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43 それは素敵な再会です!

 ふと教室移動をしていた時に僕は気が付いた。

 もしかすると冒険者訓練学校に入ってから、はじめて班のみんなと別行動を取っているかも知れないと。

 普段ならば寝起きも寄宿舎で班毎にまとまってしているし、授業も食事も、


「お風呂まで僕たちは一緒だったからね……」


 年頃の女の子たちと裸を見せ合って洗いっこしている。


 シャブリナさんのたわわなお胸がどれだけ大きいか僕は眼の前で目撃した事がある。

 背中をヘチマのタワシでゴシゴシするたびに、暴力的に激しくそれは揺れた。

 裸のままで下着を洗っている時も、ゴシゴシするたびに左右に暴れるんだ。


 ドイヒーさんはいつも何故かお尻から洗いはじめる不思議なひとだ。

 安産型なお尻の大きさはシャブリナさんにも引けを取らないプリンプリンだ。僕も大好きだ。

 髪の毛を洗う時はシャンプーハットを付けているのは班員だけの秘密らしい。


 ティクンちゃんはいつもお股から洗いはじめるけれど、それより僕をマジマジ見て来るんだ。

 そんなに貧相なおじさんの体を毛の生えた少女に凝視されると、おじさんなんだかおちんぎんをあげないといけない気になるよ……


 こうして並べてみると、何やら犯罪めいた響きがそこにあるけれども……

 僕は三十路のおじさんだから分別ぐらいはあるよ。

 本当だよ!


「でも見るなって方が無理だよね。チラチラ見ちゃうのは仕方がない事なんだ」


 僕は自分自身に言い聞かせつつも、絶対に手を出して官憲のお縄にならない事だけを心に誓った。

 見た目は子供みたいに言われる僕だけど、大人の良識はあるよ!


「ここが支援職の教室かぁ」


 僕は訓練学校の校舎の突き当りまでやって来て、中を覗き込んでみた。

 すでに授業開始を待つために集まっていた熱心な訓練生の姿もチラホラと見受けられる。

 黒板には何かの文字が大きく書かれていたけれど、たぶん支援職の教室とか書いてあるんだろうな。


「隣、いいかな?」

「おういいぜ。お前は確かノッポの姉ちゃんの班だったか」

「セイジだよ、よろしくね」


 とりあえずヒゲモジャのおじさんの隣が空いていたので着席した。

 確かこのヒゲおじさんは、戦士の格好をして入学時の攻撃力測定をしていたはず。

 けれども支援職にいるという事はどういうんだろう。


「ああ、それなら俺は年齢も年齢だし戦闘職は向いてないと言われたのよ」

「ええと、それはご愁傷さま?」

「それよりも年の功ってやつで、その知恵を生かして支援職をやった方がいいと教官どのにアドバイスをもらったわけだ。適材適所、それが冒険者の在り様だ。むしろ誉だな!」


 そう説明してくれたのはあのゴリラ教官らしいけれども。

 聞いていれば上手い具合にこのヒゲおじさんは言いくるめられた様にしか、僕は感じなかった。

 大きくせり出したお腹は、確かに戦闘には向いていなさそうだ。


「よく言うぜ、その腹はいったいぜんたい妊娠何か月なんだよ。ん?」


 すると背後からそんな言葉が投げかけられる。

 ふたりして振り返ると、そこにはビッツくんが髪をかき上げながら僕たちをニヤニヤしつつ見比べてるじゃないか。


「あ。あれビッツくん?! どうしてここに……」

「セイジさん。オレのジョブであるスカウト職ってのは、、戦闘から支援まであらゆるスキルを持ったマルチなアタッカーなんだぜ。それよりデブリシャス、手前ぇは出産でもしてもう少し痩せた方がいいんじゃねえか?」

「ガッハッハ、残念ながら俺は姑獲鳥(うぶめ)だから、何年たっても子供は産まれないのよ!」


 ポンとお腹を叩いて快活に笑ったおじさんである。

 ネタに出来る程度にはおじさんはお腹も懐も大きな人物らしいや。


「そ、そうですか。凄いですね……」

「まあ坊主も三十路を超えれば腹が出てくるってもんだ。それまではせいぜい今のボディを堪能するんだな!」

「セイジさんがそんな姿になるわきゃねえだろ! 何てったって貧民街のヒーローだからな、貧乏人すぎて太るという選択肢はないんだぜ。ハハン!」


 ビッツくんが庇う様に僕の肩に手を回しながらそう言ってくれた。

 貧乏だから太るはずがないという論はとても寂しい……


「貧乏人だって、年を取ればデブるやつもいるんだ。俺がそうだから保証するぞ坊主?」

「ぼ、僕もすでに三十路だから、そろそろお腹がポッコリ……」


 悲しい顔をして僕がお腹を撫でていたら、ちょうど授業開始のタイミングがやってきたらしい。

 パンパンと手を叩きながらいつものゴリラ教官が入って来たのかと思ったら。

 違った。


「何? アンタたち揃いも揃ってシケた面ばかりしちゃって。授業開始だから全員起立ッ!」


 それはちょっと女教師風の格好をしたインギンオブレイさんだったのである。

 女教師インギンさんは言いました。


「あたしの名前はインギンオブレイよ。今日はアンタたちを相手に支援職の何たるかを講義してあげるから、よろしくねっ」

「こ、こちらのインギン姐さん……じゃなくてインギンオブレイ先生は、冒険者ギルド《ビーストエンド》のギルドマスターをしているお方だ」


 まるで召使の様にインギンさんの後を付いて入って来たゴリラ教官だ。

 その彼が冷や汗をかきながらそんな説明を飛ばしたところで、教室の中が騒然となった。


「い、今ビーストエンドって言ったべ?!」

「あれか、この前ダンジョン初踏破を成し遂げた英雄パーティーのところだぞ」

「それってセイジさんが大活躍したところだろ?! 何だあの色っぺぇ女性、セイジさんの知り合いなのか羨ましいぜ」

「そんなひとが何でこんなところに……」


 みんなもインギンさんがツンとした表情で癖っ毛をいじりながら教壇に立つと、感嘆の声を漏らしたのである。

 そしてそのインギンさんが色気たっぷりに、僕に目掛けてウィンクひとつ飛ばしたのだ。

 坊や先日ぶりね、と。


「さてと、アンタたちにはさっそくやってもらいたい事があるわ」

「はい、教官どの!」

「みんな教室を出て練兵場に向かってちょうだい!」


 女教師風の格好をしたインギンさんがパンパンとふたたび手を叩いて、僕らに指示を飛ばす。

 何が起きるんだろうとドキドキしながら、ビッツくんや先ほどの太鼓腹ヒゲおじさんとともに顔を見あせながら指示に従った。


「支援職の授業は座学メインだと思ってたんだけどなあ」

「オレは文字が読めないから、座学より実技の方がいいぜ。それにしてもビーストエンドのギルマスと顔を合わせられるなんて最高だな。セイジさん、後で紹介しておくれよなっ」

「いいけど、いきなりダンジョンの最深部に放り込まれるかもしれないよ……?」

「むしろ願ったり叶ったりだぜ!」


 そんな私語を繰り返しながら廊下を歩いていたら、ポカリとビッツくんが頭をはたかれた。


「あいでぇ、誰だオレ様の頭をしばきあげたのはっ」

「ご、ゴリラ教官?!」

「馬鹿もン。インギン姐さん……じゃなかった、インギン先生に見つかったら私刑に処されるぞ」


 そう言えばゴリラ教官とインギンさんは、ふたりが以前所属していたギルド時代からの顔見知りだったはず。

 後輩でいつも面倒を見ていたとインギンさんも言っていたし、この態度を見ればそれも頷ける。


「セイジ訓練生は知っていると思うが、姐さんは恐ろしいひとだからな」

「そうですか? おちんぎんも弾んでくれたし、面倒見のいいひとだと思うけど……」

「いったい何を騙されたらセイジ訓練生はそんな事を口にするんだ?!」


 信じられないものを見る様に僕の顔を覗き込んだゴリラ教官だ。

 けれどもそんな姿が見つかってしまった教官は、背後からやってきたインギンさんにビクリと背筋をしならせて振り返るのだ。

 その姿がまるでティクンちゃんみたいだったから、僕はたまらず笑いそうになった。

 きっとしわくちゃの顔をしていたから、ビッツくんが不審な表情をこちらに向けたのだと思う。


「いったい誰が恐ろしい女だって言うのかしらねえ?」

「違うんです姐さん、インギンオブレイ教官は一見コワモテな表情だけど、クルービューティーなレディーだと話しておりました!」

「ふうん。そうなの坊やたち?」


 あわてて僕とビッツくんと太鼓腹おじさんは直立不動の姿勢をとって、コクコクと何度も首を縦に振った。

 すかさずゴリラ教官が冷や汗をぬぐいながらこう言った。


「インギンオブレイ教官は最高だぜ! 復唱ッ」

「「「最高だぜ!」」」

ソロプレイ中のセイジさんです。

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