60 やっぱり冒険者は最高だぜ!
「ケホケホケホっ。ゴリ、ミノ……?」
永遠にも感じられた魔力大爆発が収まると、インギンさんがみんなの無事を確かめる声がした。
「大丈夫ですゴホゴホ、まだ生きてますぜっ。救出した訓練生たちも無事だった!」
「もうだめかもしれません姐さん、俺の角が折れてしまいました。もうお嫁に行けない……」
「僕の事も心配してくださいよインギンオブレイさん~」
土煙の中で咳き込みながらも、教官やパンチョさんたちが返事をした。
ミノタウロス教官だけは悲しみに満ちた悲鳴を上げているけれど、自慢の角はともかく五体満足らしい。
そうしてようやく視界が開けてくると、ドイヒーさんが不思議な呪文を口ずさんで発光魔法を出現させる。
「……コホっ。酷い有様ですわね、杖以外の何もかもが消し飛んでしまいましたわ」
「そのう。パンツが弾け飛んだので、お股がスースーしますっ」」
「ダメージカットの支援魔法と、爆発反応するマイクロビキニアーマーがなければ危なかった」
見ればアフロヘアをしたシャブリナさんが振り返って、サムズアップをしてくれた。
爆発に巻き込まれて奇麗な艶のあった黒髪も台無しになっている。
けれどその全裸の姿はどこか頼もしく、例え強引に胸の内に抱き寄せられたとしても今だけは抵抗せずにいた。
「さあ来いセイジ、わたしと生きている事を確かめ合おうではないか。ハァハァ、しゃぶりついてもいいぞ?」
「ふもっ、苦しいよシャブリナさんっ」
「セイジさんはマイクロビキニアーマーを拒否なさておりましたもんね、下手をすれば命にかかわっていたのですわよ」
「フンフン、これからはセイジくんも。わたしとお揃いのマイクロビキニアーマーを、着用するといいですっ。よかったらわたしのを……」
こうして隠し部屋から三班の仲間たちを助け出し、クイーン・ダンジョンスパイダーは討伐された。
僕だけマイクロビキニアーマーを着用していない事を責められたけれど、だって男性用のアレはブーメランパンツだからね……
けれど命には代えられないので、身に着けた方がいいのかな?
「何しろ合法的に、いたいけなセイジのショタ全裸が見られるわけだからな。アッハッハ」
「そんなのいつだって寄宿舎でジロジロ見ているじゃないか?!」
「違うのセイジくん。自分で脱ぐのと脱がされるのと、両方楽しみたいのっ。あッ……」
シャブリナさんの言っている事は相変わらず意味不明だけれど、それに輪をかけて近頃ティクンちゃんの言動もおかしいや。
今も対抗心からなのか、断崖絶壁のお胸を僕に擦り付けてくるし……
「まったくふたりとも。淑女としてのご自覚が足らないのではありませんこと? お下品ですわよお下品っ」
「ツルツルのお子ちゃまの癖に生意気だ」
「コクコク。あのう、わたしのを半分……」
「きいいいいっ、ツルツルで何が悪いのですの?! 干しぶどうとモジャモジャの癖にっ」
即応待機中のパーティーがベースキャンプから駆けつけると、担架でビッツくんやデブリシャスさんたちを運び出していく。
応急手当は聖なる癒しの魔法でティクンちゃんがやってくれている。
より詳しい検査と処置は、本部の救護室で行わなくちゃならないからだ。
その道中でビッツくんが意識を取り戻して、朦朧とした状態で僕にこんな言葉を投げかけた。
「……セイジさんがオレたちを助けてくれたのかい?」
「うん。僕がというより班のみんなや教官たちと一緒にね」
「そうかい。セイジさんはやっぱり貧民のヒーローだぜ、あのダンジョンスパイダーの化け物を相手に、助け出してくれたんだからな」
「パーティーは家族、パーティーは兄弟も同然だって訓練学校で教わったしねっ」
「へへっ、そうだね。セイジさんと俺は兄妹ってわけだ……」
手を握って励ましの言葉を投げかけると、ビッツくんは力なく笑って返事をしてくれた。
救護係の教官によると、弱気なのはまだクイーン・ダンジョンモンスターの毒による混乱が原因だとか。
しばらくすれば五体満足に動き回れるようになるし、よかった。
ビッツくん、デブリシャスさん。お疲れさまでした!
さすがに三班のみんなは一日の休養を与えられるそうだけど、実習訓練は今回のパーティー遭難があっても続けられるのだ。
訓練生全員がテント前に集められて整列する。
就寝前の点呼確認だ。
「これで無事に訓練生全員の点呼が完了したわけだ。お前たちもさっさと寝袋に入って、明日に備えるんだぞ!」
「「「はい、教官どの!」」」
「どうだ、冒険者になるのが嫌になった者はいるか? 今からでも訓練学校をやめたい奴がいたら、後でコッソリ申告する様に」
「「「…………」」」
ゴリラ教官がそんな意地悪な質問を僕たち訓練生に投げかけたんだ。
ビッツくんたち三班のみんなも、もしも戦闘救難が間に合わなければ犠牲者が出ていたはずだけど、誰からも学校をやめると言い出す人間は現れなかった。
「……なるほど。お前たちはまだまだヒヨッコの新米訓練生だが、気持ちだけは一人前になりつつあるというわけだ」
「いい面構えになって来たな。それでこそ最高の冒険者だ」
口々にミノタウロス教官とゴリラ教官がそう言った。
そりゃそうだよ。
僕たちは前期と後期の課程を終えてようやく、実習課程に進んだんだからね。
おちんぎんだって貰える様になったし、僕たちはあと少しで冒険者として訓練学校を旅立てるんだ。
「よし冒険者ども、解散だ!」
「「「はい、冒険者は最高だぜ!!!」」」
ぐるりと訓練生を睥睨したミノタウロス教官がニヤリと口を歪めると、揃いも揃って直立不動でこう返事する。
締めの言葉はやっぱりこれだねっ!
その夜。
僕たちは解放感と疲労感がない交ぜになってズッスリと眠り込んでいた。
本来ならば交代で見張りも立てる必要がある。
けれど、ベースキャンプなのでそれもいらなかったんだ。
しっかりとしたテントが設営されているから、寝袋じゃなくて寝具を敷いてそこに寝る。
「……セイジ、きゃわいいセイジのソーセイジをもっと、……スヤァ」
「しゃ、シャブリなさん苦しい抱き着かないで……」
だから僕たち四人は団子になって身を寄せ合いながら寝てしまっていた。
今夜は野外の天幕だから少し冷えたしね、自然とそうなったのかも知れない。
僕は夢の中で、温泉に浸かる様な夢を見たんだけれども……。
「あっ」
「……」
「…………」
「……ふぁ、何だこれは?!」
「きゃあああ! わたくしのお股のあたりがお湿りしておりますわよ!」
「えっえっ、どうしたのみんな?!」
夢の中から強制的に叩き起こされて、ガバリとあわてて飛び起きてみると。
そうして毛布をめくりながら、シャブリナさんとドイヒーさんが血相を変えていた。
「……あのう、やってしまいましたッ」
毛布が何だか生暖かい水気に浸されていたと思ったら!
疲れからか、ティクンちゃんがお股の蛇口を締めそこなって、毛布を聖水で水浸しにしてしまったんだ。
いくらなんでもお約束過ぎるよ?!




