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45 ダンジョン飯はいいぞ!

 午前中に行われるの支援職クラスの総仕上げは、お昼ご飯の用意をする事だ。

 いつもなら食堂で給食口に並んでパンや料理を配給されるからね。

 だけれど、実際のキャンプみたいに僕らが集まって料理をするんだ。


「寄宿舎じゃ、坊主の部屋では誰が料理番をしているんだぜ?」

「メインディッシュはシャブリナさんが、パンはドイヒーさんが担当で、ティクンちゃんはサラダとかスープですかね」

「ノッポの姉ちゃんは意外に料理が出来るのか」

「騎士団では当番制で料理をするらしいですよ。それにシャブリナさんの作る料理は、すごく本格的なんです」


 僕とビッツくんがそんな会話をしていると、ニヤニヤした顔の太鼓腹おじさんが口を挟む。


「なるほど坊主はいい嫁さんを捕まえたな!」


 僕とシャブリナさんは相棒(パートナー)だけど、人生の相棒になったわけじゃないから……

 強いし頼りになるし、料理も出来て世話焼きで素敵な美人少女だと思うよ。

 本人は女の子の割りに背の高すぎる事をちょっと気にしているけれど、冒険者としてなら役に立つと思う。

 それに力持ちなのも、騎士や冒険者なら悪い事じゃない。


「一方、クソガキの方はまるで駄目だな……」

「うるせぇ! スカウトなんだから料理スキルはオマケなんだよ!」

「そこを行くと坊主もなかなか上手だな」

「ひとり暮らしをしていたのかな、最低限なら料理はできる気がするんだ」

「セイジさんずっこい。オレのために将来は毎日スープを作ってくれよなっ!!」


 包丁で芋の皮をむいていたビッツくんは、大きな声で不平を漏らした。

 いびつで不揃いな切り口だけれど、彼女も必死なんだからあんまり言っちゃかわいそうだ。

 必死の形相で汗を垂らしている彼女も、案外かわいらしく見えた。

 いいね!


 しかし、僕らが支援職として一連のスキルを身に着けるのはわかる。

 ダンジョン踏破のために踏み込んでいる間、パーティーのメンバーは基本的にあまり評判の良くない携帯食料を口にしながら戦うからだ。

 休憩交代のためにベースキャンプに引き上げてきた時ぐらい、美味しいご飯を食べてもらいたいからね。


 僕らは支援職だから、戦闘職のみなさんに元気を付けてもらうのもお仕事だ。

 いつもシャブリナさんやドイヒーさんに美味しい料理やパンを作ってもらっているから、その恩返しってわけさ。


 けれども。

 そのためのトレーニング中の今、どうして女教師風なインギンさんがニコニコ顔で巡回しているんだろうね?

 

「別にこのくらいの訓練なら、訓練学校のゴリラ教官だけでできると思うんだけど……」

「いいじゃねえかセイジさんよう。オレたちの事を見て、これはと思う冒険者をスカウトしてもらえるチャンスだぜ!」

「ば、馬鹿。喋りながら包丁を振り回す奴があるか!」

()でぇ!」


 僕の疑問にビッツくんが応えてくれたところで、背後からゴリラ教官がビッツくんの耳を引っ張った。

 可哀想なぐらいシュンとした彼女は、あわてて大人しく縮こまってしまった。


「ここだけの話だが、インギン姐さんは青田刈りのためにここに顔を出しているんだ」

「あおたがり……?」

「そう、青田刈りだ。今はどこの冒険者ギルドも人手不足だからな。賃金が安い、仕事が辛い、ダンジョンは危険だと、最近は冒険者になりたがるやつがいないのさ」

「「「…………」」」


 僕たちのチーム三人は互いに顔を見合わせた。

 冒険者は最高だぜ! と僕らに言わせているゴリラ教官だけれど、最初に聞いていた話とずいぶんと状況が違う本音がボロリと出てきたもんだ。


「……冒険者は最低だな」

「も、もちろん辛いのは最初の内だけだ。ダンジョンアタック中は何日も風呂に入らないから臭いし痒いし、たまに大怪我をする事もあるが、それでも慣れれば痒いのなんてどうって事はない」

「オレこれでも女子なんで、臭いのと汚いのはパスなんですけどぉ」

「あのパッと見は美人のインギン姐さんだって、若い時は何日も風呂に入らない事はあったから、問題ない!」


 そういう問題なんだろうかと、ふたたび僕らが顔を見合わせた。


「しかし成功すれば英雄だ。勇者パーティーに選ばれれば並みの冒険者の五倍は賃金を貰えるし、」

「おちんぎん五倍!」

「ダンジョンに入っている間は特別ボーナスもつくからな」

「ボーナスおちんぎん?!」

「そうだ、特別な賃金が追加される。まあセイジ訓練生は賢者の卵らしいから、他の連中と違って冒険者になれば特別手当がつくからな。ビッグなおちんぎんってわけだ」

「ビッグなおちんぎん!!!」


 だから冒険者が最低なんてことはないぞ。

 などとゴリラ教官に頭をわしわしやられたもんだから、僕の髪の毛はくしゃくしゃになってしまった。


「ま、ビーストエンドは比較的新参の冒険者ギルドだから、アタッカークラスの授業やヒーラークラスの授業には割り込めなかったという事情もある」

「それと、坊主さえスカウト出来れば、ノッポの女やパン屋の看板娘に、ジョビジョバ少女もセットでついてくるからお買い得というわけですね、教官どの」

「その通りだデブリシャス訓練生。しかも今ならビッツ訓練生もついて来そうだからな」

「?」


 ちょっと下品な笑いを浮かべたゴリラ教官と太鼓腹おじさんが、顔を見合わせて嬉しそうにしていた。


「べ、別にオレはセイジさんを利用して成り上がってやろうと思ってるだけなんだからなっ」

「……ビッツくんは僕を利用しようとしているの?」

「してない、そんな事をするつもりもない。それは言葉のあやだから、本気にしないでおくれよセイジさん。なあオレたち兄弟だろ?!」


 あわてたビッツくんの反応を見て、ますますおじさんたちは大笑いした。


「アンタたちは料理の邪魔だからアッチにいってておくれよ! セイジさん手伝ってくれっ」

「わかった。鍋のふたを開ければいい?」


 ちょうど煮立った寸胴鍋に、ビッツくんが野菜を放り込んだ。

 やがて時間がたつとお鍋の中は、彼女の赤い顔と同じ様な色味が具材から出てきて、ボルシチが美味しくできあがった。


 ちなみに午前中、他のクラスにわかれたみんなが何をやっていたかというと。

 シャブリナさんたちは巨大モンスターのペットを使って、狭い場所での近接戦闘を行う訓練。

 ドイヒーさんたち遠距離アタッカーのみんなは、魔法の連続射撃をする訓練。

 それからティクンちゃんたちは、ブンボンの街の診療所に出かけて医療技術の研鑽に励んでいたみたいだ。


 クタクタになった三人は正午を迎える頃に、練兵場に戻って来たのだ。


「セイジ、貴様の作った料理はどれだ?!」

「きゃああああ、何ですのイビツでゴツゴツして石ころみたいな塊は、これがパンだなんてわたくし認めませんのよ?!」

「あのう、お食事の前におトイレに行って来てもいいですか……?」


 いつもの顔ぶれを見た僕は、ほんの半日ぶりにも関わらずちょっと嬉しくなっちゃった。


「お帰りみんな、美味しい料理ができたからゆっくり食べてね!」



本日よりコミケ参加のため上京します。

しばらく更新が不定期になり、読者さまにはご不便をおかけします。

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