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39 貧民のヒーローです! ※

更新お待たせいたしました!

 思いつめた表情をした悪ガキ少年ビッツくんの言葉を聞いた僕は、はじめ彼が何を言っているのか理解する事ができなかった。


「なあ兄弟。同じ貧民街出身の兄弟だと思って、オレに協力しておくれよ」

「……」

「オレは大人の階段をのぼりたいんだ。あんなくそチビのお漏らしなんかじゃなく、ましてやノッポ女なんかじゃねえ。オレこそセイジさんに相応しいはずだ」

「…………」


 給湯室の暗がりの中でビッツくんは僕の手を取ってそんな事を言う。

 お、大人の階段だなんて。

 僕ははじめても経験していないのに、悪戯好きで何にでも興味があるお年頃のビッツくんに捧げてしまうなんてそんなの嫌だっ。


 けれどここで彼の手を振り払って逃げるよりも早く、ぐっとその身を寄せてきたビッツくんは壁際へ僕を追い詰める。


「なあ、セイジさん。いいだろう?」

「だ、駄目だよそういう事は」

「順番か、そうだよな。まずは順番だ。いきなりだなんて言わないから、そうだなまず手始めに……」

「そうじゃなくてっ。僕は男だよ?!」

「そうだぜ、セイジさんは男の中の男だ。だからオレは恥を忍んでお願いしようと思ったんだ」


 駄目だ、ビッツくんは震える声音で僕を逃がさない様に手を付きながら迫って来た。

 このまま僕の貞操は悪ガキ少年に奪われてしまうのか。

 助けてシャブリナさん! せめてはじめては女の子が良かった……

 などと妙な恐怖と緊張で目をつむってしまったところ、


「何しろセイジさんは、賢者としてダンジョン初踏破に貢献したんだろう? それもブンボンでは最近名を上げている冒険者ギルド《ビーストエンド》に協力して。すごいことじゃないか! あんなノッポ女やモジモジや、パン屋の娘なんかよりオレの方がダンジョンに潜っていればセイジさんの役に立てたはずだ!」

「?」

「セイジさんはオレたち貧民街のヒーローだぜ? だからさ、オレをビーストエンドの偉いひとに紹介してもらいたいんだ!」


 あ、そっちでしたか。

 僕がお尻の辺りを気にしていたら、意外な方向から自分が絶賛されてむず痒い気分になった。

 で、ですよね。


「オレはさ、あんな染みっ垂れた貧民街から早く独り立ちしたいんだ。息をするのも大変なあそこじゃ、悪事をするかゴミ拾いでもしていなきゃ生活できない。オレたちには手に職がないからな……」

「その気持ちわかるよ」

「けどよ、セイジさんは違ったんだろ? ホームレスをやりながら勉強を続けて、魔法文字っていう難しい読み書きを勉強したって聞いたぜ」


 オレなんて自分の名前も書けないんだ。

 そんな風に自嘲気味にそんな言葉を口にした彼は、ため息混じりの鼻息をフンと漏らす。

 その鼻息が僕の首筋に吹きかかって、妙な艶めかしさを感じてしまったからたまらない。


「冒険者訓練学校に入らなきゃ、もういっそ体を売って、金稼ぎするしかねえかなと思ったところだぜ」

「それはいけない。その、自分を大切にしなきゃ」

「甘っちょろいなセイジさんは、けどありがとよ。オレみたいな出るところも出てなくて色気も無いヤツより、セイジさんだってノッポ女やパン屋の娘の方がいいよなぁ……」


 ……あれ?

 黙ってビッツくんの言葉を聞いている僕の中に、ふたたび疑問と齟齬が広がっていく。


「だから、オレみたいな痩せっぽちが売春するのは諦めたんだ。その点、冒険者はいいな! 確かに冒険者が長く続けられる商売になるかどうか、それは本人の才能と努力次第。けれど性病で死んでしまう可能性が圧倒的に高い娼婦になるより、一獲千金の可能性がある」


 そんな風にウットリと僕に語って聞かせてくれるビッツくんは、少年のような顔をしていながら表情が少女みたいだった。

 頬を少し染めて言葉遣いは荒いけれども、ショートヘアの横髪を耳にかける仕草は女の子っぽかったし、何より僕のおちんぎん以外のところがビッツくんに反応している!


「上手くすれば引退して、冒険者ギルドの運営として長くその道に関わることもできる。勇者や英雄になれる事は、やっぱり何の希望もない貧民街の人間には憧れだしよっぽど現実的な選択肢だぜ。セイジさんみたいになッ」

「…………」

「あ、わりぃセイジさん。オレってば、他の班のメンバーなのにセイジさんに無理なお願いばっかりして。お礼は何だってするからよ! そのかしビーストエンドの偉いひとにオレを紹介してくれないかな、荷物持ちでもダンジョン掃除でも、何でもしますから!」


 壁ドンから僕を解放してくれたビッツくんが、頬を染めながらそんな風に言ったんだ。

 だから僕は妙なドキドキを覚えながら、こんな風に切り出した。


「あ、明日さ」

「おう」

「班のみんなと一緒に、鈍器を買いに街の武器屋さんに出かける予定があるんだけれど。その時にビーストエンドの勇者パーティーのひとに案内してもらう予定になってるんだ」

「おおおっ」

「その時に紹介してあげてもいいかな……」

「ホントか?!」


 飛び上がる様に喜んだビッツくんは僕に抱き着く。

 そうして抱きつかれてわかったんだ。

 ビッツくんの痩せた体に見えたその胸に、ちょっとだけ膨らみの様なものが存在している事を。

 こう見えてビッツくんは、声変わりをする前の少年に見えて、女の子だったのだと。


「その代わり、ビッツくんはさっき何しますからって言ったよね?」


 急に気弱な表情を浮かべたビッツくん改めビッツちゃんは、挙動不審に何度かおかしな顔をした後にこう返事をした。


「お、オレも貧民街出身の女だ。一度言ったことをひっくり返す事はない。さあ何でも要求しておくれよ!」

「じゃあ、僕の班の仲間にあんな風に接することは今後やめてよね」

「……えっ、ああそっちかよ。チッ、体を求められるのかと早とちりしちまったぜ。アハハ」


 急に素っ頓狂な返事を飛ばした後に、妙な安堵を浮かべるビッツくん。


「わかった。本当はセイジさんみたいなひとには、同じ貧民街出身のオレの方が相応しいとか思って、気に入らなかったんだ。けど、班は違うけどセイジさんが言うならそうするぜ……」


 お風呂のお湯を張った大きなたらいを運びながら、僕は手伝ってくれる彼女を凝視する。

 ビッツくんの中でいったい僕はどんな人物像になっているんだろう?

 食い詰め貧民のホームレスで、たまたまどういうわけか魔法文字がわかるだけの荷物持ちなのにね。


 しかし貧民のヒーローとか言われるのは、意外にも悪い気がしなかった。

 いいね!


挿絵(By みてみん)

ビッツくんの立ち絵を公開しました!

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