、恐るべしですわ。こんなものを六〇〇年も前に造ったいにしえの魔法使いはやはり偉大ですのね」

「……何か形状がとても卑猥に感じるのは、気のせいだろうか。なあセイジ、古代人は何を考えてデザインしたんだろうな。ん?」

「コクコク。セイジくんのモノに似ている気がするのっ」


 えっ、そこ?!

 こうして長い時間をかけてダルマの塔の入口までやって来た僕らは、口を大きくあんぐりと開けて見上げたんだ。

 そそり立つ硬くてゴツゴツしたそれは、天空を貫かん勢いでそこに存在していた。

 いったい何階層まであるんだろうと、誰もが息をのむ立派さだ。


「いいか訓練生諸君! ここは過去この地域で発見された迷宮の中でももっとも難易度が高く、何世代にもわたって無数のギルドが踏破を目指してきた伝説のダンジョンだ」


 集合した僕たち訓練生を相手に、ミノタウルス教官が弁舌を振るった。

 確かにこれだけ巨大なダンジョンで、しかも増殖型の迷宮だ。

 攻略中も少しずつ変化し続けると言うからね。

 もっと古い時代に攻略を開始した冒険者たちの見た風景は、もっと小さな姿のダルマの塔だったのかも知れないや。


「このダンジョンを最終的に初踏破したのは、著名なギルドのひとつである《黄昏の筋肉》だ!」


 訓練生なら誰もが耳にしたことがあるその《黄昏の筋肉》というギルド名に、僕らの中でおおっという感嘆の言葉が漏れ聞こえた。

 就職するなら《黄昏の筋肉》を俺は狙うぜ、とか誰かが口にした様だ。

 大人気ギルドだもんねっ。


「もちろんこの《黄昏の筋肉》がダルマの塔で踏破成功を成し遂げたのは、もうひとつの有名ギルド《ビーストエンド》がボス部屋のあと一歩までアタックルートを解明したからでもある!」


 まさかここでインギンさんたちのギルド名が出てくるとは思わなかった。

 あと一歩、ほんの少しのところで時間切れになったインギンさんたちは、そのままダンジョンの占有権が切れてしまって《黄昏の筋肉》に後事を託したんだっけ。


「俺は《ビーストエンド》に就職したいぜ、何しろあそこの勇者パーティーは今一番の人気冒険者たちだろ?」

「だよなあ、セイジさんが羨ましいで。あそこで一緒にダンジョン踏破したんだもんな。名誉だな名誉」

「坊主は賢者だからなあ。もう内定は決まってるのか?」


 何だか不思議な気分になりながら訓練生仲間の声かけに僕は苦笑を返していると、ミノタウロス教官が吠えた。


「全員傾注! すでにダルマの塔は攻略が完了した場所だが、現在もボスとモンスターは存在し続けている。定期的な駆除を実施しなければ、やがてモンスターがブンボンの領内にあふれ出てくるのだ」


 言葉を引き継いだのはゴリラ教官だ。

 全員を見回す様に、大きな声で説明する。


「そこで貴様たちはダンジョン内に拠点を構築し、ここから定められた階層のモンスター退治を実施してもらう事になる。いいか、まだ発見されていない部屋やエリアも多数存在しているから、安全だと思って油断するんじゃないぞ!」

「……ちなみに、発見されていない部屋には、お宝が眠っている可能性がある」


 ミノタウロス教官の補足説明に、おおおっと言う訓練生たちの言葉が漏れた。

 一番喜んでいるのは、スカウト職のビッツくんだった。

 前回の廃坑ダンジョンではおちんぎんが少なかったので、やる気マンマンらしい。

 罠解除や斥候がスカウトの任務なので、一番お宝の入った箱を発見する可能性があるしね。


「宝箱を発見した場合、見つけたひととそのパーティーに所有権が存在するものなんだね?」

「ギルドに入っている場合はまた別だろうが、訓練学校の場合は自由なのか。面白いものや価値のあるものを見つければ、競売で高値の取引がされる事もあるそうだな」

「わたくしの持っている杖もダンジョン産の一品ですわ。班のみんなで発見した場合は、売らずに仲間の誰かが装備するのも面白いですわね」

「魔法のおむつが手に入ったら、わたしが欲しいですっ」


 俄然、僕たちもやる気を出してくる。

 モンスター駆除と階層探索をする事で、ダンジョン管理を委託されている《黄昏の筋肉》からおちんぎんが支払われる。

 けれど宝箱から手に入れたアイテムは自分たちのもの。

 ボーナスおちんぎんだからねっ!


「各員荷物を背負ってダンジョン内に入るぞ! お前たちが担当するのは、第十六階層から第二一階層にかけてだ。しばらく太陽は拝めないから覚悟しておけっ」

「「「冒険者は最高だぜ!」」」


 そんな現金な冒険者訓練生たちの元気一杯の返事に、ふたりの教官はニヤリとした顔で頷いた。


 でも、たぶん一番元気よく返事したのはドイヒーさんだと思う。

 魔法のローブの肩に載せているナメクジを指でつつきながら、ニコニコしているんだ。


「さあてぃんくるぽん、あなたの活躍する出番が来ましたのよっ」


 スライムドラゴンにはどうしても見えないムニムニは、とても嫌そうに顔をのけぞらせていた。


「あいたっ……ンもうっ。ホホホ」

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