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65 呼び出された殺戮者です!

 魔法道具店で激レア使い魔スクロールくじを引いたドイヒーさんは、上機嫌でそのスクロールの説明をしてくれた。


「使い魔というのは、魔法使いが契約によって使役する動物やモンスターの事ですわ」


 魔法使いにとって、使い魔はとは絶対的な信頼関係を寄せるべき相棒のような存在らしいね。

 説明を聞きながら僕とシャブリナさんの関係をイメージしたけれど、それだと僕はシャブリナさんの使い魔という事になっち ゃうよ?!


「ずっと憧れておりましたの、名の知れた偉大な魔法使いともなれば、たくさんの使い魔を状況に応じて使い分けたりするんですもの。これでわたくしも一人前の魔法使いの仲間入り。おほほ、おーっほっほっほ!」

「さっきからドイヒーさんは、こればっかりなんですっ」

「失礼ですわね! 何も自分だけの事で激レア使い魔スクロールくじに課金したんではありませんのよ?!」

「ひっ」

「これで魔法切れした際の攻撃力不足と囮役をできる子が手に入るのですわ。いい事づくめじゃありませんかっ」


 ぷんぷん怒り出したドイヒーさんは、余計な事を言ったとばかりジロリとティクンちゃんを睨みつける。

 するとビクンビクンと背中を痙攣させながら、彼女は僕の背中に隠れてしまった。


「それで、激安使い魔スクロールくじというのは何だ」

「激レア(・・)使い魔スクロールくじですわ! 本来の使い魔は、ダンジョンなどで捕獲したモンスターを魂レベルで契約縛りにして、使役するものなです。けれどこのスクロールくじなら、一定確率で激レアのモンスターを使い魔として召還、使役する事ができますの。あら簡単っ」


 高笑いするドイヒーさんは周囲の奇異な視線も何のその。

 スクロールを見つめてはニヤニヤ顔を浮かべている。


 普通のモンスターを使い魔として使役するのはとても大変なんだって。

 けれど、スクロールを使った召還で契約をすると、魔法使いなら誰でもお手軽に使役できるから安心だ。


「ガチャだな」

「ガチャだと思いますっ」

「え、ガチャって何?」

「ランダムにアイテムを入手する事ができるしくみだ。武器屋やアクセサリー店でも似た様なしくみがあって、アタリを引くまで買い続けるという中毒性がある」

「そのう、お店にはガチャでしか手に入らない高価なアイテムもあったりするの」

「持っていればそれだけで自慢になるからな。だが、それで身持ちを崩して騎士団の詰め所に保護された冒険者がいた」

「うわあ。怖いね」


 リーズナブルな手法で、激レアから普通のレア、ただの使い魔が当たると言うけれど、


「魔法使いの連れている使い魔にも色々な種類があるからな」

「そうなのシャブリナさん?」

「ああ。わたしが街で見たことがあるのはフクロウや黒ネコ、それにネズミやヘビだ。カラスやドラゴンの子供なんてものもいるぞ。中にはきゃわいらしいリスを連れたきゃわいらしい少年がいたな。わたしはそのきゃわいらしさに、一目惚れしてしまった。ハァハァ」


 シャブリナさん、一目惚れしたのはリスなの少年なの?!

 とにかく使役できる使い魔は色々いて、ベテランの魔法使いともなると好みや状況にあわせて、使い魔をその時々で召還するんだとか。


「で、このスクロールで何の使い魔だったんだ?」

「そのう、実は召還してみるまでわからないんですっ」

「何が召還されるかわからないうちから、このパン屋の娘は、てぃんくるぽんなどと名前を付けてニヤニヤしていたのか?!」

「コクコク」


 呆れた顔をしてティクンちゃんの言葉に反応するシャブリナさんだ。

 スクロールくじだから、きとアタリとハズレがあるんだよ。


「激レアのアタリくじを引いたらドラゴンの子供、ふくろう、ウェンディーネ。ハズレはスライム、ナメクジ、ハツカネズミ、ですっ」

「ドイヒーさんはこれにいくら払ってくじを引いたの?」

「銀貨六枚、ですっ」


 うわあ、おちんぎん全力でつぎ込んで購入してるよ。

 魔法使いの憧れだって言うから欲しくてしょうがなかったんだろうけど、てぃんくるぽんがハズレだった時はどうするんだろう……


「ナメクジを引いたら眼も当てられんな。くじだけに、ナメクジ。くっくっく、アッハッハ!」

「たっ例えどんな使い魔を召還する事になっても、わたくしは可愛がる所存ですわよ?! 使い魔との関係は相性も重要ですもの、ただ強ければいいってものではないんですわっ」


 いそいそとスクロールを広げていたドイヒーさんは、シャブリナさんが笑い飛ばすのをものともせず。

 今に見ていればいいですわ! などと使い魔を召還する儀式の準備をはじめる。

 麻紙の取扱説明書と睨めっこしながら、スクロールの前に立った。


「うちのパーティーは他より班のメンバーがひとり少なかったですもの。てぃんくるぽんが使い魔として召還された暁には、班の攻撃力は飛泊的にアップ。わたくしとてぃんくるぽんのペアが大活躍間違いなしですわ!」


 では呪文を詠唱いたします。

 ゴトリと黒くて大きくて禍々しい長い杖を床に立てたドイヒーさんは、コホンとひとつ咳払いをして不思議な呪文を口から紡ぎ出す。


「いにしえの魔法使いは言いました。呼び出された殺戮者に無情の愛を注ぐのはわたし。フィジカル・マジカル・てぃんくるぽん!」


 するとどうだろう。

 魔法陣の描かれたスクロールが発光して、その明かりが部屋の中を満たした。


「うわっ眼が!」

「いちいち魔法が大げさな女だな貴様はッ」

「眩しくて何も見えないですっ」


 やがてきらめくスクロールがゆっくりとその輝きを失っていくと。

 僕たちは興味津々で身を乗り出してそれを観察する。

 そこには、よくわからないムニムニとした物体が鎮座しているのが見えた。


「はじめまして、てぃんくるぽん! わたくしはあなたの契約者、アーナフランソワーズドイヒーさまですわっ。さあご主人さまと主従の契りを……あいたっ」


 しゃがみこんだドイヒーさんがニコニコしながら手を差し出したところ、見事にガブリとそのムニムニに噛まれちゃったらしい。

 相性はあまりよくない様だった……


「何だあれは、スライムか?」

「少なくともドラゴンには見えないですっ」

「な、ナメクジじゃないかな?」


 それはどう見てもナメクジだった。

 不思議な召還呪文では呼び出された殺戮者なんて言っていたドイヒーさんだけど、何かスライムより弱そう確信。


 ナメクジとしてはビッグサイズで、てぃんくるぽんは僕の親指サイズほどもある。正直、気持ち悪い……

 銀貨六枚で引き当てたのがナメクジという現実を、ドイヒーさんは受け入れる事ができないらしいや。


「そんなはずはありませんわっ! こ、これはきっとそう、スライムドラゴンですのっ」

「スライムドラゴンなどと言うモンスターはこの世に存在しない」


 いやいやをしたドイヒーさんは、てぃんくるぽんを愛おしそう抱き上げて頬ずりをした。

 眼を覚ましてドイヒーさんっ!

 なんて持っていると、また指をガブリとされた。


「あいたっ」

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