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61 穏やかな休日の朝です!

 その日、僕は朝からソワソワとした気分だった。

 だって今日は訓練学校もお休み、しかもおちんぎんの日だからね!


「何をしているセイジ! まごついていると受付が混雑して、おちんぎんが後回しになるっ」


 浮かれた気分だったのは僕だけの事じゃない。

 ネクリジェをババーンと脱ぎ散らかしたシャブリナさんは、僕の手を引っ張って急かす。

 ドイヒーさんもヘアカーラーを金髪縦ロールに巻いたまま飛び出しそうな勢いだ。

 ティクンちゃんがモジモジしていたのは、いつも通りの事だ。


「ま、まってシャブリナさん。まだズボンを履き終わってないから、ちょ引っ張らないで――」

「そうでしたわ。朝食に向かう前に、先に支払手形を受け取ってしまいましょう」

「一緒ですねセイジくん、わたしもおパンツ履いてませんッ」


 パンツぐらい履こうよ?!


 朝からあわただしく寄宿舎の自室を飛び出した僕たちは、朝食の前に校舎の受付を目指した。

 いつもは教室と練兵場、それに食堂を行き来するだけの毎日だ。

 あまり訓練生にとっては用事がない受付は、それこそアルバイト求人を聞きに行く時ぐらいしか顔を出さないのに。


 今日に限っては何人かが受付前に行列を作っていたんだ。


「ふむ。考える事はみなさんご一緒というわけですわね?」

「けれどまだたくさんは集まっていないみたいだ。僕らも急ごう」

「コクコク」


 訓練学校全体が授業をお休みしているので、僕らと同期の訓練生以外も同じ様におちんぎん受取に来てるのかな?

 行列の最後尾に並ぶと、知らない訓練生たちの顔ぶれも目撃できた。


「前に並んでいるひとの顔付が、ちょっと怖いですぅ」

「あの方たちは、わたくしどもより先に入校された卒業間近のみなさんですわね」

「長く迷宮暮らしが続くと、やがてあいいった顔つきになるのだろう。どうだセイジ、わたしの顔も冒険者の面になって来たかな? ハァハァ」


 鼻の下を伸ばしてヌっと顔を寄せたシャブリナさんは、とても残念美人だった。

 何と返事をしていいのか考えて曖昧な笑みを浮かべていると、


「何でオレのおちんぎんが、こんなにちっぽけなんだよ?! おかしいだろ確認しろよな!」


 受付から聞こえてくるのはビッツくんの悲鳴だった。

 何か納得がいかない事があるのか、羊皮紙を片手にブンブンと手を振って抗議している。


「廃坑ダンジョンの実習手当は、銀貨二枚で間違いないです。ほら、ここを確認してください。学校理事と《さざめく雄鶏》の印鑑が押されているでしょうっ?!」

「納得いかねえのは、この差し引きぶんだぜ! 迷宮で使ったぶんは全部経費で落ちるんじゃなかったのかよっ」

「それはあなたが、携帯非常食を大量にチョロまかしたのが悪いんです。次!」

「なんだって……?!」


 必死で食い下がるビッツくんは、受付のひとから強引に追い返されてしまったらしい。

 この世の終わりみたいな顔をした彼女は、呆然自失した表情でトボトボと受付を離れていった。


「あの悪ガキめ、携帯非常食を横流しししていたのがバレた様だな」

「ビッツくん、そんな事をやっていたの?!」

「まったく凝りもせず、よく悪いことを思いつくものですわ」

「そのう。ビッツくんは実習が終わったら、持ち帰った携帯食料を安売りしていましたっ」


 何でも夜中のおやつがわりに、ティクンちゃんもいくつか横流し品を買って食べていたらしい。

 モジモジ少女は小柄で僕と身長体格もあまり変わらないけれど、見た目に反してよく食べる。

 年端も行かないようじょと、いい大人の僕の身長がほどんと一緒だと思うと、とても悲しい気持ちになっちゃった……


「そろそろ順番がきますっ」

「セイジ、セイジのおちんぎんは、どれぐらいかな? おちんぎんで一杯に満たされたら、その足でわたしとでででデートにイかないか――」

「何をしておりますのシャブリナさん? さっさと受付にイきますわよっ!」


 騒がしい受付の待機列は徐々に消化されて行って、一喜一憂するみなさんの後に僕らの番が来た。

 さっそく班名と名前を告げると、受付のお姉さんから羊皮紙の紙片が差し出される。


「実習手当十二枚に特別手当十二枚。しめて銀貨二十四枚か、まあこんなものだろう」

「それでこの特別手当の内訳はどういう意味ですの?」


 受付前に立ったところ、左右からシャブリナさんとドイヒーさんが身を乗り出してくる。

 おかげで背中や顔にふたりの胸がぎゅうって押し当てられるし、ついでに吐息も首筋にかかってるからっ!

 ふぅ……


「内訳は、魔法文字の解読手当てと、それからコンバットレスキューの出動手当ですね。それぞれひとり当たり銀貨二枚と一枚が割り当てられています」

「セイジくんが解読をしたのに、全員に手当てが発生するんですねっ。そのう、おちんぎん。もらっちゃっていいのでしょうか?」

「パーティーとして魔法文字の解読技能を持った賢者を護衛したわけですから、報酬は正当な対価ですよ」


 申し訳なさそうな顔をしたティクンちゃんに、ニッコリ笑った受付のお姉さんが説明した。

 そうだよね、冒険者はそれぞれジョブを持っている。

 アタッカーだけでダンジョン攻略ができるわけじゃないし、賢者ひとりでダンジョンの謎を全て解けるわけじゃないよね。


「それでは次の方どうぞ~」


 ドイヒーさんの受け取った支払手形をまじまじと覗き込みながら、僕たちは受付を離れた。


 この支払手形を持って指定された両替商に行くと、現金が支払われるんだそうだ。

 前にアルバイトをした時は《ビーストエンド》から祝勝会で直接おちんぎんを支払われたよ。

 けれど《さざめく雄鶏》はまだ廃坑ダンジョンを攻略している最中だ。


「こういう場合のおちんぎんは支払手形という形で支払われる。まず先に朝食を済ませてから両替屋まで足を運んでみるか」

「うん、そうだね。何か朝から騒がしかったから僕お腹すいちゃった」

「フンフン。今日の献立は揚げパンとベーコンエッグ、マッシュルームとひよこ豆のトマト煮込みなので楽しみですっ」

「揚げパンですって?! そんな下等なパン、わたくしは食べたくありませんのよっ!!!」


 そんな雑談をいつもの様に繰り返しながら、僕らは食堂に入った。

 そこにはとても景気悪そうな顔をしたビッツくんが先に並んでいて、かすれた声で挨拶をしてくれる。


「よぉセイジさん。景気はどうだい……」

「まあまあだよ。ビッツくんはどう?」

「予定していたよりおちんぎんが少なくて、ガッカリだぜ。新しいナイフを買ったら何にも残んねえよ。うわああああああん!」


 確かビッツくんが受け取る予定の報酬は、銀貨二枚のはず。

 僕たちはひとり六枚の銀貨を受け取っているので、ビッツくんとの差は三倍だ。

 さすがにその事を素直に伝えると、ビッツくんが衝撃でショック死してしまうかもしれないや。


 だから僕は苦笑を浮かべて慰めの言葉を口にしたのだけれど。


「元気出しなよ。僕が一杯、不味いビールを奢るからさ」

「ほ、本当かいセイジさん? 約束だからなっ!!」


 目を輝かせて、思いのほかビッツくんは大喜びをしてくれた。

 けれども、何故か背後から厳しい視線を感じたんだ。

 あれ? シャブリナさんがもの凄く恐ろしい顔をして僕を見ているよ?


「しょ、しょんな抜け駆けおちんぎんデートをする事は、このわたしが許さんぞっ! セイジもイくなら、わたしも一緒にイくからなっ!」

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