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55 特別なおちんぎんの任務です!

 廃坑ダンジョンの場所は、ブンボンの街を出て四つの村を経由した先にあった。

 のどかな田園風景といくつかの森を向けて街道を逸れた先に、大きなベースキャンプが設営されている。

 見た事の無い犬面をした小柄な人間たちがせわしなく働いている姿が見える。

 あれは何だろうと小首を傾げると、


「きっと、この周辺で生活をしているコボルトの部族ですわね」

「コボルト?」

「そうですわ。ベースキャンプ地に迷宮攻略の物資を運び込むために雇われているのでしょう。ほらご覧なさい、ギルドの方たちと資材点検をされているのが見えますのよ?」


 本当だ。

 コボルトのみなさんは、小麦か何かが詰まっていると思われる麻袋を馬車から運び出したり、大きな瓶に入った水を、せっせとキャンプの集積地に運び込んでいるじゃないか。

 たぶん《さざめく雄鶏》の幹部と思われるひとと、帳簿を確認しているコボルトの姿もあった。


「考えてみれば僕はブンボンの街の外の事をほとんど知らなかったや。世の中にはいろんな種族のひとがいるんだなあ……」

「おーっほっほっほ! わたくしは魔法の修業時代に世の中を旅してまわったので、何でも世の中の事を聞いてくださいなっ」

「うんありがとう。さすが魔法使いは博識じゃないと務まらないんだね」

「わたくしは博識、そういう事ですのよっ。もっとお褒めになってよろしくってよ!」


 口に手を当てて高笑いしているドイヒーさんに感心していると、背後にシャブリナさんの気配を感じた。

 馬車から旅荷を降ろしていたはずだけど、まったく気付かなかった?!


「貴様、田舎に行けばどこにでもいるコボルトを知っているぐらいで、博識を気取るとは笑止だなっ」

「何ですの?!」

「博識と言うのなら、セイジの様に魔法文字を自在に読み書きできる様になってから言うべきだ。ん?」


 僕の肩に膝を置いてドイヒーさんをからかうシャブリナさんだ。

 すると途端にキイイと怖い顔をしてドイヒーさんがこちらを睨み返してくる。


「せ、セイジさん。わたくしにも魔法文字の読み書きを教えて下さらないかしらっ」

「その場合はおちんぎんが必要だな。時はおちんぎんなりという諺もある。なっセイジ?」

「シャブリナさんあなたには聞いておりませんのよっ! 脳味噌に送る栄養を全部おっぱいに吸収された


 何ていつもの喧嘩をはじめたシャブリナさんとドイヒーさんだけど、馬車の方からとびきりの悲鳴が飛んできたのである。


「み、みなさんも手伝ってくださいっ。ひゃわぁ!」

「大丈夫ティクンちゃん?!」

「まだ漏れてないです。まだ大丈夫ですッ。あっ……」

「「「?!」」」


 ベースキャンプの一角に自分たちのテントを設営し終えると、さっそく《さざめく雄鶏》のギルド関係者に訓練生全員で挨拶を済ませる。

 それが終われば現地でブリーフィングの開始だ。


 冒険者訓練学校の実習課程で使われる本物のダンジョンにはいくつかあるそうだ。

 実際に冒険者ギルドが攻略中の最前線たる迷宮の場合もあれば、僕らの様な新米だけで攻略可能な規模のもの。

 そんな風に車座になった僕たちへミノタウロス教官が説明してくれた。


「前者の場合は攻略メインルート以外、枝葉にわかれている側道の安全を確保するための、いわばダンジョン攻略の占有権を取得しているギルドの下請け業務みたなものだ。今回がその例に当たるため、アルバイト料金はギルド《さざめく雄鶏》クランから支払われる事になる」


 なるほどねえ。

 冒険者訓練生に過ぎない僕らに、どこからおちんぎんが支払われるのかと不思議に思っていたけれど、これで疑問がひとつ解決された。


「また後者の場合は、当然すでにダンジョンボスを一度討伐して、基本的には全て調べ尽くされている場所という事になる。安全性は極力確保されているが、ボス討伐完了後もモンスターは時間経過とともに湧く事がある。その一掃任務をブンボン冒険者団体連盟から委託して、お前たちが実施するわけだ」


 ブンボン冒険者弾帯連盟というのははじめて耳にする名称だ。

 その名称通り、ブンボンの街を中心に周辺一帯で活動しているギルドの任意加盟団体で、僕の知っているインギンさんがギルマスを務める《ビーストエンド》や、これからお世話になる《さざめく雄鶏》も併せて、大小三〇余りのギルドが登録しているんだとか。


「この連盟を通してギルドへの就職斡旋や、フリーランスの下請け依頼などが受けられる事になる。将来的にはお前たちもお世話になる団体だと思えばいい。ダンジョン攻略の占有権についても団体を通して交渉されるからな」


 そんな前置きが終わると、いよいよ本格的な廃坑ダンジョンの説明を《さざめく雄鶏》の偉いひとがしてくれた。


「どうもご紹介に預かりましたサザーンメキです。えー、この廃坑迷宮は、現在四つのエリアに区分されておりまして――」


 基本的に階層を形成していないダンジョンの場合、暫定的なエリア区分を行うんだって。

 まずはダンジョン入口付近の安全が確保されている調査完了エリア。

 次にメイン攻略ルートを確保済みで、その側道関係がて手付かずになっている補給線確保エリア。

 それからギルドの主力メンバーでアタックをかけている最中の前線エリア、それに前人未踏の実調査エリアの四つだ。


「そのー、みなさんに担当してもらう補給確保エリアは、現在のところメイン攻略ルートの安全確保に必要な最低限が調査済みです。残った枝葉の小部屋や、その周辺で湧き出るモンスターの対処でのお仕事になります。凶悪なモンスターはすでに処理した後なので危険はあまりないと思いますが、あー、訓練生のみなさんは本物のダンジョンである事を忘れずに、気を引き締めて頑張ってください」


 こんなところでよろしいでしょうか?

 後方支援職のひとなんだろう。おっとりとした口調で喋り出しが間延びするサザーンメキさんは、ひとしきりの説明を終えたところでミノタウロス教官に向き直った。


「返事が聞こえないぞ、わかったかお前たち?!」

「「「わかりました教官どの!」」」

「よし、お前たちの冒険者生活はここからはじまる。いいな?!」

「「「冒険者は最高だぜ!!!!!」」」


 大きな声で訓練生一同は返事をした。

 これから攻略に参加する本物のダンジョンに、少なからず訓練生たちは興奮していたのだ。


 いつもの班毎に仕事を振り分けられた僕たちは、かつて坑道だった迷宮へと入った。

 チームによっては前線エリアのキャンプに向けて食料を運ぶ護衛役や、前線キャンプの警備を担当するものから、側道調査に向かうなど様々だ。

 僕たちに下されたのは、まだギミック解除がなされていない部屋の調査命令だった。


「喜べセイジ訓練生。きみが魔法文字を会得していると聞いて、サザーンメキさんが特別に調査を依頼して下さったのだ。特別に報酬も弾んでくれるというから、腕の見せ所だぞ!」

「ありがとうございます! わあー特別なおちんぎん楽しみっ」

「セイジ訓練生は、いつも賃金に過剰反応するな……」

「おちんぎん、大好きです!」


 廃坑ダンジョンに入る直前、ゴリラ教官にそう教えてもらった僕は喜んだ。

 僕はホームレスを脱却してまともな職を得るために冒険者を目指しているんだから、おちんぎんが大好きなのは当然だよね。


 すると仲間の女冒険者のみなさん三人が、僕の反応に対して顔をしわくちゃにして背けているのが見えた。


「セイジがおちんぎんを連呼する度に、わたしは、わたしは!!!」

「無邪気な顔で言うあたりが罪作りですわね。とっても卑猥でたまりませんわ」

「コクコク。セイジくんはエッチですねっ」


 どういう事なの?!

 卑猥な想像をするみんなの方がエッチだよ!!


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