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41 はじめての鈍器体験です!

 手に馴染むかどうかは武器選びの基本らしい。

 ビギナカロリーナさんの選んでくれたそれぞれの鈍器を《鈍器豊亭》の奥にある試し場の立ち木相手にビシバシとやってみる。


「えいっ、えいっ。ひゃん?!」

「馬鹿者ッ。憎いアイツを殴り倒すぐらいのつもりで、この様にして武器を振るうのだ。死ね、死ねッ!」


 どうだ参ったかと言わんばかり、メイスに振り回されていたティクンちゃんの背後から動きを補正するシャブリナさんだ。

 さすが騎士見習いのシャブリナさん、指導がとても適格だ。

 問題は、ちょっと過激なかけ声がセットになっている事だろうか。


「えいっ、どうですか?」

「ふむ、もっと力強くだ。まだまだっ」


 一方のドイヒーさんは硬くてツヤツヤして赤黒いステッキを試し場に持ってきている。

 魔法使いに属するひとは魔法の発動体を手にしないと上手く魔法が使えないらしい。

 だからこのステッキも魔法発動体を兼ねた鈍器というわけだ。


「金属の棒きれの様に見えますけれども、先端のこぶが打撃武器を兼ねているのですわ」

「なんかトンカチみたいな形状をしているもんね。これをどうやって使うの?」


 持ち手のところが金槌みたいな形状をしているので、きっとこの部分で殴られたらとても痛いはず。

 そんな風に思っていると、ベテラン女戦士のビギナカロリーナさんがそれを受け取った。


「貸してご覧なさい、このステッキはこう! 叩いて使う他にもこんな風に扱うのよ。ビッツくんだったかしら、あなたそこに立ってみなさい」

「……こうですか? あの、女戦士さん。オレは立ち木じゃないんだから痛いのは勘弁しておくれよ……ほげぇ!」


 立ち木のひとつを容赦なく先端の持ち手でバシリを叩いて見せた後に、今度はドギマギしているビッツくんを立たせた。

 そのままニッコリ笑ってみせると、次の瞬間に持ち手の部分をビッツくんの脚に引っかける。

 したたかにビッツくんは転げて尻もちをついた。


「おーっほっほっほ! 尻もちをついて、いいざまですわねビッツさん」

「どう? 色々な使い方があるでしょう。じゃあ次はドイヒーちゃんにかけてあげるわ。こういうのは自分で経験してみたら、どうして転がるのかわかるってものよ」

「え、ちょ、お待ちくださいな。わたくしスカートを履いておりますのではしたない真似は……アギャー!」


 有無を言わさない様に悪い顔で笑っていたドイヒーさんの脚へ、神速のかけ技をしてみせる女戦士さんである。

 見事にスッテンコロリンしながらチラリとスカートの中身、マイクロビキニみたいな下着を披露してくれた。

 見ちゃだめだ見ちゃだめだ。


「セイジさんはああいうおパンツが好きなのか?」

「い、いやどっちかというと白のレースが入ったかわいいのがが好きかな」

「ふむふむ……」


 手を貸してあげながらビッツくんを引き起こしてあげると、ホットパンツのお尻をパンパンンと叩きつつ彼女が思案気な顔をしていた。

 いったい僕は仮にも女の子を相手に、何をわけのわからない事を言っているんだ。

 明らかにセクハラだよ!


「さ、あなたもこれを予備の武器にするのなら、しっかり訓練しておきなさいね」

「まっまだこれを買うと決まったわけでは……」

「刃物を扱うよりもこっちの方が使いでがいいんだから、これにしておきなさいな!」

「わ、わかりましたわっ……」


 そんな感じでビギナカロリーナさんは、ドイヒーさんの個別指導に熱を入れはじめた。

 さて自分の鈍器を両手でニギニギしていた僕も、立ち木を相手に試し使いをしてみようと思う。


「セイジ、重い武器を振り回す時には、軸足をしっかりと重心移動してやることが大事だぞ」

「あ、シャブリナさん。教えてくれるの?」

「もちろん貴様はわたしの相棒だから、手取り足取り教えてやるのは当然だろう。相棒だからな、ハァハァ」


 シャブリナさんは会話の後半で鼻息を荒くしながら僕の背後にまわると、大きな胸を押し付けながら両手を前に回してくるじゃないか。

 そのまま無意味にお胸をゆさゆさと上下させたり吐息を耳元に吹きかけたりするものだからたまらない。


「こ、これじゃモーニングスターを振り回せないよ」

「そうか。じゃあやっぱりわたしと一緒に振るってみるのがいいな」


 話がまるで通じない。

 シャブリナさんはそんな変態顔を僕に見せつけながらも、武器を構えて持ち上げてみた瞬間だけは真剣そのものの表情になった。


「こう構えて、こう。いちど一緒にやってみせる。セイッ!」


 ブンっ。

 大きく腕を振ると鈍器の先端が飛んでいきそうな不思議な感覚になった。

 腕が伸びたというのだろうか。勢いが増して立ち木にしっかりとぶつかったのだ。


「剣とは違って、わずかに接触するだけでも威力が発揮される。ついでに鈍器は振り回すと遠くへ飛んでいく様な感覚に見舞われるだろう」

「確かに、飛んでいく感覚はあったよ」

「それでいい。だから足運びはしっかりと飛んでいく方向に体がもっていかれない様に意識するんだ」


 今度はひとりでやってみる事にする。

 名残惜しそうな顔をしたシャブリナさんだけれど、いったん離れて僕の動きを観察していた。


「やあっ! おおおっ」


 はじめは右手から振り込んだので、僕ひとりのときは左側から今度は振る。

 体ごともっていかれそうになる感覚を必死にこらえると、意外にベストな感触で立ち木の腹をバシリと叩く事ができた。

 面白くなったので、えい、やあと何度も振り回せば、ちょっとした戦士の気分が味わえるのである。


「どうだセイジ、鈍器は扱いがとても簡単だろう!」

「本当だね、でも僕はおじさんだから明日になったら腕が筋肉痛になりそうだよ」

「そんなヤワな事では結婚して家事をする様になったら、いい主夫が務まらないではないかッ。わたしが養ってやると言っても騎士団の遠征もある。掃除に洗濯、料理はわたしの担当だとしても、お布団を干したりすることもあるからなッ。待てよ、夜の営みにも体力が必要だと言うから、やはり貴様をこの際徹底的に鍛える必要があるか……」


 豊かな胸を持ち上げる様に腕組みし、シャブリナさんはエッチな顔で考え込んでいた。

 この顔はおちんぎん以外の事を考えているに違いない。


「さあ、素敵な新婚生活を迎えるためにも、体を鍛えようなセイジっ」

「そそそ、そうだね……」

「そうしてやがて、あかちゃんをその腕でいつか抱き上げる日もくる。アッハッハ」


 シャブリナさんが高笑いをすると上下にゆさゆさとおっぱいが揺れる。

 その隣でドイヒーさんがステッキを振り回して悪戦苦闘しているし、ティクンちゃんが驚いてビクンビクンと背筋を戦慄させていた。

 鈍器ひとつを買うのに、どうしてこんなに騒がしいんだろうね?


「セイジさん、オレはこの片手斧にしようと思うぜ。なあ聞いておくれよ!」


 立派な冒険者になるって大変だね。


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