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50 人体には影響がないのに服や装備は解ける謎の液です!

 モンスターの解体訓練の最中、ビッツくんがハイヨルウツボカズラの消化液を顔面からシャワーみたいに浴びてしまったからさあ大変だ。

 貧民街出身の彼女の事だから、一張羅だったというなけなしの衣類や装備を失って時は大騒ぎになった。


「おげぇ! オレの装備が、オレ様の装備が溶けていくぅ」

「それよりビッツくん服がヌル透けべっちょり溶けている方を気にした方が?!」

「水だ、水を持ってこい。頭から被せて人体には影響がないのに服や装備は解ける謎の液を流すんだ!!!」


 訓練をしていた学舎の中庭で、僕らは右往左往走りばわっての大騒ぎ。

 ゴリラ教官があわててブリキのバケツにたっぷりと入った水を持って来たところで、僕は急いで受け取りながらビッツくんの頭からそれを浴びせかけた。

 泣きべそをかいている彼女にこんな事をするのは、正直何だか気が引けるのだけれども。


「今は躊躇している場合じゃねえぜ! せめてこいつの大事なナイフだけでも守ってやらないとっ」


 太鼓腹のデブリシャスさんはそう言って、次から次にバケツリレーで運ばれてくるそれを僕に預ける。

 そうして僕は盛大に、次から次に泣き叫んでいるビッツくんに浴びせかけ続けるのだ。


 結果、ビッツくんは来ていたタンクトップみたいな服が台無しになって、溶けかけ透けかけの下着一枚の姿になってしまった。

 肝心のナイフについては、一応何かの魔法的なコーティングでもされていたのだろうか。あるいは水を浴びせかけたのが早かったので間に合ったのか。

 表面が軽く溶けかけただけで事なきを得たのだけれども……


「よ、よかったねビッツくん。人体には影響がないのに服や装備は解ける謎の液の被害は最低限で、きみの大切にしていたナイフはまだ何とか使い物になりそうだよ」

「セイジさん。セイジさん! うわあああっ」


 人体には影響がないのに服や装備は解ける謎の液によってドロリと溶解した衣類が、あられもない姿の年頃少女にへばりついている姿は……

 ほんのりと膨らんだ丘陵の先端につぼみがあった。

 水をぶっかけられて寒かったのだろうか、そのつぼみは隆起していてさくら色に眩しく印象的だった。


 男の子の様に見える彼女の、女らしいそんな姿に。

 言葉に出来ない罪悪感を覚える卑猥さ、そしてどこか庇護欲をそそる様な気持ちがないまぜになって、僕のハートにジャストミートしたのである。


「おっオレは何もかも失っちまった。服も装備も……」

「だ、大丈夫だよ。ナイフもあるし、僕も側にいるから。ナイフ一本から冒険者になっておちんぎんを稼げばいいよっ」


 抱き着かれて。不謹慎だけれど、僕のおちんぎん以外のところが反応したんだ。


「みんな落ち着け! 持ち場に戻れっ。セイジ訓練生はビッツ訓練生を救護室まで連れていく様に。体に影響はないはずだが状況は説明してくれ」

「は、はいっ」

「眼の戦場だけは救護室の担当者にしっかりお願いしておくんだぞ。よし、他のみんなは引き続き次の解体に取りかかれっ」


 はい、教官殿ッ。

 元気よく返事をしている支援職クラスのみんなを残して、学舎の離れにある救護室に連れて行くことにする。

 さすがにパンツ一丁で連れて行くのは僕も大人としてよくないと思った。

 取り急ぎ自分のチョッキを脱がせると、ビッツくんにこれを着る様にと差し出す。

 濡れ透けパンツの向こう側に薄っすら見えるお毛々はアッシュグレーだった。

 見てちゃ駄目だ、見てちゃ駄目だ……


「あ、ありがとうセイジさん。やっぱりセイジさんはいいひとだな……」

「いっいや、これしきの事。さあ救護室に行こうか。保険の教官がいるはずだから、眼を洗ってもらって体に残った消化液や溶けた衣服の残骸も綺麗にしよう」

「う、うん。だけどよ、オレあんまり替えの服は持ってないし。装備なんかまさに一張羅だったんだぜ……」


 普段から安物のサンダル履きに、ちょっとした冒険者の小道具やポーチをベルトに装着していたビッツくんである。

 けれどもそれが彼女の持ち物の全てで、それらは残念ながら溶解してしまっていた。

 ナイフはほぼ無事だったと言ったけれども、それだって皮でできた鞘はもう残っていない。


 トボトボと歩く彼女と並んでみると、僕とほとんど身長の変わらない事を改めて思った。

 僕はいい大人としてはかなり小柄な方だからアレだけど、ともすれば僕よりも少し視線の位置が低い彼女の肩が、時折僕に触れてドキドキだ。


「何だいセイジさん?」

「な、何でもないよ気にしないで。替えの服とかし、下着とか。班の仲間に聞いて貸してもらえないか聞いてみるよ」

「ありがとよ。いつかこのお礼は返すけど、オレ貧乏だからすぐにはお返しできない。か、体でいつか返すからよっ」


 か、体だって?!

 僕は過剰反応してしまったけれど、ビッツくんの表情は真剣そのものだ。


「冒険者訓練学校を卒業して、もしオレの助けが必要になった時はいつでもパーティーの応援に呼んでくれよな。セイジさんならおちんぎん無しでお手伝いするぜ」

「あ、そう言う事か。そりゃそうだよねっ」

「ん?」


 何だろうこのドキドキ。

 ひとが弱っている時にこういう事をするのはよくないからもちろんしない。

 僕は自分を制御できる立派な大人だったはず!


 などと脳内で妙な妄想を繰り返している内に、僕らは救護室の前に到着した。

 コンコン、ギィ……


「すいません、誰かいませんかあ? 保険の教官はいませんかあ?」

「今ちょうど保険の教官は席を外しているのです。扉は空いているのでどうぞ入ってくださいっ」


 救護室の奥の方から、何だか聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。

 どうやらくぐもったその声の主は、授業の一環で回復職の医療福祉活動に参加していたティクンちゃんだったらしい。


「おう、入るぜ。って何だ小便垂れの小娘か」

「ひっ全裸?!」

「全裸言うな、全裸! オレ様のどこをどう見たら全裸だって言うんだ。ああん?」


 セイジさんから借りた立派な貧民チョッキを着てるじゃねえか!

 水に塗れて透け透けパンツのビッツくんが、僕の貸したチョッキの襟を引っ張って自己主張した。

 すると例によってティクンちゃんは、ビクンビクンと驚きながらビクついているじゃないか。


「保険担当の先生はどうしたんだよ」

「き、教官は街の診療所に無料検診で出かけているの。わたしは今日が居残り当番だったので……」


 チョッキを脱ぎながら治療しておくれよと仁王立ちになるビッツくん。

 さっきまでのションボリ様はどこかに鳴りを潜めて、急に横柄な態度で救護室の中をグルリと見回す。

 半裸だけど。ほぼ全裸だけど。


 どうやら彼女は気の弱そうな人間を前にすると、ついつい強気の態度に出てしまうタイプの女の子だった。

 きっと貧民街では常にお互いにマウンティングをする事で、力関係を確認する様な風習でもあったんだろうかな。


「肝心な時に使えねえなあ。お前本当にヒールとか使えるのかよ。どうなんだよ?」

「できます。セイジくんが何回目でもビュっと出せる様に、毎日ヒールの訓練に励んでいますっ」


 わけのわからない事をティクンちゃんは口走っていたけれど、そんな事より治療が先だ!


「実は植物系モンスターの解体実験で、人体には影響がないのに服や装備は解ける謎の液をビッツくんが頭からかぶってしまったんだ」

「人体には影響がないのに服や装備は解ける謎の液を頭から被ってしまったんですか? だからドロリとろけた白濁液が、ビッツちゃんの体にこびりついていたんですねっ」


 人体には影響がないのに服や装備は解ける謎の液、ちょっとイカ臭いかもです……

 鼻をつまんで見せながら、おずおずとティクンちゃんがビッツくんを観察した。


「とにかくビッツくんの眼に人体には影響がないのに服や装備は解ける謎の液が入っているかも知れないので、聖なる癒しで洗浄してくれないかな? ほら、ビッツくんも立ってないでそこに座って! これから治療をしてもらうんだからちゃんとしないとっ」


 どうにかふたりを宥めすかせて、ビッツくんの健康的な体にへばりついたぬるベチョ液体をふき取って。

 洗浄を済ませる事にした。


 ちなみに数少ない着る物や装備の類を失ってしまったビッツくんである。

 その後、訓練生のみんなからお下がりで色々なものをわけてもらった結果、むしろ以前よりも見た目も立派な冒険者風の姿になってしまった。


「おお、ショートブーツかっこいいな! 何か冒険者っぽいぜっ」


 それから下着のサイズがほぼ一緒だからという事で、ティクンちゃんからもらったらしいけれど。

 購買部で流行っていたデザイン。例のヤツだ……


「どうだセイジさん、オレ似合っているかな?!」

「すごくマイクロビキニです……」


 くるりと回ってお披露目をしてくれたけれど、彼女のささやかな胸の隆起を隠すそれは、全裸よりもむしろエッチに見えるのは何故だろうか。


「もし装備で足りないものがあったら、僕のおちんぎんを貸してあげるよ」

「気を遣ってくれて悪ぃなセイジさん!」

「そのう、でもおちんぎん以外のナニを貸してあげたらだめですよ。セイジくんっ」


 そんなの貸さないよ?!

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