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44 テントを張ります!


 僕は土を掘り起こしていた。

 具体的に言うと、練兵場の端っこでショベルを持って土を掘り起こす。

 そしてそれを別のひとが持っている麻袋に詰める。

 簡単で、単純な作業を繰り返していたんだ。


「オレたちゃ泥んこ遊びをするために冒険者になったんじゃねえ!」


 麻袋にタップリの土を詰め終わったところでそれを縛り上げながら、ビッツくんが大きな不満を口にしたのである。

 痩せた少女のビッツくんが不平を口にしながら、それを担ぎ上げる。

 もう何度となく繰り返している作業だけれど、インギンさんに支持された場所に僕たちはそれを運ばなくちゃいけない。


「おらサボってたらあの砂時計が落ちきって、最初からやり直しになるだろうっ」

「わかってるぜ。けどよう、この作業と支援職の授業に何の繋がりがあるんだ」

「それがわかれば誰も苦労はしないんだよ。サボってるのが見つかったら、インギンさまにお仕置きされるぞ」

「ヒッ」


 太鼓腹のヒゲモジャおじさんにどやされて、ビッツくんはフラフラしながら麻袋を運んだ。


「しかしゴリラ教官が言った通り、鬼みたいに厳しいひとだなビーストエンドのギルマスはっ」

「デブリシャスさんこそ、それを聞かれたらあの鞭でしばきあげられますよ……」

「坊主はいいじゃねえかよ。俺たちゃみんな土運びをさせられてるが、お前ぇは土を入れるだけ。優遇されてんじゃねえのか?」

「僕は指示された事を黙々とやっているだけですから!」


 土を掘り起こすのだって大変なんだよ?!

 華奢で小柄だから、大仕事なんだっ。


 遠くで支援職クラスの訓練生を監視しているインギンさんが見えた。

 手には教官用の鞭とかいうのを手に持っていて、ビシバシと練兵場の地面を耕し僕らを脅かして見せる。

 その扱いは正確で、まるで奴隷を使役する女主人みたいに見えるから不思議だ。

 女教師の設定はもうなくなったんだろうか……


「教官どの、質問です!」

「ビッツ訓練生。質問を許可するわ」


 作業の途中でどこからかそんな声が聞こえた。

 誰かと思えばビッツくんだ。大きく挙手をして、インギンさんに勇気を振り絞ったのだ。


「こ、この重労働に何の意味があるのでしょうかッ」

「いい質問ね。ダンジョンの中には様々な罠が設置されている場合があるわ」

「……」

「麻袋に土を詰めて土嚢を作る作業は、例えば、洪水が起きる罠の仕掛けられているダンジョンで有効よっ」

「どう必要になるのかオレにはわからねぇです教官どの!」

「もし洪水が起きる部屋の扉を引き当てた時、急いで土嚢を用意して水漏れを防ぐ。そういう作業の指示をするのが支援職の役割というわけね」

「…………」

「その他にも通路を歩くだけで罠が作動し、矢が飛び出してくる廊下の仕掛けなんかも存在するわね。そういう場合は土嚢を使ってバリゲードを設置し、安全地帯を確保するなんてこともあるわっ」


 な、なるほど。

 いざという時に麻袋に土を詰めて土嚢を作る手順を知らなければ、そういう応急処置ができないかも知れないね。


「……本当ですかゴリラ教官どの?」

「い、インギン先生が言っている事は本当だ。優れた冒険者とはオールマイティじゃなきゃいけないからな、ビッツ訓練生も励む様にっ」

「は、はい。教官どの!」


 教官にそう諭されたビッツくんは、背筋を伸ばしていそいそと土嚢袋を運び出した。

 見るからに少年然としたビッツくん(女)だけれども、肉体労働をしているうちにますます少年みたいな骨肉になりそうだね。

 よかったね?


 さて土いっぱいの麻袋を運んだりする作業が終わった後は、それを使ってバリゲードの組み方を勉強した。

 ただ積み上げればいいというわけではないらしい。

 厚みはどれぐらいにすればいいか、レンガ組みの様に上段は下段とズレるようにとか。


 そういう事をインギンさんに指示されながら午前中が終わりかけると、今度は野営のやり方を教えてもらう事になる。


「支援職のジョブ持ちである冒険者諸君は、料理を担当する事も多いわっ。アタッカーなんかの戦闘職が疲れて休憩をする際は、アナタたちがそれをしっかりサポートするのよ!」

「「「はい、インギン教官どのっ!!」」」


 ダンジョン内部で野営をする時は、基本的に屋内だ。

 けれど実際にダンジョンに向かう道中や、ダンジョン入口に設営されるベースキャンプの場合は、たいてい天幕などを持ち込んでテントを張ることになる。


「それらを準備し実際に運営するのも支援職の仕事だからな。インギンオブレイ先生の言葉をしっかり守る様に」

「「「わかりました、教官どの!」」」


 やりにくそうにしているゴリラ教官の言葉で、僕らは一斉にテント設営を開始した。

 杭を打ち付けて骨組みを立て、そこに天幕を張る作業は大仕事だ。

 僕みたいな小さいおじさんには大変なので、途中でビッツくんを肩車して高い場所の作業をやってもらった。


「おいセイジさん、あんまフラフラするなよな」

「で、でもお尻をムズムズ動かされるとバランスを取るのが」

「わっわざとやってんじゃねえ。お股のすわりが悪いから苦戦しているんだよっ。ちょ何で前かがみになるんだ、ジットしてろよな!」


 ホットパンツ姿のビッツくんが動くと、お尻や太ももの感触が首や頬を刺激した。

 男の子みたいな格好だけど意外に太ももは柔らかくって、僕はたまらず前かがみになっちゃうのだ。

 こうして立派なテントを張り終える頃には、僕のお股もテントを張ってしまっていた。


「ば、馬鹿っ。オレみたいな女に何興奮しているんだセイジさん?! でも嬉しいぜっ……」

「ごめんよビッツきゅん。って、今何て言った?」

「何でもねぇ!」

セイジさんのお股もテント設営完了です!

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