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06 役割分担は大事です!

「短剣、筆記用具、皮袋の水筒に麻紙の束とボード、それからロープとランタン……」


 寄宿舎の僕たちの部屋での事。

 ダンジョン攻略に使う基本的な装備一式を僕は点検していた。

 ひとつずつ何が足りないのかを確認するために、支給品を安っぽい麻紙に記入していく。


「それから緊急時の救急セットと包帯だ。場合によっては回復職が動けない可能性もあるからな、後は携帯食料もおやつ代わりにもっていく」

「あらシャブリナさん、手際がよろしいですわね?」


 しゃがみ込んだ僕と点検を手伝ってくれるシャブリナさんの背後から、アーナなんとかドイヒーさんの声が聞こえた。

 名前が長いし覚え間違いをすると怒られるので、僕はお言葉に甘える事にした。

 今度からは愛称で呼ぶのがいいよね。

 ええと、確か愛称は……


「シャブリナさんは、ブンボン騎士団の騎士見習いをしているんだよドイヒーさん」

「ふふふっ。わたしは街の平和とセイジの貞操を守ると、女神様に誓いを立てたのだドイヒー」

「ドイヒーではありませんわ!」

「貴様の名前は確かアーナフランソワーズドイヒーで間違いなかったはずだが、はて。これでも親しみを込めて愛称で言ってみたのだが……」

「愛称でお呼びになるなら、せめてアーナさまとッ」

「「わかったよ(ぞ)ドイヒーさま」」


 さま付けをしたら満足するのかと思ったのだけど、ドイヒーさんはますますプリプリした顔をして、絹の様な白い肌を上気させてそっぽを向いちゃった。


「もう、よろしいですわ! 何とでも好きにお呼びになってくださいましなっ」

「見たかセイジ、あれがツンデレだぞ」

「よくわからないけど、ドイヒーさんの照れ隠しって事かな?」

 

 きいいいっ。

 ドイヒーさんは肩を怒らせて自分の装備をズタ袋の中にまとめていく。

 すると部屋の隅で小さくなっていたティクンちゃんが、


「あのう、ドイヒーさま」

「何ですの?!」

「あっ、ごめんなさい。そのう……支援魔法の分担はどの様にすればいいかなと」


 モジモジ少女っぷりを見せながらティクンちゃんがおずおず手を挙げてそう言った。

 なるほど役割分担か。

 聞けば回復職のティクンちゃんは、聖なる癒しの魔法を駆使する他にも、補助系の支援魔法を使う事ができるのだそうだ。


「わっわたしは、集中力アップと痛み耐性アップの魔法、それから攻撃力アップの支援魔法が使えます」

「支援魔法、ですの? わたくしはいにしえより伝えられし、光と闇を統べる魔法使いですわ。攻撃特化型の魔法を専門としておりますの」

「じゃ、じゃあわたしは集中力アップと痛み耐性アップの魔法を担当しますねドイヒーさま……」

「ふんっ」

「ひっ……」


 何でわたくしが!  と言わんばかりに不機嫌な顔をして、ズタ袋に大きな長い杖を通して背負うドイヒーさん。

 そのまま無言で僕たちの部屋をから廊下に飛び出していった。

 ギイバタン。


「パン屋の娘はまるで協調性が無いな」

「支援魔法にも色々とあるんだねえ。じゃあ僕も攻撃力補助とかを受けたら少しはサブアタッカーとして役に立つかな?」

「ゼロに何をかけ合わせてもゼロにしかならないぞセイジ」

「酷い事を言うなシャブリナさんはっ」

「だからセイジは黙ってわたしの背中に隠れていればいいのだ。セイジの剣はわたしであり、セイジの盾はわたしだ。貴様の分はわたしが戦えばちょうどいい」


 確かにシャブリナさんの剣技は凄かった。

 並の男性の戦士が攻撃判定で80を出すのも難しかったのに、盾と剣の連撃であっさりと160の攻撃判定を出したからね。

 女騎士は伊達じゃないわけだ。


「あ、あのう……」

「ティクンちゃんどうしたの?」


 僕とシャブリナさんが振り返ると、声をかけられてティクンちゃんがビクンとした。


「わたしは戦闘中、どうしたらいいでしょうか」

「貴様の役割は回復職だからな。騎士団では、本来ならば戦闘中は攻撃参加をしてもらう場合もある」

「あっ、はい」

「しかし初顔合わせの班員同士で、場所は狭いダンジョンの中だ。無理のない範囲で攻撃参加してと言いたいところだが、無理だろうな……」


 シャブリナさんが立ち上がって腕組みをすると、大きな胸が寄せて上げられ強調された。

 萎縮した顔のティクンちゃんだけど、コクコクと同意していた。


「それはどういう事シャブリナさん?」

「パン屋の娘は見た通りの自信家だ。その自信に自惚れて、独断専行するタイプやも知れん」

「確かにそうだね……」

「恐らくバンバン前に出て行って、連携を取るのは難しいだろうからな。無理に前衛に人間が固まると、かえって団子になって守るものも守れなくなる」

「ちょ、頭を撫でるのやめて。恥ずかしいからもうっ」


 シャブリナさんが腕組みを解くと、たわわなお胸がよく揺れた。

 ティクンちゃんにクスリと笑われる。

 ほらあ、絶対同年代と勘違いしているよこのモジモジ少女。

 一回り以上年齢も年上なんだから、ちゃんと気遣いのできる大人っぽい事をしておこう。


「ティクンちゃん。無理したらだめだよ」

「コクコク」

「そうだ、勝手にティクンちゃんて呼んでたけど、嫌じゃないかな?」

「フルフルっ……」

「うん、それじゃあ僕の事もセイジって気軽に呼んでね」

「……セイジくん?」


 僕たちも初ダンジョン攻略の準備を終えて、ドイヒーさんを追いかける事にする。

 荷物持ち(ポーター)らしくティクンちゃんの手荷物を預かってあげて、外に出ようとしたところ、


「狭いダンジョンだったら……そうだな。わたしが前衛を担当し、半歩後ろから先制攻撃をドイヒーを担当するのが理想だろう。その場合はティクンはドイヒーとポジションチェンジをして……って、にゃにゃにゃ、にゃんでわたしが目を離しているスキに貴様たちはいい感じになっているんだ?!」


 背後からブツブツと戦略分析をしていたシャブリナさんが怒り出したのである。


「シャブリナさん行くよ!」

「お、置いていかないでくれ! なあ、わたしたちはパートナーじゃないかっ」


 こうして僕たちは学校の中にある、模擬ダンジョン施設にエントリーする事になった。

 大きなお屋敷みたいな石造りの立派な建物は、モンスターパレスと言うらしい。


「みなさん何をしておりましたの?! さあ。ついにこのわたくし、アーナフランソワーズドイヒーさまの魔法修行の成果を発揮する時がきましたのよ」


 先にモンスターパレスに到着していたドイヒーさんはやる気満々だった。

 黒くて禍々しい長い杖を振り回したドイヒーさんは、僕たちに振り返っておかしな呪文を口にする。


「いにしえの魔法使いは言いました、フィジカル・マジカル・たくましくなーぁれ!」

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