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64 激レア使い魔スクロールくじです!

 あれ、おかしいな。

 僕は何もやましい事はしていないはずなのに、シャブリナさんに対してとても申し訳ない気分になった。

 必死の形相でガラス窓にへばりついていたかと思うと突然、身振り手振りを使って何かを僕たちに訴えかけてくるんだ。

 けれど、何か叫びなが大きな動きで説明しようとしている内容は、僕たちには理解できなかった。

 店内の賑わっているし、通りも雑踏があるしね。


「……何だあのノッポ女。栄養を胸に奪われてとうとう頭がおかしくなったのか?」


 不思議な動きを繰り返すシャブリナさんに、通りを歩いている通行人のみなさんも注目している。


「た、たぶん何かを僕たちに伝えたいんだよ」

「サッパリわかんねえな。ひとを不愉快にさせるダンスを踊っている様にしか見えねえぜ……」


 僕が気を利かせて窓を開けてみたところ、


「そこで待っていろ、今すぐに奉仕活動なんか放棄してそこに行くからな! わたしもセイジと一緒におちんぎんデートを楽しみうわなにをするやめろ?! セイジに夜のご奉仕活動するんだ放せっ!!」


 同じ騎士団に所属するひとたちかな?

 不思議なダンスを踊っていたシャブリナさんをあわてて止めに入ってきた。

 そのままシャブリナさんは連行されていって、そのまま混雑する通りの雑踏の中に消えたのだ。


「せ、セイジさん。何かオレたちめっちゃ注目を集めてるぜ」

「シャブリナさんが大声で叫んだからねっ」

「見せもんじゃねえんだよ。シッシ!」


 振り返って店内を見回すと、給仕のお姉さんもお店で食事していたみんなも、僕たちを見ながら何かヒソヒソ話をしている。

 ビッツくんは居心地悪そうに不味いビールの残りをひと息に仰ぐと、ボソリとうつむき加減に言うんだ。


「そ、そろそろ帰るか。あんまりセイジさんを拘束していると、後であのノッポの女騎士に何を言われるかわからないからなっ」

「わかったよ。何か変な誤解をお店にいるひとたちにされていそうだし……」


 ヒソヒソ話の内容に耳を傾けてみると、


「ははあ、痴情のもつれでしょうな。どちらも元気な娘さんの様だから、あれは後々まで後を引くでしょう」

「女騎士さまと町娘のお嬢ちゃん、どっちが本命なのでしょうね?」

「わしがもっと二〇年若ければ……悔しいのう悔しいのう」


 駄目だこれ、完全に誤解されてるよ?!

 逃げる様に僕たちは会計を済ませるとオシャレな食堂を飛び出した。

 たぶん給仕のお姉さんには完全に顔を覚えられたと思う。


「これに懲りずまたウチに来てくださいね、次は奥にあるVIPルームをご用意しますので、そちらでお楽しみください」


 最後にそんな言葉を言われたから間違いない確信。

 変な気を回してもらう必要はないからっ。

 というか顔を覚えられたから、恥ずかしくてもうこのお店にはこれないよっ!


 こうして僕の休日はあわただしく終わってしまった。

 それでも、少しはビッツくんも満足してくれたみたいだからよかったや。


「まあ途中でえらい目にあっちまったが、奢ってもらったしナイフの注文にもつき合ってもらったからな。今日はセイジさんのおかげで楽しかったぜっ」

「それならよかったけど。また機会があったらお出かけしようね」

「本当か?! 約束だぜセイジさん!!」


 今度はみんなでと提案したら、とても残念そうな顔をされちゃった。

 もしかすると、あまり大人数で遊びに行くのが好きじゃないのかも知れないね。

 そんなやり取りをしながら訓練学校の正門前に到着する。


 寄宿舎にある隣同士の部屋までそのまま向かおうとすると、


「悪いなセイジさん。オレは服を返しにいかなくちゃなんねえから、ここで失礼するぜ」

「その服は借り物だったの?」

「いやあ。一班のヤツに女の子っぽい服は持ってねえって言ったら、これを着ていけって言われたんだ。ほ、ホントはオレなんかにゃ似合わないからって断ったんだけど、どうしてもって言うからよぉ」


 あははは、まいっちまったぜ!

 ビッツくんは照れ笑いを浮かべながらそんな事を言うけれど、普段見ない服装を着たビッツくんは、とても女の子らしくてかわいかった。


「そんな事ないよ、似合ってるのに」

「口がうまいぜセイジさん。じゃあまた!」


 僕の言葉を聞いてそのまま駆け出すと、僕の部屋とは反対方向に駆けて言っちゃった。

 思った事を口にしただけなのになぁ。

 苦笑を浮かべながら自室の部屋の扉に手をかけようとしたところ、中で話し声が聞こえてきた。


 声の主はドイヒーさんみたいだ。

 何か上機嫌な高笑いが聞こえてきたから間違いない。


「おーっほっほっほ! ご覧なさいこのスクロールから漂う、ただ者ではない雰囲気のこのオーラ。この子は間違いなく期待の新戦力となる事、間違いなしですわっ」

「あ、セイジくんが帰ってきましたっ」


 ただいまと部屋の中に入ってみると、やっぱり高笑いしていたのはドイヒーさんだった。

 手に何かの巻物みたいなのを持っていて、ティクンちゃんを相手に説明をしているところだった様だ。


「あらセイジさん、お帰りなさいまし。ちょうど新しいパーティーメンバーを召喚しようとしていたところですわ。シャブリナさんはまだお帰りにならないのかしら?」

 

 上機嫌なドイヒーさんは大切そうにスクロールを抱き抱えながらそんな事を言った。

 シャブリナさんならさっき街で見かけたけど……


 などと思っていると、勢いよく寄宿舎を走るシャブリナさんの姿が見えた。

 ち、ちゃんと奉仕活動は終わったのかな……?


「セイジ、セイジはいるか?!」

「大袈裟だよ、不味いビールで乾杯して食事をしただけなのに」

「あの悪ガキは手癖が悪いからな、何かエッチは悪戯をされなかったか??」

「シャブリナさん顔が近いからっ。奉仕活動は大丈夫なの?」

「ハァハァ、今日のところはあれぐらいで勘弁してやった。セイジの貞操は守られたんだな、よかった!」


 不思議そうに僕たちのやり取りを見比べていたドイヒーさんとティクンちゃんだ。

 けれど、会話の途中だったのを思い出したドイヒーさんが、巻物を差し出して言葉を口にする。


「ちょうどよかったですわ、これからパーティーの新戦力になる使い魔を召喚するところでしたのよ!」

「使い魔だと? 何だそれは」

「さ、さあ。僕も今帰ったとこだからわからないや」


 部屋の扉を閉めながら僕と顔を見合わせるシャブリナさんだ。


「この子は魔法道具屋でやっていた、激レア使い魔が一定確率で召喚できるスクロールくじで引いてまいりましたの! まさに運命の出会い! わざわざモジャモジャさんに幸運値アップの支援魔法をかけていただいてくじを引いたのだから、てぃんくるぽんは激レア使い魔で間違いなしですわ。おーっほっほっほ!」


 てぃんくる、何だって?

 知らない単語を口にするドイヒーさんだ。意味がわからなかったので事情を知っているらしいティクンちゃんに助けを求めると、


「そのう、ドイヒーさんが使い魔につける予定の名前ですっ」


 おかしな名前だなと思ったのは内緒だ。

 ドイヒーさんは、ちょっとセンスが他のひととズレてるよね?

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