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40 折れたりしないし硬さには定評があります!

「セイジ! これはいったいどういう事だ、どうして糞ガキがこの場に一緒にいるのだッ」

「そうですわっ。セイジさんは女性の趣味があまりよろしくなくってよ!」

「……そのう。セイジくんはワルがお好きなんですね、ワルにはちょっと憧れますッ」


 三者三様の反応を受けたのは、あくる日の訓練が終わった放課後の事だった。

 明らかに苛立ちを我慢している表情なのは、女騎士見習いのシャブリナさんである。

 それから微妙にあきれ顔をしているのがパン屋の娘ドイヒーさん。

 妙な連想を働かせているティクンちゃんは、ワルという言葉を口にするたびにビクンビクンとおかしな感動を体で表していた。


「ほら、ビッツくん。みんなの前で謝罪するって約束でしょ?」

「……お、おう。みなさん、先日はお昼ご飯の食事列を邪魔して本当にごめんなさいっ。貧民街では何でも早い者勝ちなので、ついそのノリで列に割り込んでしまいました」


 他意はありませんごめんなさい。

 改めて深々とおじぎをしてみせたビッツくんは、やっぱりどこからどう見ても悪ガキ少年そのものだ。

 それが、胸のあたりにささやかな膨らみを持っているのを知っているのは、僕だけの事だ。


 いやまてよ?

 今さっきドイヒーさんは女性の趣味が悪いみたいな発言をしていた気がする。

 とすると、みんなもしかしてビッツくんがビッツちゃんだって事を知っていたって事か……


「こ、これでいいかセイジさん。オレはしっかり謝ったからなっ。約束のビーストエンドの勇者さんパーティーのひとに、紹介してくれるんだろうなっ?!」

「わかったよ。そういうわけだからみんな、ビギナカロリーナさんのところにビッツくんを連れて行く事にするよ。彼……彼女は将来、迷宮暮らしをして貧民街のみんなに仕送りをしたいんだってさ。だから少しでも早く立派な冒険者になるために、実戦経験を積みたいんだって」

「お、おいセイジさん……」


 本当のところ、貧民生活が嫌で抜け出したいがために、少しでも名の売れている冒険者ギルドに顔つなぎをしたいと願っているのがビッツくんの思惑だ。

 貧民の仲間たちに仕送りをしたいなんて事は彼女自身ひと言も口にしていなかったけれど、それぐらい言っておけば班のみんなも殊勝な心掛けのビッツくんに気を許すかもしれない。

 などと思っていたら、さっそくそれに反応したのは、ビッツくんに罵倒されていた張本人のティクンちゃんだった。


「ビッツくんは、いいひとだったんですね。でもその必死さが、空回りしていたんですね……!」

「うるせえぞ!」

「ひっ」


 そんなこんなで課外後の外出である。


 本日の要件は、以前から予定していた鈍器を購入するためのお出かけだ。

 予算はダンジョン踏破に参加したので潤沢に受け取っているから、安い代物を無理して買う必要もない。

 そうなってくると予算に余裕があればあるほど選択肢が広がるので、そういう事は専門家に相談するのが一番いいだろうという事になったのだ。


「あら、みなさんお揃いじゃない。でもあれ? 知らない子がいるみたいだけど……」

「は、はじめまして。セイジさんと同じ訓練学校の生徒をしているビッツですっ」

「あら、顔なんか染めちゃってかわいらしい。セイジくんの彼女なのかしらね。うふふ」


 その専門家というのが、勇者シコールスキイさんの率いるパーティーで戦士役をやっていたビギナカロリーナさんだった。

 本人は長剣から戦斧やメイスの様な鈍器と、様々な武器を状況に応じて使いこなす事のできる、ベテラン女戦士さんだった。


「この悪ガキがセイジの彼女だなんて、とんでもない! セイジの隣に立つことが許されるのはわたしだけだと決まっているっ」

「シャブリナちゃんもウカウカしていられないわねぇ」

「ビギナカロリーナさんっ、セイジに聞こえる声でそういう事を言ってくれるなッ」


 年齢については聞いてはいけない事だと思って質問はしていない。

 けれど僕よりはずっと若いのは確かで、二十歳そこそこってところかな?

 それにしても、やっぱりビッツくんが女の子だって、みんな見ただけでわかっちゃうの?!

 女性はそういう判断が鋭いのかも知れない。


「じゃあさっそくみんなで武器選びをしましょうか。ビッツちゃんも、装備を更新したいと思ってるの?」

「はいッ。可能ならばいい武器が欲しいですが、予算との関係もあります! ところでこのナイフをどう思いますか……」

「どれどれ、見せてごらんなさい」


 ビッツくんは軽装の戦士、つまりアタッカーに類別される職種だ。

 確か斥候役を意味するスカウト職で、身軽な装備を武器にパーティーの先々で警戒するのがお仕事だね。


 してみると、彼女の使っている何の変哲もないナイフは、独りで迷宮の先頭を進むこともあるジョブを考えればいかにも頼りないモノの様な気がしたのだ。


「ふうん、よく手入れが行き届いているわね。普段使いのナイフとしては十分に使えるわ」

「ありがとうございます! やったぜセイジさん」

「でも、」


 ナイフを受け取ってシゲシゲと表裏を観察していた女戦士さんは、申し訳なさそうな顔をしてビッツくんにそれを返すのだ。


「強力なモンスターを相手にしたらすぐダメになるわね。スライムにはそもそも物理攻撃が効果ないし、ガーゴイルみたいなのが相手だと一瞬で刃こぼれする?」

「そ、そんな。オレの大切な武器が役に立たないだなんてっ」

「だから予備の武器は大切なの。いざダンジョンアタック中に武器を欠損してしまった時に、ひとつしかなければ命にかかわるでしょう?」


 さ、中に入るわよ。

 そんな風に笑った女戦士さんは、颯爽と武器屋の集まっている路地へと乗り込んでいった。

 まずは最初の目的である鈍器専門店《鈍器豊亭(どんきほうてい)》だ。


「そのう。この前見ていたのは、硬くてゴツゴツしているこのメイスだったのです」

「ふうん見せてごらんなさい。あら、結構大きさがあるのね、ティクンちゃんは体が小さいから、手に持って収まるこっちのメイスの方がいいかもしれないわ。魔導書もいつも手にしているのでしょう?」

「ぼ、僕はどれがいいですかね?」

「セイジさんにはこれがいいかしらねえ。男の子だし腕力で振り回していくのなら、メイスと双璧をなすこの星球鈍器はどうかしら?」


 すごくイボイボしています……

 棚から軽そうに手に取った女戦士さんは、ニッコリ笑って僕にそれを差し出した。


「いいでしょうこのイボイボ。これが相手の肌に食い込んで、強烈な刺激を与えてくれるのよ」

「うわっ、けっこう重量があるんですね」

「硬くて丈夫で、何度でも戦える」


 モーニングスターと呼ぶ打撃系鈍器で間違いない。

 ティクンちゃんの片腕でも容易に振り回せそうなそれと違って、僕のはズッシリと重みがあった。


「刃物とは違って、刃こぼれしたり折れたりしないのもいいですわねえ。わたくしも硬さに定評がある鈍器は好きですわ」

「わ、わたしもそっちのモーニングスターがいいかも、です……」


 ドイヒーさんやティクンちゃんも、僕の手に持ったモーニーングスターに色々と感想を並べてくれる。


「重量があるだけ、威力が増すのも鈍器の特徴だな。こいつで顔面を思い切り叩きつければ、ヘルメットを被った騎士でも一撃でノックアウトだ」

「ヘルメットごと殴られたら、卒倒してしまいそうだね」

「どうだセイジ、内側から込み上げてくるいきり勃った収まる事の知らない感情が、こいつで相手を力づくでどうにかしたいと言わないか! わたしは興奮するぞ、むしろセイジに、されたいかな?!」


 興奮気味のシャブリナさんは、モーニングスターを持った僕に近づいて残念な顔をした。

 これさえなければ美人の彼女は、鼻の下を伸ばしてフンスと僕を見下ろしてくるのだ。


「店員に言って、試しに立ち木を叩かせてもらえばいいわよ。シャブリナさん、指導してあげななさいな」


 そんな女戦士ビギナカロリーナさんの提案に、一も二も無く大興奮のシャブリナさんである。

 肩をガシっと掴まれて、狭い店舗の奥にあるという試し場に拉致られていくのだった。


「も、もう。手取り足取りそうさせてもらうとしよう。よしセイジ、ふたりっきりで、な? な?」

「わっわたしもそのう、メイスを試しに使ってみようと思いますぅ」

「せっかくなので、わたくしも硬くてツヤツヤして赤黒いステッキを試してみたいですわね。これなら杖が使えない狭い場所でも、おーっほっほっほ!」

 

 みんなでゾロゾロと移動を開始するので、取り残されたビッツくんがあわてて追いかけてくる。


「お、オレ様を置いていかないでおくれよっ。この鈍器、そうだオレもセイジさんと同じものが欲しいぞッ」


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