53 シャブリナさん大爆発です!
見上げる様な長身の、けれどどこからどう見てもシャブリナさんにしか見えないボスモンスターが現れた!
本人は長身人型女性モンスターのオーガ族だと言い張っているけれど、虎柄のマイクロビキニアーマーから溢れんばかりの豊かなお胸は暴力的で見覚えがある。
「アッハッハ、どうした冒険者たち。貴様らから来ないのなら、こちらから行くぞッ」
圧倒的な存在なのは、ボスモンスターになっても変わらない巨乳。いや元の姿の時よりも肌色成分が多いマイクロビキニアーマーの下着だから、より暴力的だよ!
長身人型女性モンスターのオーガ族は戦闘突入を一方的に宣言すると、ぶるんばるんと金棒を頭上で回転させながら、僕らの包囲の輪に突入して来たのだ。
「喰らえおちんぎんパワー!」
「わわ、何て馬鹿力だっ。一撃でダンジョンの床を破壊したぞ?!」
その豪腕を見せつける様に、大振りの一撃を床に叩きつけたそれだけで、頑丈な石畳を爆砕して耕してみせる。
破壊力は仲間のムキムキお兄さんにすら不可能だ。
長身人型女性モンス……長いのでシャブリナさんを前にして、僕らは大混乱に陥った。
「くっ教官の言葉を思い出して、チームワークで対抗だよ!」
「そんな事はわかっているが、下手に攻撃失敗したら俺たちまであの金棒で耕されてしまうぞっ」
「それでも動きが遅いから、連携して囮役が引きつければいいんだ!」
僕は仲間たちの動揺を抑えるために必死になってそう叫んだ。
まさかボスモンスターに扮するシャブリナさん相手に、攻略の知恵を絞る事になるなんて。
それでもすぐに「了解したぜ!」と叫んで見せたビッツくんが、よく手入れの行き届いた自慢の量産型ナイフを腰だめに、矢のように飛び出して牽制の攻撃に動き出した。
「みんな、背後にまわりこんで!」
「わかっているぜっ」
柄にもなく僕は偉そうに指示を飛ばしてしまったけれど、仲間は文句ひとつ言わずに反応してくれる。
素早いビッツくんの動きだけど、シャブリナさんはわずかに身を反らすだけでそれを回避して見せた。
けれどそこにムキムキお兄さんの長剣が振り込まれる。
「ぬん! 甘いぞっ」
「ぐおおお、ほぎゃああああ」
ところがシャブリナさんは後ろに目でもついている様に、片手で金棒を持ち上げると連携の一撃を受け止めてみせる。
そのままグッと力を入れて押し返すだけで、ムキムキお兄さんは弾き飛ばされてしまった。
「まだまだっ! 僕も行くよっ」
「何だと?! セイジに傷を負わせるわけにはいかないな」
するとシャブリナさんはとても驚いた顔をしながら渾身の攻撃を、右に左にとヒラヒラ回避して見せながら壁際まで後退した。
僕の攻撃に恐れをなしているなんて、そんなわけはない。
たぶんきっとシャブリナさんのを見ていれば、僕の渾身の攻撃をはじき返すなんてわけもない事なのに。
これはどういう事だと僕は内心驚きながら、モーニングスターを握りしめつつ前進した。
すると、
「せ、セイジ落ち着くんだ。わたしは貴様と争うことはできないっ」
「ごめんね。そんなつもりじゃないんだ……」
「そうだぞセイジ、こんなむさ苦しい男ばかりのパーティーなんて放って、モンスターパレスでわたしと貴様、永遠の愛を確かめ合おうではないか!」
「でもそれじゃ修了検定を合格できないから、一生無職のままで僕は過ごすことになるじゃないか。おちんぎんの夢も遠のくよ……」
「むむっ。セイジが無職のままでもわたしが養ってやるから一向に構わんが、セイジの悲しむ顔を見るのはわたしの本意ではない!」
どうしても僕たちには必要なんだ。シャブリナさんならわかってくれるよね……
逡巡している今こそが攻撃のチャンスと、僕は鈍器を引き上げる。
女の子をこんな禍々しい武器で殴りつけるのは心が痛い、なんて思ってはいけない。
本物のシャブリナさんはどこか別の場所に設置されている魔法陣で、モーションキャプチャーしているだけなんだから。
そんな風に思って僕は叫んだ。
「ごめんシャブリナさん。行くよっ!」
「イく時はわたしがもちろん受け止めてやる。わたしの中で果てろっ?!」
意味不明な発言をして手を大きく広げて見せたシャブリナさんだったけれど。
「止せ、セイジさん」
「駄目だ、そいつはノッポ女の罠だぜっ」
「えっ??」
背後から刺す様に聞こえてきたビッツくんの声も後の祭り。
猪突猛進した僕の攻撃を避けるでもなく、気が付けば金棒で鈍器をはじきあげられたあげく、もう片方の手で拘束されてしまったのだ。
「アッハッハ! つ〜かま〜えたっ」
「ぶはっ息ができない。ふもももももっ」
抗う事もできず豊かすぎるお胸の谷間に顔を埋める格好になりながら、僕はそのまま片腕で抱き抱えられつつ振り回される。
助けに入ろうとした仲間たちは、それこそ死にものぐるいで剣を天井に突き上げる様にしながら、右から左から突入してくるけれど。
「坊主を助け出せ!」
「ここで修了検定をパスできなかったら、今までの訓練が全部パァになってしまう」
「むしろ今こそチャンスなんじゃね? 相手は片腕で戦っているし」
「ここが踏ん張りどころだ!!」
「オレのセイジさんを返せっ」
こんな具合で一斉に飛びかかってきたものだから、さすがのシャブリナさんも驚いたみたいだ。
それよりも、このままじゃ僕は胸の谷間に顔を埋めたままで窒息してしまう。
激しく僕を抱きしめたままシャブリナさんが暴れるものだから、ここから脱げ出そうと必死にもがき続けるのも限界がある。
「あっ、こら。そこははあン、駄目だそんな。そこは吸っちゃ」
「ふももも、苦しい。たすけてうぷぷっ」
「おおお、長身人型女モンスターの動きが鈍ったぞ。腰が引けてる今なら倒せるかもしれないっ」
「ぐぬぬ、卑怯者ひゃうっ。そこはやめろ、ふたりきりの時に……」
今だ一斉攻撃!
そんな言葉を意識が暗転する直前に耳にした気がする。
気がする、と言ったのはその直後に集中攻撃を受けたシャブリナさんの虎柄マイクロビキニアーマーの耐久が一定値以上まで蓄積したらしい。
あれは訓練学校の購買部に売られている流行り物の、衝撃で爆発反応する例の下着だったみたいだ。
爆発反応によって運動エネルギーを拡散することでシャブリナさんのわがままボディを守ろうと機能したのである。
「うわああ爆発するぞ! セイジ、わたしはもう我慢できないっ」
どっかーん!
何もかもを巻き込むように爆発反応式の甲冑が四散して、ついでにシャブリナさんも仲間たち全員も爆発に巻き込まれる。
それでも僕は最後までシャブリナさんにしがみついていたらしく、ついつい意識を失う直前にグッと握るその手に力を入れてしまったんだ。
「ひゃん! やめろセイジそこは優しくしてくれっはあああン」
そうして意識を失った僕は。
気が付けば太鼓腹のデブリシャスさんに背負われてモンスターパレスの外まで運び出されたらしい。
仲間たちの手にはボスモンスータを討伐したという確かな証拠、虎柄マイクロビキニアーマーの破片と金棒だ。
「やっぱあのノッポ女は強かったな」
「だがしょせんはまがいもののボスモンスターだからな、一瞬だけ偽乳に見とれてしまったが、最後には正気に戻ったぜ」
「だがオレも、セイジの代わりに胸の谷間に顔を押し沈めてみたかったかも……」
「フン、あんな幻影の姿などどこまでいっても偽物だぜ。セイジさんなら例えサイズは小さくてもオレさまの本物がいいに決まっている……ぶつぶつ」
ようやく外の太陽を浴びたところで僕は意識を取り戻したんだけれど、ギリギリで砂時計の落ちきる前にちゃんと帰還できたらしいね。
「お、セイジさん気が付いたか?」
「みっみんな、シャブリナさんはどうなった?!」
「あの女は爆発して自滅したからな。手強い女だったが、最後に勃っていたのはセイジさんだ」
「?」
支援職チームの仲間たちに質問をしてみると、ビッツくんが得意満面の笑みでそんな風に解説をしてくれたのである。
爆発反応式鎧が四散して、それでも僕はシャブリナさんにしがみついていたらしい。
迎え入れてくれたゴリラ教官や班の仲間、ドイヒーさんやティクンちゃんは祝福してくれた。
「おめでとう、お前たちは無事に修了検定に合格した事をここに宣言する! 確かにオーガ族の下着を証拠に持ち帰ったっ」
「やりましたわねセイジさん、これで晴れて班のみんな揃ってダンジョンの実地訓練に出かけられますわ!」
「ひと皮剥けたセイジくん、かっこいいですっ」
ちなみに放課後からしばらくの間、シャブリナさんは僕の顔を見る度に顔を赤めて視線を逸らされた。
理由を聞けばこう応えてくれたんだけど。
「せ、セイジにあんな事をされてしまった。これでもうわたしはお嫁になっていけなくなってしまった、もっもちろん責任を取ってくれるなっ?!」
意識を失う間際の僕は、いったい何をしたっていうの?!




