51 修了検定のはじまりです!
キャンプの設営方法から土嚢を使った防御陣地の作り方。
それに調理をしたり支援職のジョブチームだけで戦闘や、解体方法の訓練などなど。
クラス分けをして後期課程の訓練に入ってから、僕は様々な事を勉強した。
朝礼の前の基礎練の時には、シャブリナさんに武器の素振りの指導をやってもらったり。
複数で戦う時のポジションの取り方はドイヒーさんにもアドバイスをもらったり。
ティクンちゃんには応急手当のやり方を、一緒に包帯を巻きながら学んだりもしたからね。
持つべきものは寝食を共にする同じ班の同室メンバー、クラス別授業の後もいっぱいお世話になったんだっ。
僕らは冒険者学校で学んだ技術を確認するための総仕上げ、修了検定に挑む事になった。
「これからお前たちは支援職チームのみでモンスターパレスに挑んでもらう事になる!」
集まった僕ら支援職のみんなを睥睨するのはゴリラ教官だ。
完全武装の冒険者スタイルをキめた僕たちを前に、ひとりひとりの顔を確認する様に教官は言葉を続けた。
「修了検定に合格すれば、いよいよ学外に出て本物のダンジョン攻略だからな」
「待ってたぜ、楽しみでしょうがねぇ」
「馬鹿野郎、慎重にかつ大胆にだぜビッツ」
デブリシャスさんやビッツくんが嬉しそうに身を寄せて僕にそう言った。
「お前たちが最高の冒険者であることを示せ、気合い入れていけよ?!」
「「「やっぱり冒険者は最高だぜ!!!」」」
冒険者であるならば、例え本職ではないにしても一通りどんなポジションでもこなせる技量が求められる。
前衛から後衛に、後方支援までこなせる事ができれば、例え荷物持ちという目立たない職業からでも、上位職にスキルアップするチャンスが訪れるんだからねっ。
練兵場の隅にあるモンスターパレスの前に整列した僕らは、その事を胸に秘めながら訓練の成果をしっかりとゴリラ教官にアピールしようと元気よく返事をしたんだ。
「心なしかセイジさんの表情が大人びて見えますわね。やっぱり一歩一歩、本物の冒険者に近づいているという事かしら。うふふ」
「だといいなあ。僕は相変わらずサブアタッカーとしては戦力が期待できないと思われているみたいだけれど……」
「そんな事はないですわよ? ほら、以前より腕がしっかりとしたつくりになっていますわねえ。剣や鈍器を振り回しても、軸がしっかりなさっていますもの」
「コクコク、セイジくんはわたし好みの痩せマッチョに近づきつつありますっ」
そうかなあ。
自分の変化は自分自身ではなかなかわからないものだ。
確かに言われてみれば毎朝の素振りの時に、モーニングスターを振り回して体が持っていかれる様な感覚は減ったと思う。
「しっかりなさいな! このアーナフランソワーズドイヒーが鍛錬は自分を裏切らないという言葉をお送りいたしますわっ」
「フンフン。あのう、わたしからも勇気の出るおまじない、魔法をかけてあげますっ」
支援職チームだけのモンスターパレス挑戦を前にして。
わざわざ練習の休憩時間に来てくれたドイヒーさんやティクンちゃんに見送られながら、僕はそうだったらいいなという気分になったのだけれど。
いつも僕の事を見守ってくれるシャブリナさんの姿が無い。
こういう時は一番側にいて励ましてくれるんだけどなぁ……
「ところでシャブリナさんの姿が見えないんだけれど?」
「お、おかしいですわね。朝は元気にあなたの世話焼きをしていたはずですのに」
「……そ、そのう。シャブリナさんなら、ここのところ個別授業で謹慎中だと聞きましたっ」
そうなんだ?
まさか先日の野営訓練の時に僕のテントへ夜中に侵入しようとした件が、こんなに大事になっていたなんて?!
それにしてもふたりの様子はちょっとおかしい。
「まぁアレですわ、これもいいお薬になったのではなくって? 抜け駆けをするのはよくないという事ですわ。おーっほっほっほ!」
「コクコクっ」
何だか妙な予感と釈然としない気持ちのままで僕はふたりの班メンバーを見返した。
けれどモンスターパレスへ突入する時間は待ってはくれない。
「おーいセイジさん、そろそろ俺たちの番だぜ!」
「わかったよすぐいくっ」
じゃあみんな後で、と短く同室の仲間に挨拶をすると。
僕は改めて背負子を担ぎながら小走りにチームのところへと走った。
デブリシャスさんとビッツくんに僕。今回はそれに後期訓練で別のメンバーだったひとたちも集まって合同チームでアタックをかける事になった。
「最後に注意をしておく事がある、お前たちはあくまで支援職の寄せ集めだから決定的に攻撃力が不足するだろう。無茶なモンスターは擁していないが、それでも修了検定は全員必須だ。だからこそ大切なのはチームの連携だ!」
「「「はい教官殿!」」」
「注意を向けるのは上下左右あらゆる方向だ、互いに確認を怠るな。またダンジョン内に潜んでいるモンスターは常に人外鬼畜の姿をしているとは限らないからな。例え人間タイプのモンスターに遭遇してもパニックになるな。そしてスライムだ、スライムには気を付けろよっ」
ニヤリとして見せたゴリラ教官に僕たちはゴクリとつばを飲み込んだ。
そうしてメンバー全員が肩を叩かれながら、モンスターパレスへのアタックに送り出される。
「制限時間はこの砂時計が往復して落ちきるまでだ、四半刻あるから落ち着いてボスを倒せよっ。GO! GO! GO!!」
スカウト職を担当するビッツくんがナイフを抜き放ちながら、重たいパレスの扉が開かれると同時に飛び込んだ。
続いて長剣を持ったデブリシャスさん、ランタンや武器を構えた合同チームの仲間が飛び込んだのを見届けて、最後は鈍器を持った僕だ。
暗闇に前進するビッツくんが音頭を取って叫ぶ声が通路に響き渡った。
「スカウト職がただのサブアタッカーじゃないというところを見せてやるぜ! オレ様に続けッ」




