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04 チェーストー!(空振り)

「ティクン!」


 ビクン!


「ティクン訓練生!」


 ビクン!

 反応してるよ、あのモジモジ女の子。


「ティクン訓練生はこの中にいないか?!」


 ビクンビクン!

 やっぱり彼女がティクンちゃんみたいだ。


 年齢は一〇歳をちょっと過ぎた、大人の階段を昇りはじめた頃合いだろうか。

 ショートボブの赤髪で、顔の表情までは長く切りそろえた前髪に隠れてうかがい知れなかった。

 そんなモジモジ少女が恥ずかしそうに前屈みになっている姿を見ていると。

 小さく手を伸ばしてようやく自己主張をした。


「君がティクン訓練生か?」

「コクコク」

「ちゃんと名前を呼ばれたら返事をする様にッ」

「ひっ」

「返事はハイかイエスか、まったくダンジョンは最高だぜ以外の言葉は認めない。お前たちも覚えておくといい!」

「「「まったくダンジョンは最高だぜ!」」」


 新米訓練たちの返事に、教官はバナナを与えられたゴリラみたいな満足げな表情だった。

 シャブリナさんも「最高だぜ!」に力を入れて反応していたけれど、冒険者たちのよくわからないテンションにゲンナリした気分だよ。


「さあお前も言ってみろ」


 ゴリラ教官はズイとモジモジ少女に顔を近づけながら、耳に手を当てている。

 教官が求めている返事を待っているポーズだね。


「……」

「…………」

「……そのう」

「何だ? 返事はどうした。ハイかイエスかダンジョンは最高だぜか、お前には選ぶ権利がある」

「お、おトイレに行ってもいいですか? もう我慢の限界かもしれませんっ」


 モジモジ少女がモジモジしながら心情を発露した。


「トイレは受付前に済ませておきなさい。ダンジョンでは事前の準備を怠ると命に係わる事もある!」

「ひっ、触らないで。触ったらジョビジョバしちゃいますッ。あっ……」

「わ、わかった早く行きなさい。トイレは受付の奥にあるから。急いで!」


 モジモジ少女の肩に手を置こうとした教官まで、その言葉にビクンと反応した。

 ティクンちゃんはモジモジしながら内股で駆けて行く。


「今の絶対ちょっぴり漏れたよね」

「乙女の秘密に振れるのは騎士道に反するからな。わたしは何も見てないぞ」

「あの女の子、何のジョブに指定されたのかな。僕と同じであんまり戦闘職では役に立たなさそうな見た目だけど」

「たぶんシスター服の様なものを身に着けていたから、ヒーラーだろうな。回復職というやつだ」


 恥ずかしがり屋さんのヒーラーかぁ。

 ああいう女の子が野郎ばかりのパーティーにいて、心も体も癒してくれるのは素敵かも知れない。

 モジモジしたところも小動物っぽくて愛嬌があるよ。

 この年齢になると、見ているだけで癒しがあるってのは大事なんだ。


「次、セイジ訓練生ッ」

「はっはい!」


 ちょっとだらしない顔を浮かべていたかもしれない。

 僕はシャブリナさんに肘で突かれ、あわてて現実に引き戻された。

 急いでゴリラ教官の前まで駆け付けると、訓練用の剣を受け取ってダミー人形に向き直る。


「坊主は荷物持ち(ポーター)か……」

「は、はいっ」

「ポーターであっても、戦闘時にはサブアタッカーとして参加することもある。攻撃判定でいい数字を出すに越したことはないからな」

「わかりましたっ」


 長剣というのかな、訓練用とはいえ両手で持つとかなりズッシリくる。

 こ、こんな重たい剣をシャブリナさんや他の戦士たちは振り回していたの?!

 僕だって一応はいい大人だから、そういうところは顔に出したくない。

 童顔でチビだからって馬鹿にはさせないっ、大人の男の底力を見せてやる。


 僕は果敢に長剣を引き上げ、颯爽と駆け出す。

 重量を感じるのならば、その重量で重い一撃を叩きつけてやればいい。

 そこから立て続けの連撃を……


「チェーストー!」

「攻撃判定0、7、2、1。合計10! 命中判定は0だ、よって総合判定10!!」

「……ハアハア、ぜぇぜぇ」


 最初の一撃は遠すぎて空振りに。

 急いで引き上げた剣はダミー人形の胸元を掠めて、頭上から振り下ろした一撃が人形の鼻を撫でた。

 最後に息切れしたので人形に手を付いたら、それまで判定に加味された。

 な、情けない……


「もう少し接近してからダミー人形を叩くといいぞ坊主。その気概は買ってやるが、荷物持ちは体力勝負だ、精進するように」

「わかりました……」


 冒険者を目指す様な人間はみんな体力が有り余っていたらしい。

 僕はどうやら見た目通りの非力さで、彼らほど長剣を自在に扱えなかった。

 しかもゴリラ教官に「坊主」と言われ、白い歯を見せられながら、頭をガシガシと撫でられてしまった。

 三十路のおっさんがゴリラのおっさんに頭をナデナデされるとか……


 こんな悔しいことはない。

 頭が高いよ!


「班分けの結果は昼休み中に発表する。その間に食堂で飯を食って体を休めておけ」

「「「はい!」」」

「それから、班分けのメンバーを確認したら宿舎に移動して、自己紹介も軽く済ませておけ。午後からは実際に練習用ダンジョンに潜って君たちの実力を採点する!」

「「「わかりました!」」


 トイレに行ったまま帰ってこないモジモジ少女を除いて、全員の実力試験が終わった。

 肩を落とした僕は、シャブリナさんに慰めてもらう。


「息巻いてたけど散々だったよ……」

「まあ初心者に剣を振り回すのは難しいからな。少し稽古を付けてやるか」

「ほ、本当なのシャブリナさん?」

「訓練学校にいる間でよければ、このわたしが手ほどきをしてやろう」


 マジで役立たずの荷物持ちと思われるのは嫌だ。

 騎士のシャブリナさんがやってくれるのなら、基礎ぐらいは訓練学校に在学中に身に付くかもしれない。

 形さえ覚えれば、あとは自分で繰り返すだけ。


「ありがとうマジで、お礼に何でも言ってね。僕でできる事なら何でもしますから」

「ほ、本当かセイジ?! わたしは今言質を取ったからな!」


 感謝の気持ちを伝えたところ、シャブリナさんはとても残念な表情で興奮していた。

 鼻の下が伸びてる、美人さんが台無しだよ……

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