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49 解体します!


 冒険者になって僕が一番嫌な思いをしたのは、たぶん解体作業だろう。


「うわあ、これの皮を剥いで持ち帰らないといけないのか!」


 車座になった支援職の僕らの前には大きなシートが広げられている。

 その上にはダンジョンによく生息しているという巨大な蛇の死骸が転がっていた。

 解体用の手引書と見比べながら、僕らは後期訓練課程の一環として獲得部位を処分しなくちゃならないのだ。


「セイジさんセイジさん!」


 すると意外にも平気な顔をしたビッツくんが、ナイフを弄びながら手招きするじゃないか。

 とても嫌な顔をして何だろうと僕が近づいてみると、ニコニコ顔のビッツくんがナイフを大蛇に突き立ててこう質問した。


「こいつを見ておくれよ。これをどう思う?」

「凄く、グロテスクです……」


 突き立てたナイフを走らせて、蛇皮に切れ目を入れてみせる。

 そのままクパァと皮を御開帳して中身の部位を示すのだ。


「キモいけどさ、この部位がなかなかの金になるそうじゃないか! このマダラパイクってモンスターはよくダンジョンに住み着いているんだろ?」


 もうオレ、これからは蛇を見るたびに金目のものにしか見えないかもしれねぇ!

 嬉しそうに皮の中に手を突っ込んだビッツくんは、マダラパイクと呼ばれる大蛇の内臓から宝石みたいな色をした石ころを取り出したのである。

 

 太鼓腹のおじさんデブリシャスさんが手引書片手に解説してくれるところによれば。

 この大蛇結石という一見すると宝石みたいに見えるそれは、体内に魔力か何かを取り込む事で成長する結晶なのだそうだ。

 何か薬物的な効能とか魔力的な効力があるわけじゃないけど、単純に美しいので好事家の間で宝石として取引されているらしい。


「大蛇の宝石とか大蛇の結晶とか言われているけど、それがマダラパイクの内臓部分に溜まっているなんて聞いたら興ざめだぜ……」


 ビッツくんに大蛇結石を押し付けられた太鼓腹のデブリシャスさんは、とても嫌そうな顔をしてそう返事をした。

 ドロっとした血や体液まみれなので、とても気持ち悪い確信。


 それからマダラパイクの首をみんなで強力して切り落とす。

 強力な斧で強引に首の骨を切断した後は、皮を引っ張りやすい様に切れ目を入れる。

 後はみんなで肉から皮を引っ張って剥がすんだけど、これがもう最悪だった。


「みんな、力を入れて全員で引っ張るぞ。せぇの! せぇの!」

「ぬ、ヌメヌメしてるしベトベトだ。後すごい力任せで引きはがすんだねッ」

「おいデブリシャス、腰が入ってないぞ!!」


 マダラパイクの皮は防具の装備や楽器の一部に使われたりもするらしいので、慎重にね!

 こんな感じで綺麗に遣える部分を解体されてしまったマダラパイクである。

 使い道のないお肉の方は、煮ても焼いても食えないという事で細かく裁断された後に養殖スライムのエサにされた。


 次にゴリラ教官が解体作業を指示したのは、ハイヨルウツボカズラという食虫植物がモンスター化したやつだった。

 見た目は何だかよくわからない背の高い雑草という感じだろうか。

 穂の様な実の様な房がテッペンにあるんだけれど、これがハイヨルウツボカズラの口にあたるんだとか。


「ハイヨルウツボカズラは、ダンジョン内の植生として稀に良くみられる一般的な植物だ。大きな壺状の大口の中には、モンスターを溶かす消化液がたっぷり入っている。」

「「「はい、教官どの!!!」」」


 ゴリラ教官は横たわったハイヨルウツボカズラの壺を持ち上げて説明を続ける。

 ちなみにこれはサンプル用の大きな個体だそうだ。


「壺状の大口の中には、消化しきれなかったモンスターの貴重な部位などが残っている場合が多い。この植物を見つけた場合は行き掛けの駄賃だと思って採集し、解体するといいだろう」


 ハイヨルウツボカズラは植物の癖に、自分の意思で徘徊する系のモンスターだ。

 迷宮内に生息している蛇やカエルなどの小動物はもとより、スライムやコウモリ系モンスターとか、インプも食べてしまう食欲旺盛な子なんだとか。


 ただし人間たちがダンジョンに入ってくると、普通の植物に擬態しようとする。

 擬態しても、自然洞窟系のダンジョンじゃなければ見てくれが気持ち悪い植物だし、壺状の大口があるからすぐに発見できるんだけれどね。


「この様に、壺の下側から刃物を差して消化液をまず抜き取る。お前たちもやってみろ」

「ふむふむ」


 僕たちに支給された解体練習用のハイヨルウツボカズラは、教官が手にしたサンプルよりもかなり小型だ。

 大人と子供くらいの差があると言ってもいいかな?

 とりあえず持ち上げて、言われるままに下から壺の大口にナイフを突き立てる。

 するとショビジョバと消化液が垂れた。いい感じだ!


「ちなみに。どういうわけか消化液そのものは人間には無害だが、」


 ゴリラ教官が何かを言いかけたところで、ビッツくんは舌なめずりをしながらナイフを勢いよく突き立てた。

 突き立てたんだけれど、次の瞬間にプシャーと消化液が壺から噴出するじゃないか。

 ビッツくんはたまらず顔面から白くてドロドロした液のシャワーを浴びた。


「キャア! ちょっと飛びすぎッ」


 ボーイッシュな顔に不似合いな悲鳴を上げて、顔面シャワーを浴びたビッツくんが盛大な悲鳴を上げたのだ。

 急いで顔をベチョベチョにしたビッツくんに僕や太鼓腹のおじさんが駆け寄ったけれど、


「無害だが、装備や服が解けるという謎の現象があるので注意する様に……と警告するつもりだったが」


 ゴリラ教官の警告は手遅れだったよ……


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